人けのない林道、その木陰で車は停まっていた。
脱がされたベスト、スラックスは後部座席に投げられ、すらりと伸びた白い太ももが運転席の棚田の脚をまたぐ。
白いシャツのボタンは全開、シンプルな紺色のブラは形を崩し、乳房に成る果実を露出させている。
棚田もボタンを外して前をはだけ、紗矢に噛みつくようにキスをする。
彼の首に、紗矢は両腕をまわしてしがみついた。
ジーンズ越しにじっとりと腰をすりつけられ、紗矢は無意識に腰をくねらせる。
夏とはいえ、すっかり夜気に支配される車内はそれなりに涼しかったはずだが、今や二人の熱気と吐息で重い空気に満ちていた。
棚田のごつごつした手が、紗矢の細い腰を撫でた。
「んん……!」
くすぐったさの中に走るようなものを感じて腰を跳ねさせれば、棚田が口の端を持ち上げて笑った。
「笑わないでよ」
「悪い。可愛い声だな、と思って」
棚田は指先で腰をいじる。紗矢は目を閉じてそれをやめさせようともがいた。
「も、やだってば……! ちょっとっ! 本当にくすぐったい!」
口調を強めて言えば、棚田は大人しく指を止め、紗矢を見つめる。
「いじわる」
「そうか? くすぐったい、は性感帯になる」
「知らない……それ」
紗矢が車の天井に手を伸ばし体勢を整えていると、待てないのか棚田は目の前の果実に口をつけた。
「あっ……!」
棚田はもっちりした紗矢の乳房を揉み込んで、背中に手を回した。
これでは逃げられない。
乳房の果実を唇をすぼめて吸われ、舌先でつつかれる。
ぞくぞくと腰に走る快楽に息が乱れた。
顔が熱い。
「顔、こっち……」
棚田が掠れたような声で紗矢の顔を導いた。
目が合うが、すでにぼんやりとして彼の表情が見えない。
目だけが不思議にきらめいていた。
じゅう、と唾液を吸いながら唇を味わわれる。
棚田は紗矢の顎を固定したまま自身の顔の角度を変えて、深く唇を重ねて舌を探ってきた。
「ん、む……」
分厚く熱い舌で口の中を隅々まで探られ、舌をなぞられる。脳まで浮かされそうな感覚に腰が揺れた。その腰を棚田はしっかりと抱きしめる。
お互いの胸が隙間なくくっついて、固くなった果実が汗で滑って快楽を生んだ。
唇がようやく解放され、そのまま息を吸い込む。
棚田の舌先とつながっていた唾液が垂れ、紗矢の胸元を汚した。谷間に流れていく。
棚田は紗矢の腰をくすぐりながら、そろそろとお尻の方に指先を忍ばせる。
紗矢は棚田の肩に頭を預け、呼吸を整えていたが、ショーツに出来た隙間に体を強ばらせた。
節だった固い指先が、ショーツの中でお尻を撫でる。
奥まで伸びようとする指の動きに気づき、紗矢は顔をあげた。
棚田が目を合わせる。
彼が何かを言う前に口づけた。
そのまま彼の肌を撫で、耳元から首筋まで、皮膚の薄い部分を舌でなぞる。
汗とともに彼の匂いが立ち上った。じっとりと重く、鼻腔が押し広げられるような匂いだ。
手のひらで胸板をなぞり、お腹に脇腹に指先で触れ回る。棚田の下腹あたりがぴくりと反応した。
棚田によって手を止められ、目を合わせると彼は表情をわずかに崩していた。くすぐったいと笑うような、何かに耐えるような。
「なんだ、けっこう乗り気だな」
「というより、踏んばらないと流されそうだから」
「流されれば良い」
「今はダメ」
「俺を試してる?」
「……どうかな……どっちかっていうと、自分を試してるかもしれない」
紗矢の言葉に棚田は眉を寄せる。どういう意味か計りかねるのだろう。棚田は紗矢の腰を両手で掴み、持ち上げた。
紗矢は浮いた上体のお尻が冷たく感じ、それの意味するところを知って全身を熱くする。
ショーツが期待に溢れる果汁のような愛液のせいで重みを増しているのだ。
紗矢は不安定な体勢になり、シートの肩を掴むようにした。棚田が紗矢の膝に手を入れ、横抱きにすると前を向かせる。
視界いっぱいにフロントガラスからの風景。
お互いしか見えなかった時と違い、急速に現実に意識が引き戻される。
「こ、これ恥ずかしい」
「目を閉じてな。なんなら目隠しでもしようか」
「へっ?」
棚田の分厚い左手が紗矢の目元を覆う。
それと同時に足を広げられ、ショーツ越しに秘部をなぞられた。
ちゅぷっと破裂音がなって、すぐに熱が昇ってきた。
「あっ……!」
「濡れてる……」
棚田は背後から首に唇を這わせ、うなじに吸い付く。
背中全体に彼の体温を感じる。
すっぽり包まれ、体格の違いに紗矢はどきどきを募らせた。
「あ……んん」
上顎をこするようにして高い声が出て行く。さっきと違う声の調子に、紗矢は自ら戸惑った。
棚田が耳を口に咥えながら囁きかける。
「さっきより色っぽいな。後ろからされんの、好き?」
「か、かもしれな……あっ!」
棚田の唇が肩をかすめ、紗矢は体を震わせた。
ぞわぞわとあやしげな快楽だった。
「肩弱いんだな」
棚田がふっと笑ってそう言う。紗矢の目を覆っていた左手を肩におろし、指先で弄ぶ。
紗矢はそのまま棚田にもたれかかり、目をぎゅっと閉じて口元を押さえた。
背中を預け彼の体温を味わうと、否応なく自分は女なのだと思い知る。背骨がぞくぞく震えた気がした。
身じろぎして座り直すと、棚田のモノがジーンズ越しにお尻の谷間に当たった。
「……大きくなってる」
そう熱を逃がすように息をしながら言うと、棚田は紗矢の手を導いて、そこにあてがった。
「そのまま宥めてくれ」
「……うぅ~……っ」
紗矢は恥ずかしさから思い切り眉を寄せ、棚田が外したベルトと、開いたジッパーの隙間から手を入れる。
重みを感じるほど熱くなったそれを、下着越しに撫でると紗矢自身も熱がどんどんせりあがってくる。
息を吐き出すとそれは震えていた。
「熱い……っ」
「君が? 俺が?」
「どっちも……あっ!」
甲高い声が出たのは、棚田の指先が胸の果実をきゅうっと摘まんだせいだ。
じわっと下腹部に快楽が溜まって、紗矢はそれから逃げるように前のめりになった。
「逃げるのかよ」
「違うぅ……っ、ん~……!」
片手を伸ばし、ハンドルにもたれながら荒く息をした。
(こんなに興奮するものだっけ……)
かろうじて残る冷静な部分が、そんなことを考えた。
棚田が紗矢の背中に体をすり寄せ、首筋に緩く歯を立てる。
「はっ……」
思わず息を飲む。めまいが起きそうなひりひりする快楽に、腰が跳ねた。
腹を空かせた黒豹に襲われたら、どうにもあらがえそうにない。そんなことを考えてしまう。
紗矢は棚田の髪に手を入れ、彼の耳から首筋を撫でた。
「ねぇ、ちょっと、待って……」
「……何を?」
棚田は聞き返しながらその手を紗矢の太ももに這わせている。
もはや意味をなさないショーツの脇から指先を入れ、ゴムを弾いて遊びだした。
パチン、と肌が軽く叩かれ、果汁がぬちぬちと音を立てる。
「あの、その、私、な、慣れていないので……あんまり急かされると……準備が……」
「かなり濡れてるけどな。ほら」
紗矢が制止する間もなく、棚田は恥毛に覆われた奥に手を入れる。
ごつごつした指が、意外にも繊細に表面をなぞった。熱に溶かされそうな快楽に体が強ばる。
「あっ……!」
「脚、開けよ。その方が楽だろ」
棚田は紗矢の両脚を持ち上げ、ショーツを抜き取ると開かせた。
人けがないとはいえ、フロントガラスからどう見えるだろうか。紗矢は全身から汗が吹きでそうなほどに体温をあげた。
「や、やだやだ。これは恥ずかしい!」
「ああ、道理で締まるはずだ。恥ずかしいのが好きなのか」
「違うよっ! 多分!」
「多分、ねぇ」
棚田はどこ吹く風だ。指先ですっかり濡れた花ヒダをなぞり、敏感にひくつく赤い若芽を緩くこする。
紗矢は声を押し殺しながら、つい棚田のモノを強く押さえてしまう。「うっ」とうめき声が聞こえ、慌てて手を放した。
「ごめんなさ……」
「いや……問題ない」
紗矢が振り返ると、棚田は特に気にしていない様子で紗矢の手を再び取る。
そのまま指にキスをすると、顔を近づけて唇を合わせた。
軽く触れあうだけで離れ、物足りなくなった紗矢は彼の頬に手を伸ばす。
「もう一回……」
棚田は紗矢の要望通り、口づけた。またもすぐに離れてしまう。
紗矢は眉を寄せ、唇を舐めると「もっと」とねだってみせた。
棚田は紗矢の肩を撫で、角度を変えて深く唇を重ねる。舌先同士を絡ませながら、紗矢の果汁をしたたらせる穴に指を進ませた。
紗矢は咄嗟に体を強ばらせたが、中は容易に棚田の指を飲み込み、ふっと力を緩めるととろとろと果汁が流れ出てきた。
「シート……汚れるかも……」
「案外、余裕あるな。俺以外座らないから、気にしなくて良い」
「中あんまり感じないから……」
「ここも?」
棚田の指がぐるりと中をかき混ぜた。下腹部あたりを軽くノックされ、紗矢は鈍い温かさを感じるものの、意識を乱すほどではない。
「あんまり……」
「それは良かった」
「そうなの?」
「男に染まってない証拠だろ?」
紗矢は眉をひそめ、背中を棚田に預けた。ぬるま湯に浸かっているみたいだ。体が重く、しかし心地が良い。
棚田の手が胸に伸び、肩に口づけされるとくすぐったさに声が出た。
「くすぐったいったら」
「余裕があるなら、俺のもでかくして」
棚田はシャツを脱ぐとシートに敷いた。ジーンズと下着を下ろす。
「わかった……」
紗矢は腰のあたりに両手を伸ばし、すでに熱くなった棚田のモノに触れた。
目では見えないものの、ギチギチに固く、太い棍棒みたいだった。手でしごくと先端から潤滑油のような我慢汁が溢れて紗矢の手を濡らす。
棚田が耳元で熱く息を吐き出した。
「けっこう、上手いな」
「……そう? 生地伸ばすために色々道具使うからかも……」
「道具か……今言うと意味深だよな」
「……棚田さんてやらしい」
「あんたが言うか」
こんなに濡らして、と棚田は指を引き抜き、紗矢の眼前で指を開いて見せた。
粘り気のある透明な果汁――愛液が指を重々しく垂れていく。
「ちょ、ちょっと……!」
紗矢が意表をつかれている間に、棚田はそれを自身の口内に入れてしまった。
紗矢は背中が燃えるように熱くなり、手を止めてしまう。
「ずいぶん、酸っぱい」
「こ、ここでそんなこと言わなくていいからっ」
「やっぱり車は狭いな……舐めるに舐められない」
「言わないでよ~っ!」
紗矢は振り返り、棚田の口を覆った。目が合い、棚田はそれを細めると紗矢の無防備な腰を抱いて体ごと向き合わせた。
「そろそろ挿れたい」
「……」
ストレートな要望に紗矢は呼吸が止まるかと思った。
車内がシンと静まり、紗矢は両手で顔を隠し、項垂れると「うん」と言った。
棚田は紗矢の髪を解き、指通りを試すようにすると彼女の顔を上向かせて口づける。歯をなぞりながら鞄の中に手を入れ、目当てを見つけると唇を離した。包みの封を切り、薄いゴムを取り出すとモノにかぶせてゆく。
「こっち抱きついて」
棚田に促され、紗矢は膝立ちになり彼の肩に手を置いた。
「俺の掴める?」
「うん……」
紗矢は腰を下ろしながら、棚田のモノをとらえる。それはびくびく震え、まるで別の意思を持っているようだ。
「ゆっくりで良いから」
「う、動かないでね?」
「ああ。今は」
棚田の手が紗矢の腰を掴んだ。モノが秘部に触れ、果汁に濡れる。熱い塊が若芽と花ヒダをなぞり、息でもするようにぱくぱく開く穴にきゅう、と吸い付く。
「ああ、どうしよう……」
紗矢は唇を噛んだ。
棚田は急かすことはせず、紗矢の頭を撫でると顔を覗き込んだ。
「何が?」
「緊張する……怖いかも……」
「やめるか?」
「ううん……きついでしょ?」
「何とでもなる」
「いいの。そのつもりじゃなきゃ誘いに乗らないから……ちょっと、緊張しただけ……」
紗矢はふっと息を吐き出すと心持ちお尻をあげ、ぐっと腰をしずめた。
「くっ」
と、棚田が軽くうめいた。濡れているとはいえ、中はそれほど広くない。
紗矢は火をまとう棍棒を中に入れるような熱さに顔をしかめ、中の壁をぞろぞろ擦られる感覚に背筋を震わせた。
気持ちいいというより、満足感に近い。
先端の膨らみがすぽん、とハマり、紗矢は深く息を吸った。
こんなに感じるものだっただろうか。
「……うぅっ」
喉がひりつき、細い声が出る。
紗矢は足を強ばらせ、棚田の肩にしがみついた。
「そのまま、俺にしがみついてろ」
「え……?」
棚田は紗矢の背をしっかり抱きしめると、姿勢を変えて彼女の脚も抱えた。軽く揺さぶり、恥毛の下で震える若芽をなぞる。
「あぅっ」
「もうちょっと我慢してくれ」
棚田は紗矢の腰を持ち、ぐぐっと押しつけた。
ぬちゅっ、と音がして、中の壁が更に押し広げられる。
じーん、とする電流に似たものが頭にまで走り、紗矢は目尻に涙を浮かべると棚田の肩にしがみつく。
奥まで来たら、これはおかしくなりそうだ。
そんな予感が走り、下腹部があやうい熱を持ち始めた。
びくびくと子宮が期待に震えるよう。
初めての体の反応に、紗矢は泣きそうになった。
「あっ、ねぇっ……」
「待てない。そのまま」
「ちが……っ、イキそう……!」
棚田はこめかみに汗を浮かべ、顔を見ると一瞬だけ目を輝かせた。そのまま乱暴に口づける。
「イけばいい」
「ん……!」
「イけよ」
ぴたり、と最奥に棚田のモノがはまる。
その瞬間に紗矢は全身に火が灯ったような感覚を味わった。
「あっ……!?」
ぞくぞくと下腹部が震えた、と思うとそれが一気に全身に伝わる。つま先まで震え、紗矢は怖くなって棚田をきつく抱きしめた。
「……うぅっ!」
中がきつく締まる。
棚田がぐっと唇を噛んだのが見えた。
息を整え、手の力を緩めると棚田が顎を持ち上げた。
「……イった?」
「……多分……あっ、動いちゃだめ……」
軽い絶頂を味わったためか、緩い動きにも中がまとわりつくような快楽を得る。
きゅうきゅうに締まり、棚田のモノをなぞるように内壁が動いた。
「……すごいな。ぴったりだ」
「苦しくない……?」
「ああ」
棚田は息を吐き出すと、紗矢の乳房を掴んでもみくちゃにする。細い首筋に舌を這わせた。
熱い舌でなぞられ、重い熱が腰に走る。
紗矢は指先を口に咥え、肩を震わせた。
「すげえ良い。腰、動かしてみろよ」
紗矢は首を横にふった。
棚田は口の端を持ち上げると紗矢の内ももを撫でる。
「じゃあ好きにするぞ」
「や……っ!」
棚田は紗矢の背をきつく抱いて、脚を開かせると腰をぐいぐい押しつけた。
モノが出入りする度にぐちゅぐちゅ鳴って、肌と肌がぶつかる。
車がぐらぐら揺れ始めた。
「ん~っ……!」
紗矢は息も絶え絶えになりながら、必死に棚田にしがみつく。
耳元で棚田の荒い息づかいが聞こえてきた。
首にかかる息が熱くて仕方ない。
「熱い……熱いよっ……」
「熱いっ? もう一回イキそう?」
「イキそう……っ」
紗矢がそう言った瞬間、棚田が下唇を噛みながら奥にモノをすりつけ、腰を回した。
「あっ!」
体の底から奔流が起きたかのように、快楽がまた押し寄せる。
気づくと全身が小刻みに震え、それを押さえようとした棚田の腕が痛いくらいに腰をとらえていた。
「……ぅうっ」
紗矢はうっすら目を開け、棚田を見た。
目がぎらぎらして、夜の闇の中で金星のように輝いている。
「……やだ……っ、こ、こんな……」
「こんな? 何?」
「こんな……感じたことない」
まだ体が震えている。紗矢は手を離す。汗で滑りそうだったのだ。
中では棚田のモノがまだ勢いを残したまま。中の感覚も鈍くなっているが、頭も鈍くなりつつあった。
「どうしよう……」
「流されろよ」
「いや……」
目に涙を溜める紗矢に、棚田は口づける。唇を吸って離し、耳にかかった髪を指ではらった。
「体の相性が良いって奴か?」
「そうなの……? 棚田さん、気持ちいい?」
「聞かなくても分かるだろ?」
棚田はそう言って、腰をくいっと動かした。
内壁をこするモノは確かに熱く、びくんと震えて奥に収まろうと動いた。
乳房がそれに反応し、痛いくらいに張り詰める。
「わ、私ばっかりイってるから……」
「俺のが良かったんだろ? 顔こっち」
紗矢が顔を近づけると、棚田は口を開けて紗矢の唇を求めた。
舌が触れあうと、火傷しそうなほどの熱さに肩がびくりと震える。
唾液を吸われ、彼の喉が鳴る。のど仏が上下するのを見ると、頭がぼうっとしてきた。
「ねぇ……」
「ん?」
「もうイって……?」
「疲れた?」
「ううん……棚田さんにも満足して欲しい」
「してるよ」
「そうじゃなくて……」
紗矢が思わず笑うと、棚田は目元を和らげる。
「分かってるよ。でも、満足はしてる。体はまあ、なんとでもなるしな」
「それって……」
嬉しいってこと? 紗矢がそう言う前に、棚田は紗矢の手を開かせ、指を絡めた。
汗ばんだ手のひらが重なり、つなぐと綺麗に密着する。
「わかった。いったん、イクことにする」
「へ……」
いったん、とはどういう意味かを訊く前に、棚田は紗矢の腰に手を回し、唇を噛みながらぐっ、と腰を動かした。
「あ……んん……」
「腰、浮かせるなよ。そのまま」
「わかった……あぁっ!」
じん、ときついくらいの快楽に紗矢は身をよじり、喉をそらせて胸を押さえた。
棚田がそこに顔を寄せ、むき出しの喉に吸い付く。
つないだ手が横に伸ばされ、ダンスでもしているみたいに体が自然とくっついていく。
心音が聞こえるほど肌が触れあい、紗矢は棚田の背にしがみつくと揺さぶられる度にパチパチ爆ぜるような官能に声をあげた。
棚田のモノが猛々しく中を穿って、紗矢は抗うことも出来ず息をするばかり。
何かにしがみついていないと意識が飛んでいきそうだった。
「んむぅう……っ」
声が出そうなのを堪えると、棚田が頬を荒く撫でて囁く。
「声出したくないなら、俺の肩噛んどけよ」
「歯形ついちゃう……っ」
「心配する余裕はあるんだな」
「からかわないでっ」
中がぎゅうぎゅうに蠢いた。穴がきつく締まって、また限界が来ると訴える。
「ああ、奥広がった」
棚田はそう言うと、紗矢の体を抱きよせ、シートがガタガタ言うほど体を揺さぶる。
「……うぅうっ」
「あつい……もう出る、我慢してくれ」
紗矢は何度も頷くと目を固く閉じた。目尻に涙が流れ、鼻をすんすん鳴らすと棚田に抱きつく。
棚田が息を荒くしている。そろそろ限界らしい、手を強く握って、腰を速めた。
ずくずく壁を擦られ、じんじんと最奥が熱を高めた。
紗矢がはぁっと息を吐くと、最奥が突然、弾けるようにうねった。
「あぁ……っ!」
一際高い声が出て、脚が跳ね上がる。棚田が体を押さえ、ぐいっと体をすり寄せ……「ぐぅっ」と喉から引き絞るような声をあげる。
ぶわっと中で熱いものが迸り、紗矢は思わず両脚を彼の腰に絡める。
互いの体が震え、それが収まると肩からどっと力が抜けた。
「……はあ……」
「……顔あげて」
紗矢はすでに睡魔に襲われたが、声をかけられ重いまぶたをあげる。
棚田は口で呼吸しながら彼女を見つめ、頬を包んで口づけた。
「今日泊まれよ」
などと棚田が言ったが、紗矢はぐったりとして頭もうまく動いていない。
「……うん」
そう頷いたことをかろうじて覚えている。
車が走っている間、紗矢は眠っていたらしい。
着いたぞ、と声をかけられ辺りを見たが、まるで知らない住宅街の風景に首を傾げた。
窓から棚田の顔が見える。
「ここどこ?」
「俺の住んでるマンション。疲れてるな」
「うん……激しかったから」
「そうか? ほら」
棚田はご丁寧に紗矢のシートベルトを外し、手を取って立たせた。
「静かな所ね」
「まあな。人気がない」
「駅から遠いとか?」
「それもあるけど、一番はインフラがいまいちだ。俺はありがたいけど」
少し古めのマンションに入り、棚田の部屋を目指した。
紗矢は脚が震えるのはなぜだ、と思い、緊張のせいではないと気づくと一人顔を赤らめた。
棚田の後について部屋に入る。ガチャン、と施錠の音もどこか懐かしい音だった。
「けっこう広い……」
キッチンとリビングにはあまり物がなく、カーテンの色は鈍重。
最低限といった家具類に、無造作にジーンズが下がっていたが、それ以外は整理整頓されているようだ。
「風呂をわかしてくる」
「あの、要らない。シャワーだけで」
「そうか?」
「だって寝ちゃいそうだし……」
「……阿川さんは、一緒に浴びる派? 浴びない派?」
「ええ? そんなの知らない……」
音楽関係の本がずらりと並んだ本棚に目が行った。
それからパソコン、スピーカー、スティック類。
ようやく目が冴えてくると、紗矢は好奇心にかられてきょろきょろ見てしまう。
「先浴びろよ。べたべたしてるだろ?」
「そうする。あ、ねえ……なんか阿川さんって言われるの、他人行儀っていうか……変な感じがするんだけど」
紗矢がそう言うと、棚田はそんな彼女の顎に手をやり、猫にでもするように撫でた。
「紗矢」
「うふふっ。それくすぐったい……!」
「猫っぽいな、あんた」
「そう? 嬉しい」
棚田が手を止め、紗矢は浴室に向かった。シャワーを浴び、洗濯機に服を入れる。
棚田の部屋着を借りて部屋に戻ると棚田が服を脱ぎながら浴室に向かう。
「適当にくつろいでてくれ」
「うん」
さっぱりした気分で椅子に座る。タバコがかすかに匂うが、嫌な空気ではない。
髪の毛を拭きながらスマホで音楽を聴いていると、シャワーを終えた棚田が冷蔵庫から水を取り出した。
「飲むよな」
「うん。ありがとう」
コップに注がれた水を飲みながら、紗矢はあることに気がついた。
「そういえば、テレビってないね?」
「ああ。要らないから外した」
「そうなんだ。でも音楽関係の映像とか、見たりしないの?」
「それはあっちでやれる」
棚田は天井と、真っ白な壁を指さす。それからDVDとブルーレイを収納してある棚。
「スクリーンってやつ?」
「ああ。テレビは……うるさいだけで有益なものじゃない」
「へえ。いいよね、棚田さんってああいうのに流されたりしなさそう」
「というより、無理だな。我が強すぎる」
「芯が強い、でしょ? 休みの日って何してるの?」
「……軽く運動して、酒飲んで。ぼーっとしてるくらいか。きみは?」
「映画見たりかな。本も好きだけど……」
会話しながら、空気を入れ替えるためにベランダに出た彼に紗矢はついていった。
シンとした夜の空気が頬にひんやり気持ちが良い。
遠くに見えるのは都会の夜らしく明るい光の塊だ。手すりにもたれながら棚田を見ると、彼は不思議なほど穏やかな目をしていた。
「ちょっと良い?」
紗矢が断りを入れて、棚田の前髪を指先でかきあげる。
眉まではっきり見えるようになり、紗矢は満足して頷いた。
「うん。すてき」
「俺の目が?」
「うん」
棚田の黒目が濡れた宝石のようにきらめいている。
肝臓が強いのか、白目もきれいなものだった。
それが静かに近づき、頬から耳を撫でられると紗矢は甘えたな猫のように目を閉じる。
額に唇の柔らかい温かさが触れ、目元に触れ、頬に触れる。
ふと温もりが離れて紗矢が目を開けると、棚田は首を傾けて見つめていた。
「これ以上やったら後戻り出来ねぇな」
彼なりの警告に、紗矢は頷いて耳元の手に自分の手を重ねる。つま先立ちになって迎えると、棚田が腰を抱いてキスを落とした。
「もう一回。ベッド行こう」
ささやきに頷くと、再び口づけを交わせた。