りんごの花 小説

「りんごの花」第11話 傷口

 その次の休みの日、律はホテルの喫茶ルームを訪れていた。
 呼び出されたのである。
 相手は萩原 由希子。
 佐竹のお見合い相手だ。
 自分には縁のなさそうな、広々としたホール、高い天井に、下がるシャンデリア。
 きっちりとまとめられた髪型、スーツ、エナメルシューズの従業員が皆折り目正しく働いている。
 律は宿泊客ではないが、それでも充分なもてなしを受けて、座り心地のよいソファ席に案内されたものだ。
(美術館でも応用できるかしら)
 などと考えたのは、思考がこの頃ふわふわしているためだ。
 泥棒が入ろうとしたことにも動揺し、飯塚が戻ってこなかったら、と想像すると恐ろしい一方、彼を頼ってばかりもいられないと気づく。
 まさか佐竹の見合い相手から電話がかかってくるとも思わなかったし、こうして直接会うなどとも思わなかった。
 向こうはいわゆる「元カノ」に、なぜ会おうと思えるのだろうか。
 律とて人間である。
 そして女なのである。
 恋人を取られたことに対するわだかまりはあるのだ。
 いらいらすると思い出すのは飯塚の袖口から香る女性ものの香水だ。
 飯塚と同居して数か月経つが、明らかに女性の影を見せたのは初めてだった。
 ただの同居人、と律は自分に言い聞かせる。彼にいらいらするのはお門違いだ。
(やっぱり女性としての魅力が、私にはないのかな……)
 いらいらの矛先が自分に向いた時、ヒールの音が近づいてきた。
 律は顔をあげる。
 現れたのはいつか写真で見た、子犬のような目元のセミロングの女性。
 少しふっくらとした体のラインが可愛らしい、自分とは正反対のタイプ。
「初めまして、萩原由希子と申します」
 電話と同じ、女の子らしい声だった。

***

「私と秀彦さんが出会ったいきさつはご存じ……ですよね」
「もちろん」
 何せスーツの準備から何まで手伝ったのだ。
 律は自分の声が尖るのを自覚したが、かといって親しげにする理由も見つからない。
 そのまま話すことにした。
「おつきあいされている女性がいることは、私も存じていました。二人で話す時、秀彦さんがそう言っていたので」
「そうですか」
 律は紅茶のカップを持ち上げた。指に力が入って、気をつけなければ落としてしまいそう。
 由希子の方は落ち着いていた。
 怖いもの知らずなのか、彼女は親しげに律を見ては微笑んでいる。
 嫌味のない笑顔だ。友人なら微笑み返すだろう。
「だから、私はきっと要らないだろうなと思っていたんです。お見合いだって父が勝手に進めただけだし、断られるだろうって。でも、一週間後にお電話がかかってきて」
 律はぴくりと眉をあげた。
 確か律の失踪中である。
「『また会いたい』って……驚きました。あなたがいるのではって訊いたら、『僕には過ぎた女性だった。一緒にいると出来の悪い僕はいつも息が詰まっていて、あなたと話すと心地良い』って……初めはどういう意味か、分かりませんでした」
 由希子は包み隠さず話す。無邪気な様子から、嘘ではないのだろうと思う。
 それを悟ると、律は心臓を潰されるような感覚に唇を震わせた。
「でもあなたにお会いして分かりました。美しくて、品もあって、賢くて。お仕事も美術館で働いていらっしゃるとか。私は仕事場でミスばかり。とてもまね出来ないお仕事で、とても憧れます。おうちでもお食事に、お洗濯に、お掃除に……家はいつも綺麗だったって……」
「そんなことまで話を?」
「ごめんなさい、ただの会話の中で、彼はよく『家ではだらしないんだよ』って。その時にあなたがやってくれてたからそれなりに格好が決まってただけだって。私も家事は苦手なんですって言ったら、『僕も家事は得意じゃない』って、そういう話になっただけなんです」
 それでも自分のことを勝手にさらけ出されたことに、律はトイレでも覗かれたような気分になり額を押さえた。
 由希子はおしゃべりだ。
 そして何が言いたいのかまるでわからない。
 ぼうっとしてきた頭で窓を見れば、昼の光が徐々に傾いていくのが見えた。
(早く帰りたい)
 正直にそう思えば、かつて飯塚が作ってくれた高知の鍋の、焦げた匂いが鼻腔に蘇る。
 目頭が熱くなった。
「私、本当に料理が下手で、よく焦がしてしまうんです。でも秀彦さんに喜んで欲しいから今習っていて……」
「それが嬉しいの。気持ちがね」
 律が言葉を返したことに、由希子が目を見開いた。
「分かるわ、きっと彼はにっこり笑って『頑張ってくれたんだろ?』って言って、美味しそうに食べてくれるの。違いますか?」
 律が言ったことに、由希子が頷いた。
「そうです。私そそっかしくて、その度に父には怒られるのですが、秀彦さんはおかしそうに笑って許してくれます。……私、そんな人は初めてでした。色んな世界に連れ出してくれます。とても息するのが楽になって……」
 由希子が言葉を切る。
 そして律をじっと見つめた。
「……この間、秀彦さんのおうちにいた時です。おやつでも食べよう、と思って準備していたら秀彦さんが『律、こっちおいで』って。……目が合うと秀彦さん、驚いた顔をしてました。咄嗟にあなたを呼ぶくらい、まだあなたを求めているんだと思って……」
 律は眉をわずかに寄せると横を向いた。息を軽く吐き出してまた向き直る。由希子が続けた。
「あなたは何でも出来て、ステキな女性。私はそそっかしくて、何もできない。……私には、秀彦さんが必要なんです。お願いです、秀彦さんを、私に下さい」
 由希子のお願いに、律は額を押さえた。撫でるようにして手を下ろすと、脇に置いていたバッグを取り立ち上がる。
「高山さん」
「私に、彼をフるように頼んでいますか? それはおかしいんじゃないですか?」
「え……」
「彼はもう私ではなく、あなたを選んだ。私は家を出て、それで終わりです。それからのことなんて知りません。彼が誰を思おうが私には関係ない。彼の気持ちを惹きつけるのは、あなたが自分でやらなければならないんじゃないですか?」
 そう言うと、ボーイに合図して預けたコートを持ってきてもらう。
 律はそれを受け取ると伝票を取った。
「ご祝儀代です。今後あなた方に会うことはありません。お幸せに」
 そう言うと支払いを済ませ、ホテルを出た。
 真冬よりは長くなった昼の時間。
 だがビルの多い街では、どちらにせよ影も多い。
 隠れやすかった。

***

 家に帰るのもおっくうで、夜を歩く。
 飯塚の副業先のバーの看板が目に入った。
 ふと彼の気配に包まれたい気分になったが、洗濯カゴに残る女性の気配に頭を振って考えを止める。
 飯塚に何を期待するのか。傷つくだけだ。
 胸がきゅうっと締め付けられる想いがしたが、それを無視して歩き出す。
 今日はカプセルホテルに泊まるから、と飯塚に連絡してその通りにしようとした。
 スマホをバッグに直し、顔をあげた瞬間に視線がぶつかったのは酔っ払いの男性。
「姉ちゃん、ホテルの子?」
「え……」
「うん、けっこう可愛い。いくら?」
 男性は財布を取り出し、万札を数え始めた。
 確かにホテルは近くだが、ラブホではない。
 何を勘違いしているのか、と律はすり抜けようとしたが男性の手が腕を取った。
「どこ行くの、こんなご時世だから相手選んでらんないでしょ。ほら行くよ」
「あの、私そういうんじゃ……離してっ」
 背筋に冷たいものが走り、律はその場にふんばって腕を振り払おうとしたが、酔っ払いは意にも介さない。
 ぐいっと引っ張られて脚がバランスを崩した。こけそうになり、思わず声を張り上げる。
「離して!」
「うるせえなぁ、大人しくしろよ」
 男性の手が振り下ろされ、律は目を閉じた。
 来る、と思った衝撃は来ず、代わりに聞き慣れた声が聞こえて、目を開ける。
「おっさん、ダメだって。ここラブホ街じゃないから、通報されるよ?」
「あぁ~?」
 飯塚が男性の腕を止め、そんな事を言った。
 男性はきょろきょろと辺りを見ると、頭を何度も下げて去って行く。
「酔っ払いって奴は……」
「譲くん……」
「そんな驚くことある? 俺、そこで働いてるんですけど」
「仕事中じゃ……」
「今日はもう終わり。なんか営業時間短縮だし、俺らいても3密要員になるから」
 律はほっとすると下を向いた。鼻が熱く、油断すると涙が出そうだ。
「なんか最近キナくせえな。でも泥棒は逮捕されたんだから結果オーライか? おーい? 大丈夫?」
 飯塚が覗き込もうとする。
 律は首を横にふって、両手で顔を覆った。
「やべ……そんな怖かった?」
「違……ほっとして……」
 耐えていたのに、涙は勝手に溢れてくる。
 肩が震えて止まってくれない。不器用に息をすると、喉が痛んで咳が出た。
「あー……もう大丈夫だから。家帰るか」
「いい。帰らない……」
「は? 何言って……」
「いいの。もういいから、ほっといて……!」
 律は飯塚を押しのけて走り出した。
 一人になりたい、と人気のない通りを走る。
 駆け抜けた先に小さな公園があり、土管の遊具に膝を折り曲げて入る。
 膝に顔を埋めて、止まらない涙で体を震わせる。
 いつまでそうしていたのか、顔をあげると息を吸い込んだ。
 冷たい空気できりきりと肺が痛む。
(何やってるんだろう)
 失恋を癒す方法も知らないまま、一人になりたいと夜の街をさまよって。
 これではただの迷子だ。
 これのどこが「何でも出来るステキな女性」だというのか。
 佐竹がなぜ由希子に惹かれたのか、理解してしまった。
 彼女は守るべきお姫さまだからだ。
 頼られ、必要とされ、佐竹は嬉しかったのだろう。
 律はそんなことをしなかった。
 二人で田舎から出るなら、覚悟をもって強くならなければならない。
 その一心で家事も覚え、仕事も覚え、甘えきりにならないよう気を張ってきたのだ。
 それだけだ。
 寂しいと一言でも言えば、何かがダメになる気がしたから。
 ――なにかあったら高速走らせて迎えに行くから。
 純の一言を思い出し、すがる思いで彼女の連絡先を探す。
 こんな遅い時間に?
 彼女は幼い赤子を抱えた身だ。
「……」
 スマホをしまうと、律は膝を抱えて重い頭をそこに預けた。

***

 律が走って行った方向に、飯塚は足を向けた。
 ギターケースが人にぶつかりそうになり、どうにも慎重になってしまう。お陰で律を見失った。
 赤信号につかまってイライラと足を鳴らす。
(律には逃げ癖でもあるのか)
 とそんなことを考え、思い出したのは公園。
 飯塚は酔っていたため記憶が確かでないが、彼女が逃げ場に選ぶなら、公園なのではとあたりをつけて青信号を走り出す。
 団地の公園、マンションの公園、一軒家が立ち並ぶ公園――候補を一つ一つ潰し、顔をあげると額の汗を拭ってまた歩き出す。
 人気が少なくなってきた。
 白い街灯ぞいに彼女を探し、見つけたのは公民館近くの小さな公園だ。
 胸がざわつくのを感じ、足を踏み入れると息を吐き出した。
 土管の遊具から、スカートの裾が見えている。
 律のものだ。
 じゃりじゃりと砂を鳴らして近づき、しゃがみこんで見れば、捨て猫のように体を丸める彼女の姿があった。
 ほっとするのもつかの間、律になんと声をかければ良いのか。
「……もういいかい」
 そうおどけて言うと、律が膝を抱きよせてどんどん体を小さくした。
 飯塚は体を折り曲げて、土管に入り込む。律の隣に体を寄せると、冷たさが伝わってきた。
「あのさぁ。寒くない?」
「……寒いよ」
「……もうちょっとこっち来たら?」
「なんで」
「くっついてりゃちょっとはマシだろ」
「嫌」
「即答かよ。せめて飲み物でもお持ちしましょうか?」
「要らない……ほっといて」
 律はとりつく島もない、といった態度だ。
 この頃律を避けていたのは自分だったはずだが、その態度になにかイライラしてしまう。
「怒ってる?」
 飯塚がそう訊くと、律は足をぐっと寄せた。
 当たりかもしれない。
「何があったか知らねえけど……ストレス解消ならいいの知ってるよ。体も暖まるし、行ってみる?」
律が頷くまで、たっぷり3分はかかった。

***

 きーん、と体の芯に響くような音を立て、ボールが緑のネットに吸い込まれてゆく。
 選手のCGが腕をふりかぶり、びゅんっと白球を飛ばしてきた。
 律は足を踏んばってバットを振る。
 ボールには当たらず、飯塚の足下のボードに跳ね返っていった。
「腰落として、はい、構える」
 律は前を向いたまま、飯塚の指南に従ってバットを構えた。
 客はまばら。
 誰も干渉してこない。
 律は力任せにバットを振り、足をぐらつかせた。
「危ね。ちょっと休んだら?」
 すでに20分はふり続けているはずだ。
 しかし律は何も言わずに構えるばかり。
 ボールが足下にたまり始めていた。
 飯塚が連れてきたのはスポーツ全般が楽しめるドーム型のスポット。寂れた雰囲気があるが、にわか客がいないため意外に居心地が良い。
 律は真剣な――険しい表情をしている。
 集中しているように見えるが、そうではないこと飯塚は知っている。
 何かあったのだ。
 怒っているのに、それをぶつける術を知らないように見えた。
「あの球を嫌いな奴の顔だと思って」
 そう言うと、律がぐっとバットを握り直した。
 白球が飛んでくる。
 当たった。
「当たった……」
 律がようやく声を出した。
「次来る。ほら、構えて。文句あるなら言ってしまえよ」
「……バカップル」
「ん?」
 律が小さく言ったのは、つい最近聞いたフレーズだ。
 また当たる。今度はさきほどよりも遠く球が飛んでいった。
「何よ、バカップル!」
 次は空振りだ。
「何が何も出来ない、よ! 甘えてるだけじゃない! ただの言い訳でしょ!」
 球が当たったが、にぶい音がした。
 飯塚は周りに目をやる。距離が離れているし、それほど迷惑にはなっていないはずだが、ちらちらと視線は感じる。
 手を合わせて頭を下げれば、彼らはすぐに自身のバッティングに集中し始めた。
「ついてきてって行ったくせに、私といると息がつまる? ふざけるな! 何が何でも出来る、よ。私だってやりたくてやったんじゃない!」
 カーン、と甲高い音がして球が遠く飛んでいった。
「友達もいない! 家族もいない! 逃げる場所なんてない! 強いふりをしなきゃ乗り越えられなかっただけ!」
 白球が遠いネットに近づいていく。
 飯塚は叫ぶようにして怒りを露わにする律を、目を見開いて見ていた。
「それで一人になるなら、強くならなきゃ良かった、強くなんてなりたくなかった!」
 律が大きく肩を震わせる。
 泣いているのか、と見れば、涙は出ていない。だが鼻が赤くなっている。
「私のせいで別れるのね、最低! 何よバカップル! 正真正銘のバカップル! 揃いも揃って自己管理も出来ないくせに、メタボになって椅子で寝て肺炎になったって知らないから、もう知らないから!」
 キーン、と小気味よい音がし、律のバッターボックスから白球が高く高く飛んでゆく。
 ホームラン!! と書かれた丸い板に白球がぶつかり、軽快な音楽が流れた。
 周りから拍手が起きる。
「……」
「……」
 律が振り返る。大きく見開かれた目は潤んでいるものの、涙は流れていない。
 飯塚も口を開けていたが、やがて律が満面の笑みを浮かべた。
「見た!? ホームラン!」
「……すげぇ。あっ、ちょ、球まだ出てる!」
「あっ、わっ」
 律は慌てて下がり、バットを下ろした。

***

 すっかり上機嫌……を振る舞う律の背中を見つめながら帰路につく。
 途中で寄ったコンビニで朝食分を選ぶと、律のカゴは満杯のおやつで飯塚はぎょっとする。
「買いすぎじゃねえ?」
「良いじゃない、たまには」
「太るよ?」
「太ったって誰も気にしませーん」
 律が自棄になっているのは明白だ。
 飯塚は額をかいた。
 何か言っても焼け石に水だろう。とはいえ、このまま放って置いていいものかどうか。
「もうちょい自分を大事にしろよ」
「譲くんに関係ある?」
「関係……」
 律は会計を済ませ、一足先にコンビニを出た。
 飯塚は後を追うようにして足早に追いつく。
「心配なんだよ。単純に」
「要らないってば。放って置いて」
「何だよ、俺まで邪険にするのかよ」
「そうです。譲くんは最低だもん」
 律の言った一言に飯塚はぐっと眉を寄せた。
「なんだよ、最低って」
「最低だよ。期待させるようなことしてさ、その次にはあっさり手のひら返すんだもんね」
「何を……」
 律を追い越し、振り返って目を合わせる。
 飯塚ははっと息をのんだ。
 先ほどですら見なかった涙だ。
 律の、大粒の涙がぼろぼろ頬を濡らしている。
「なん……なんで泣くんだよ」
「もうほっといてよ……私、今日はホテル行くから。一人で帰って……」
「律」
 顔を隠してすり抜けようとする律の腕を取ると、手が滑って手に触れた。
 熱い。
 それに気づいて握れば、律が振り返る。
 額に手をやれば、やはり熱かった。
 熱が出ているようだ。
「ちょ……とにかく家帰ろう。ほら」
「やめてよ……帰りたくない……」
「ガキみたいなこと言うな。熱あるじゃん」
 律の手を牽くと、ぐったり力が抜けそうになっているのが分かった。
 家まで後10分くらいか。飯塚は自身のマフラーを取ると、いつかのように律の頭にかぶせた。
「熱いよぉ……」
「もうちょい我慢」
 飯塚が先を歩くと、律がぐらりと上半身を背中に預けてきた。
 ぐすぐす聞こえる。
 かなりだるいのか、足取りもおぼつかなくなっていた。

***

 ようやく家につくと、玄関でブーツも脱がずに律は倒れ込んだ。
 気絶するように眠っているようで、ブーツを脱がせても気づく様子がない。
 春先の湿気を含んだ冷気のせいか、体にまとわりつく冷たさだ。飯塚はジャケットを着たまま彼女を横抱きにし、部屋を目指す。
 ドアを何とか開けると、ベッドではなく布団であるのにため息をついて、律を下ろすとそれを敷いた。
 暖房を入れて、律のコートを脱がせて布団の中に入れこむ。
 体はやはり熱く、頬も目元も真っ赤だ。
「救急? それか相談?」
 飯塚は参ったと言わんばかりに額をかくとスマホで調べる。律がもぞもぞと動き、目を開けた。
「譲くん……」
「律……どうした?」
「出てって……」
 か細い声で拒絶され、飯塚は頭部を殴られたような衝撃を受けた。
 額を抱えて口を開く。
「俺、何かした? 最低最低って……あげく『出てけ』かよ」
「……だって……」
 律が話し始める。
 飯塚は息をつめて彼女を見た。
 律は瞳もあやふやになるほど涙を湛えて、鼻を赤くして飯塚を見ていた。
「だって……好きになっても、譲くんは……応えられないんでしょ……」
 飯塚ははっと顔をあげた。
「だったら……期待させないでよ……優しくしないでよ。私間抜けだから、勘違いする……」
「……勘違い?」
「譲くんを好きになっても良いんだって……頼っていいんだって……勘違いする。……だから、やさしく、しないで……譲くんのこと、嫌いにさせてよ……」
 律は途切れ途切れに言うと、そのまま目を閉じた。声をかけても起きる気配がない。
 飯塚は律の言った事を反芻し、両手で頭を抱えるとその場で力なく項垂れた。
 気を張って生きてきた律が、ひっそりと抱えていた女の子の部分が顔を覗かせる。
 寂しい、と。
 それに気づかず、飯塚は自分自身の心を守ることしか考えてこなかった。
 彼女が好きだと気づきながら、その恋情のために傷つくのが怖くなってしまったから、律を避けたのだ。
 律が欲しい。
 そんな欲望が渦巻いて、持て余してしまったからだ。
 彼女も一人の人間なのだ、誰かと本気で向き合って、本気で傷つくことが出来る。
 その心の一端に触れ、飯塚は自身の腹に、すとんと何かが落ちた、そんな感じがした。

***

 朝日が昇るころに飯塚は立ち上がり、律の部屋を出た。
 キッチンに一人立つと、朝のきんと張り詰めた空気に飯塚一人分の流れが加わる。
 スマホを確認しながら、卵を割って、塩を用意し、鍋に水をはって火にかける。
 簡易白米をレンジで温め、沸いた湯の中に入れる。鶏ガラスープの素、塩、卵を入れて、冷蔵庫にあった漬け物も出した。
 律の部屋のドアをノックすると、小さく「どうぞ」と返事があった。
「起きてた?」
「うん……」
「体温計持ってくる」
 そう言うと、体温計を持って再びノックだ。
 律は上半身を起こし、髪を三つ編みにしていた。昨日より肌色はマシだろうか。
 熱を計ると37・8度と高めだ。律もぐったりとだるそうにしている。
「新型ウィルスだったらどうしよう」
 律が不安げに言った。飯塚は「味覚も嗅覚もあっただろ」と返す。
「だから俺を遠ざけるなよ」
 そう付け加えると、律が一瞬目を合わせ、すぐにそらす。
「昨日は……ひどいこと言って、ごめんなさい」
 ぽつりと出てきた律の言葉に、飯塚は心臓をぎゅうっとつねられた感覚を味わった。
「……私、出て行くから、忘れて」
「……どこに……いや、ごめん」
 飯塚は息を吸い込むと、腹から空気を吐き出して彼女の側に腰を下ろした。
「別に、ひどくない。俺の方がひどい」
「え……?」
 顔をあげた律にかぶさり、枕に頭を預けさせるとまだ熱のある体を抱きしめた。
 久々に味わう、彼女の匂いだ。だが不調のためかどこか鈍く、薄い。
 律は体を強ばらせたが抵抗を見せない。
 飯塚は力を緩めた。
「このまま律が寝込んだら、ここから出て行けない。ずっと側に置いておける。そんなこと考えてる。ひどいだろ」
「でも……」
「……ごめん」
 飯塚は体を離し、立ち上がると振り返らずにドアを開けた。
「おかゆ作った。食べるなら持ってくる」
 律はしばらくすると、「うん」と答えた。
 少し冷えたおかゆを、律はゆっくり食べていた。
 目元は赤く腫れている。泣いたせいなのか、熱のせいなのかは分からない。
「俺が手のひら返すって、何?」
 昨夜言われ、ひっかかっていた疑問を口にした。
 律は目を開くと飯塚を見る。
「……女の子の匂いがしてた」
「えっ」
 飯塚はぽかんと口を開けた。
 確かに女性に声をかけたりしたが、匂いとは。
「洗濯物から香水の香りがした……その頃くらいから、ずっと私のこと、避けてたでしょ?」
「……」
 飯塚は言葉につまり、律を見つめた。
 彼女は目に力が入っている、ように見える。
「泥棒のこともあったり、ああ、譲くんがいてくれて良かった、って思ったけど……別の女性がいるなら頼っちゃダメよね。でも、そうならそうって、言ってくれれば……それなら期待せずに済んだもの」
 律が視線を落とす。まつげが瞳を隠してしまった。
「でも、付き合うのは無理なのよね。だから、はじめから何か求めちゃダメだったのに……」
「……その、なんつーか……」
 飯塚が頭をがしがしかきながら口を開けば、律が顔をあげる。
「その……確かに女の子に声はかけた。なんつーか、訊きたいことあって、バーに来てたお客に」
「訊きたいこと?」
「その……好きな人を忘れるには、どうすりゃいいって」
 律はその訊きたいことの内容に眉を寄せた。
「それってナンパでしょ?」
「だよな。今思えばそうだと俺もわかったんだけど……必死だったんだよ。向こうもそうだろうって思ったらしくて、じゃあホテル行く? みたいになってさ、わけを話したら激怒してさ。マスターが彼女の酒代、代わりに払えって仲介してくれて、それでちょっとしたバイト入れただけ。酔ったお客タクシーに入れたりしてたんだよ」
「……」
 律はいぶかしげに眉を寄せたままだ。
「……」
 飯塚も沈黙を噛みしめる。
 二人で黙り込むこと数分。飯塚が視線をあげ、沈黙を破った。
「なあ、言いたいことあるなら言ってくれよ。大したことじゃないのにすれ違って、それで終わりなんて俺は嫌だ。違う、嫌になった。前ならそれで良いって思ったけど、今は良いって思えない。マスターにはっきり言われた。自分の気持ちから逃げてたら、いつか後悔するって。覚悟一つだって。それ、よく分かったから。律だって、我慢強いのは良いことだと思うけど、自分をごまかすのは違うだろ?」
「……そんな暇、ないもの」
「時間は作るもんだよ」
「何も知らないくせに」
「知らないよ、そりゃ。何も言ってくれないから、知りようがない」
 律は目を真っ赤にした。しかしふとんを強く握って耐える。
「秀くんは……帰りがいつも遅くて、自分の話するの。仕事でこんなことあった、ああ疲れたって。私の話なんか聞かない。ねえって言ったら、『明日でいい?』『明日でいい?』その明日はいつも来ない。もう二度と来ない」
 律はふっと言葉を切ると、飯塚を見た。
「私がフれば良かった」
 そう言うと律はようやく肩の力を緩め、笑った。
「同感」
「それでも、学生時代は良かったの。大事にしてくれた」
「……じゃなきゃ好きにならないよな」
「うん。いつからダメになったのか……考えたって意味ないよね。だから、それはもう良い」
 律は布団を引っ張り上げながら、体を横たえた。気だるげに息を吐いている。
「スマホ、取って……仕事場に連絡しなきゃ」
 飯塚は律の鞄を開き、スマホを取り出した。
 振り返ると、律はすでに目を閉じている。
 飯塚は代わりに連絡を、と決め、彼女の仕事先の連絡先を知らないことを思い出した。

***

「はい、もしもし……」
 律からの連絡を受けた美穂だったが、通話先の声が男性なのに驚いて体を起こした。
 隣で寝ている者を起こさないよう、はっと口を押さえる。
「飯塚さん?」
「ごめん、美穂ちゃん。律熱出してさ、仕事休ませたいんだけど、連絡先知らなくて」
「え、熱? 風邪ですか?」
「多分そう。そのー、美術館の名前とか」
「ああ、良いですよ。あたしから連絡しときます。その……先輩のことお任せしても良いんですよね?」
「新型だったらやばいし、そうなる。多分違うと思うから、そんな心配しなくて良いよ。何かあったらまた連絡する。ごめん」
「いえ、大丈夫です」
 飯塚からの連絡を聞き、美穂はせまいベッドで身をよじってメモを取ろうとし……
「何、どした?」
 と、隣の者を起こしてしまった。

***

 突然聞こえた男の声は、間違いなく聞き覚えがある。
 飯塚は「あー」と思わず唸り、額を押さえると再び謝った。
「本当、ごめん」
 それだけ言って通話を切ると、ふうっと息を吐いて、おかゆを持ちリビングに戻る。
 城島と美穂が上手く行ったらしいことに、どこか心が軽くなる。
 この頃、心が動いてばかりだ。
 いつも避けていたはずの人間関係が、突然彩り鮮やかに入り込んでくる。
 それが痛いような、心地よいような、なんとも言えない感覚で飯塚を戸惑わせた。
 リビングに残したままの電子ピアノが目に入り、飯塚はなんとなく向き合う。
 電源を入れて音を鳴らせば、蘇るのはベージュのスーツ姿――ではなかった。
 不器用に鍵盤を押さえる、ロングヘアだ。
 ――飯塚くんには音楽の才能があるよね
 ――メロディー忘れちゃう、譲くん、手伝って
 交互に過去と現在が思い出される。
 椅子を引いて座り、左手も動かせば、楽譜なしでも身についたメロディーが奏でられる。
「愛の夢」。
 ――金ないから、ピアノ買えない。
 ――それなら、私の家に来ると良いよ。いつでも貸してあげるから
 教師になりたての彼女はそう言って、飯塚の才能を喜んで迎えた。
 両親にも話し、ぜひ音楽を続けさせるよう言ったのだ。
 兄弟にからかわれながらピアノをやり、近所の青年がやめるというギターをくれ、暇つぶしに歌う。
 それを繰り返すうちに、音楽が日常になり、好きになっていった。
 うっとりさせるような甘いメロディーに、蘇るのは形の良い耳が見え隠れするショートヘア。
 目を閉じると見えてくるのは薄ピンク色の花びら。
 香りが鼻腔に蘇り、隣に座る野ザル、納屋の段ボールで子を産んだばかりの猫の姿が次々に脳裏によぎる。
 長い髪をかきわけ、花びらのような耳に触れ、胸を寄せると甘い香りがし、鼻を埋めるとこれ以上なく落ち着いた気分になった。
 そうか、律の香りを、かつてかいだことがある。
 あれはりんごの花だ。
 甘く、爽やかで、豊穣の果実を約束する、飯塚にとって最高の香りだ。

***

 律は昼頃に目が覚め、体を起こした。
 まだ熱っぽい感じがするが、かなり落ち着いたようだ。
 家で動く分には問題なさそうである。
 カーディガンを着て、もこもこしたスリッパを履くとリビングへ。
 ドアを開けると、ピアノの音が聞こえてくる。
 そっと覗けば、飯塚が真剣な表情でピアノを弾いていた。
 そういえば彼のピアノを聞くのは初めてだ。
 どこか重みがあり、力強いがうるさくない。
 一音一音がしっかりとした響きを持って取り逃されていない。
 曲名は知らないが、どこかで聞いたことがある甘いメロディー。
 律はそのまま立ち止まり、聴きいっていた。
「いるのか? 入ってこいよ」
 そう声をかけられたのは、曲が終わってからだ。
 律はドアを開けると、ゆっくりリビングに入る。
「なんか遠慮してる?」
 そう笑う飯塚に、律はようやくいつもの調子を取り戻す。
 真剣な表情でピアノを弾く彼は、別の誰かに見えてしまったからだ。
 それに心臓が跳ねたのは言うまい。が、
「俺の演奏にときめいた?」
 と、冗談めかして図星をつかれたので、律は顔の熱をあげるとぷいっとそむけた。
「はは。今度から律を誘うならピアノだな」
「……もう。何よ」
「何だよ」
 言い合いにふっと笑うと、飯塚がゆったり笑って姿勢を崩した。
「おかゆ、ありがとう」
「ちゃんとレシピ見ながら作ったから、味は良かっただろ?」
「うん。美味しかった」
「ちょっとは熱下がった?」
「多分ね」
 こたつに座ると、白湯をのむ。喉が腫れたのか、ざらざらと気持ち悪い。
 起きていると頭痛もしてきた。
 突っ伏すようにすると、あれ、と気づいて飯塚に問う。
「譲くん、仕事は?」
「休んだ。有給溜まってたし、客少ないからいいってさ」
「……そう」
 飯塚はピアノをやめようとした。それを律がとめる。
 少しのわがままなら、彼は聞いてくれるだろう。
 そう確信を持って言えば、仕方ねえな、と言いながら飯塚はピアノに向き直した。
 ボレロや、今流行のポップス、飯塚は器用に弾いてみせ、律を誘うと横に座らせた。
律の手を鍵盤に乗せ、上から押さえて音を出させる。
 きらきら星を連弾し、目が合うと飯塚の手が律の肩を抱いた。
 どれほどそうしていたのか、空腹も忘れて二人で身を寄せあい、ふと演奏が止まると律は飯塚の胸元に頭を預けた。
 飯塚が腕を回し、少しだけ力を込めて抱きしめてくれる。
「……中学の時、ピアノを教えてもらったんだよ」
 飯塚がぽつりと話し始めた。
「例の、教師。俺に音楽の才能があるって喜んでさ。家にピアノ買う金ないって言ったら、家に招いてくれたんだよ」
 熱心な人でさ、と飯塚は過去を語る。
 彼女は飯塚に指導した。
 教師になりたての23歳。
 ピアノが好きで、教えることも好きで、気づけば教師を志していたそうだ。
 飯塚を土日に家に呼び、二人きりでピアノのレッスン。
 思春期を迎えた少年は、いつしか彼女に惹かれてゆく。
 彼女も少年を意識していた。
 ファーストキスは玄関だった。見送る彼女の肩を掴んで、オレンジ色のリップが移るくらいに夢中になって味わった。
 レッスンはいつしかデートになり、二人の関係が深まっていくのは時間の問題だった。
 ある日の放課後、ピアノのレッスン中に二人の関係に気づいた人物がいた。
 彼女の父親である、教頭だ。
 もちろん許される関係ではない。
 だが義務教育期間で、未成年である飯塚を遠ざけることも出来ず、仕上がったストーリーは「学生からの好意をむげに出来ずにいただけ」「ピアノをただ教えるに留めたに過ぎず、二人の間に不適切なことはなかった」というもの。
「俺らを守るためにはそれしかないよな。今なら分かるよ。でも教頭の俺を睨む目は忘れらんないな。仇でも見るようなもんでさ」
 結局彼女は学校をやめることになった。
 学生と不適切な関係を持った、というのが広まってしまったためだ。
 飯塚は自分を責めた。
 家を抜け出して彼女に会いに行くと、彼女はやつれた顔をしていたが飯塚にこう言った。
――仕方ないよね。ごめんね
 学校をやめ、違う街に行くことになったその背中を見つめながら、飯塚は涙も出ない自分の薄情さに呆れた。
「俺さあ、何に一番腹立ったかって言ったら、真実を隠されたことなんだよ。自分でもビビるよ、彼女が悪いんじゃないとか、俺は真剣だったとか、そういうことじゃないんだよ。なんで真実を見ようとしないで、勝手に決めつけてしまうんだって。バカだよな、ご大層な真実があるわけじゃないのに」
 ただ恋をしただけなのだ。
「聞こえたんだよ、『お前が誘ったのか、男子学生を家にあげるなんてどうかしてる』って。学校でも思春期のバカ男子が俺もヤらせて欲しいとか言っててさ。正直クソみてえな連中だと思って、嫌になった。古里に帰りたくないのは、そういう理由。表面だけで色々言ってくる奴らが嫌になった……だから、俺も表面だけの付き合いで済ませたくなった。中身知ってクソだったら嫌じゃん。こっち来て最初のバイト先もそんな感じでさ……ごめん、これは只の愚痴。やめとく」
「話してすっきりするなら……」
「良いんだ、これは。太田のオヤジと警察の兄ちゃんが事情を知って、そっから親身になってくれたし。愚痴っていうか、良い面もあるから」
 飯塚がそう語り、律は頷く。続きを促すと、飯塚は息を整えた。
「そっからだよ、付き合うとか無理になったの。何人かはいたよ、好きになったから付き合って欲しいって言う子は。それ言われる度に逃げ回った。そのせいで嫌な思いする……そう思い込んでさ」
「……その子たちを傷つけたくなかったから?」
「……そういえば聞こえは良い? 実際は違うよ、俺が傷つきたくないだけ。面倒なんだよ。それにこういう年齢になるとさ、透けて見えるんだよな。下心っていうか……彼氏いないのが情けないから、肩書きだけ欲しいから、誰かの何かでいたいから、恋人は単なるアクセサリー、暇つぶし……そういうのが。俺だってホームレスでさ、その日その夜安全なとこいたいからって女の子の好意利用したことある。俺の方がよっぽど最低だし、クズだよな」
 飯塚が深く息を吐き出した。その鼓動が早いのに気づき、律は思わず飯塚の腰に手を回すと裾をぎゅっと掴んだ。
 飯塚の心が「痛い」と叫んでいる。
 だが声にも現れなかった。
「……まあ、そういうこと。あんなこと言ったけど、夜学は良かったよ。年もバラバラ、みんな何かしら背負ってるから、人を簡単にからかわないし、詮索もしない。主婦とか赤ちゃん連れとか年寄りもいてさ、整備士の金髪の兄ちゃんがすげえの。俺の自転車直してくれてさ、その作業かっこいいなって思ったから整備士目指した。高卒資格要らないんじゃねえのってからかわれたけど、色々遊びに連れてってくれたし……バンド仲間と知り合ったキッカケもそこ。ドラムとかギターとかも直してくれるんだよな」
 ようやく飯塚がいつもの調子を取り戻してきた。律が顔をあげると、目を合わせて微笑む。
 飯塚の目の奥が、じんわりと熱を滲ませていた。
 女性との話については、彼女らも同じだ。
 人肌が恋しくてたまらない、そんな時に寄り添える誰かが欲しい。
 そうでなければ好意を持って誘わない。誘えない。
 そうなら飯塚のことも、彼女らのことも、責めることは誰にも出来ないはずだ。
 そうやって夜をくぐり抜けた律も同じである、本人達が納得出来るのかどうかだけが問題だ。
 それに、飯塚は本気の恋をしたのだ、テキトーなわけがない。
 律は話を聞き終えると、飯塚の腰に回した腕に改めて力を込めた。
 頬をすり寄せると飯塚が「何」と声をかけてくる。
「ううん……譲くんに逢えて、良かったなぁと思って」
「こんな奴に? 自棄になってんの分かるけど、立ち直らないとダメだって。だまされたらどうすんの」
「……どうしようかな……」
 律は微笑むと、再び飯塚の胸元に顔を埋めた。 熱いくらいの涙が溢れて、息が震える。
 飯塚がそれに気づいてか、肩を撫でた。
 それが心地よく、目を閉じれば、体がぐったりと力をなくす。
 気づけば自分の部屋で、布団に包まれて眠っていた。

 

次の話へ→「りんごの花」第12話 再出発

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