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コキュートス 小説

【コキュートス -月下のバレリーナー】第7話 ※官能シーンあり

「コキュートス。ギリシャ神話の冥府に流れる川。裏切者を許さぬ氷地獄のこと」

 

 パーティーの夜がやってきた。
 旬果はあのドレスを身にまとい、夜会向きの化粧を施している。
 展覧会でドレスアップすることはあるが、こういったホテルで催されるパーティーは初めてだ。
 男性陣も蝶ネクタイがドレスコードとなっており、本格的である。
「すごく緊張する……皆さん、すごい方なんでしょ?」
「一流ほど礼儀正しく、でも気さくだよ。皆優しい方々だから、安心して」
「そ、そう……」
 と言われても、見渡せば明らかに質のよい光沢を放つ蝶ネクタイに、黒光りするようなジャケット。
 女性たちも体のラインが出るようなドレス姿。色とりどりで、まるで夜の花園のような華やかさである。
 しかも名前も知らない初対面の人ばかり。萎縮するなと言う方が無理だ。
 ネイサンの腕を頼りに歩く。
 ホテル内に飾られたシャンデリアは光を反射し、ロビー中をきらめかせている。
 会場入り口で紹介状が確認され、中に案内された。

 黄金色に輝くシャンデリアがいくつも吊り下げられ、円卓の上には花。
 一枚で仕上げられた絨毯はそこらではお目にかかれない大きさで、ヒールで歩いても苦痛がない絶妙な柔らかさ。
 椅子も全て揃いのもので、ワインレッドのベルベット生地がふんだんに使われたものである。一脚でも家にあれば、充分リッチな気分が味わえるだろう。
 席に着く前に、眼鏡の男性が笑顔を向けてネイサンを迎えた。
「やぁ、マイヒーロー。今日は女性と一緒か」
「お招き下さりありがとう」
 両手でがっちりと握手を交わすこの男性が、今日のパーティーの主催者のようだ。
 恰幅の良い体型に、人好きのする笑顔。ネイサンの言った通り気さくな人柄のようだ。
 周囲も皆同じように、すぐに打ち解けた様子の笑みを浮かべている。
「ご紹介を。彼女はシュンカ・アオノ。日本から来たアートバイヤーです。日本で開催される展覧会のため、若くして買い付けを任された才女ですよ」
 ネイサンはずいぶん丁寧な説明をした。そのためか、主催者の顔がぱっと輝く。
「アートバイヤー! 素晴らしいご職業だ。私のオフィスにも一枚良いのがないかと思っていてね……。いや、とにかく、展覧会は一体どのような?」
「ダンテ神曲を」
「なるほど。ここは本場だ。どうだった?」
「さ、さすが本場です。素晴らしい作品達、アーティストの方々と出会えました。開催地が日本なのでお見せ出来ないのが残念なのですが……」
 そばにいた女性が声をかけてくる。
「流暢なイタリア語ね。シュンカ・アオノって……もしかして……」
 名刺を交換し、パーティーの趣旨を説明される一方、バレエ団にいたこともすぐに知れ渡る。
 あっという間に人に囲まれ、ネイサンの姿を見失ってしまった。

 挨拶を交わす旬果を置いて、ネイサンはさりげなく会場を出る。
 受付に預けておいた書類を受け取り、背に隠すと廊下に出る。
 約束しておいた掃除用具入れのドアを開け、薄暗い部屋に入り、数分待つと彼は現れた。
 一見すると日本人観光客。ピンクのシャツに白のチノパン。革靴を履いているが、茶髪と細身の体型はいかにも軽薄そうである。
「お疲れさまです」
 と彼は言った。
「ああ。怪しまれてないか?」
「大丈夫ですよ、これでも2週間、しっかりカジノに入り浸りましたんで」
「ターゲットには近づけたか」
「はい。やっぱあいつ、相当困ってるみたいでしたね。嫁さんが病気なんでしょ、色々大変みたいっす」
「そうか……よくやった。だが進藤、気をつけろよ」
「オレはもうすぐ帰国っすから。大丈夫です」
 軽薄そうな男――進藤は襟元をただすとビジネスバッグを広げた。
 ネイサンは書類をそれに入れる。気配があり、振り返った。
 そこに立っていたのは一人の男。その腕にはあの切り傷。アウグストへの忠誠の証だ――

 配られるシャンパンを片手に、同い年くらいの男性女性が次々声をかけてくる。
 どれほどそうしていたのか……席に着く前に、彼と合流したい。
 旬果はお手洗いに、と言いながらさりげなく人の輪を離れた。
 ネイサンはいない。
 だだっ広い世界に一人になった気分だ。旬果の足は早まり、行く当てもなく廊下に出る。
 人の気配は遠ざかり、外の空気が流れ込んできた。
 そこに、日本語が聞こえてくる。
「……っていっても、仕方なくないっすか?」
「全く、誤算だ。面倒なことになった……」
 会話の内容はわからないが、若い男性とネイサンが話しているようである。
 旬果は邪魔にならないように、と足音を忍ばせた。
「……どうしましょっか」
「……さつに連絡を」
「え? マジで?」
「ああ。それしかない。いいか、まず……」
 そっと覗き見れば、茶髪の細身の日本人と、袖口を気にするネイサンの背が見える。彼らは旬果には気づいていないようだ。
「上手くやれよ」
「はい」
 細身の日本人が素早く走り去った。ネイサンは髪を整える。
(今のは何?)
 旬果はその場から離れ、パーティーへ戻る。
 やがてネイサンが戻ったが、その蝶ネクタイはさっきと光沢が違っている。旬果はそれに気づいてしまった。
「……どこに行ってたの?」
「仕事の連絡を」
 ネイサンが何か言おうと、口を開く――その時、警備員が慌ただしく隅を走っていった。
 一瞬、場が騒然となる。
「何事だ?」
 緊張が走ったが、すぐにアナウンスが流れた。
「ただいま、ラウンジのお客様が体調を崩されたとのことで、救急車が参ります。皆様にはご迷惑をおかけし、申し訳ありません」
 会場内は納得したようになり、すぐに会話が再開された。
 旬果はネイサンを見上げる。
 彼はいつものように余裕ある表情を浮かべて視線を返したが、それにわずかな違和感があるのを旬果は見逃さなかった。

 バルコニーが解放され、皆外に出た。アルコールが入った体を冷ますように夜風を楽しんでいる。
 旬果は古城を正面にするベランダに出て、ネイサンを振り返った。
「ネイト……大丈夫?」
「ん?」
 パーティーも終わりに近づいたころ、旬果は切り出した。
「何がだ?」
 旬果は目を伏せ、ためらいがちに続けた。
「その……具合が悪いのかと思って。仕事でトラブルがあったとか……」
「ああ、……ちょっとな」
 救急車がサイレンを鳴らさぬまま去っていく。
「もう済んだよ。問題ない」
「なら良いけど……疲れてるのかと思って」
「いいや。少し張りつめてただけだよ」
「本当?」
「心配性だな」
「性分なの。自分でも困ってるわ」
 旬果は自らネイサンの手を握る。
 その時、背後で爆発音が響いた。
 とっさにネイサンが旬果を腕の中に庇う。
 だが、次に聞こえてきたのは悲鳴ではなく、歓声だった。

 夜空に花火が上がったのである。
「サプラーイズ!今夜のプレゼントだ」
 主催者と、その協力者である招待客が自慢げに笑った。
「……」
「……」
 思わずネイサンを見ると、彼も旬果を振り返ったところだった。目が合うと急に体のこわばりがほぐれる。
 小さく笑うと、打ちあがる花火を見あげた。

 パーティーと言っても、半分はビジネスである。その場で何人が事業提携の話をまとめただろう。旬果も何人かの見込み客を得た。規模は大きく、金がかかるだろうが、それ以上の利益を生むのだろう。
 パーティーが終わり、招待客は順々に送迎車に乗っていく。
 皆満足そうに笑みを浮かべていた。
 ネイサンはアルコールに口をつけていない。ホテルの運転手が彼の車を玄関先へ持ってきた。
「……旬果、今夜の君の時間が欲しい。放したくない」
 ストレートな誘い。
 旬果は返事しようとしたが、ネイサンはそれを遮り、耳に唇が触れるほど近くささやきかけた。
「頷いたら解放出来ない。それでも良いのなら」
 そっと体が離れる。目が合う。そこに壁はない。彼を信じたい気持ちが強かった。
 今夜が最後だ。次に会えるかはわからない。
 ふと彼が気にしていた袖口が目に入る。ボタンが取れてしまっていた。
 そこから覗く、まっすぐに伸びる傷痕――。
(私は彼の何を知っているのか……)
 出会ってほぼ一か月。
 どこで何をして、どう暮らしていたかなど知る由もない。
 時々見せる、迷い人のようなあの表情?
 時々見せる、冗談なのか本気なのかわからないポーカーフェイス?
 時々見せる、真剣なまなざし?
 こちらを覗いてくるアンバーの目。
 瞳孔が開くと、その黄金色を深くする、そのまなざし。
 そこに嘘は宿らない。
「……私も、一緒にいたい」
 そう答えると、不思議なほど迷いはなくなった。
 ネイサンの手が差し出される――

 

 オテル・パラディソに帰りつくやいなや、ネイサンは旬果の腰に手を回し抱き寄せ、舌を絡ませてきた。
 すでに濡れていた舌先がもつれるように絡み合い、溺れそうなほどに唾液が交わる。
 息はあがり、耳をねぶられると旬果は甘い声を出した。
 キスしながらネイサンは蝶ネクタイを外し、ジャケットを脱いで旬果の背に手を回す。ドレスは背中が大きく開いており、夜風に冷えた肌がネイサンの手の熱さにすぐ反応した。
 彼の指先はうなじから背筋をそっと撫で下りていく。
「あ……っ」
「……ずっとこうして触れたかった。よく見せてくれ」
 旬果は彼に背を向ける。視線が背中に注がれている――そう思うだけで息が湿り気を帯びた。
 そーっと撫でられるだけで、肌は産毛が快楽に打ち震えるよう。
 このまま力が抜けてしまいそうだ。手を壁につき、振り返る。ネイサンはアンバーの目の色を濃くして、旬果の背を見つめ口づけを落とし始めた。
「あっ……!」
 いつもより少しきつめに吸いつかれている。これでは痕が出来るだろう。そうと気付いた瞬間に、全身がカッと熱くなった。
「いい反応だ……背中が好きだったのか?」
「そうみたい……っ」
「だったら違うドレスを選べば良かったかもしれない……」
 ネイサンは口づけながら、ファスナーに手をかけた。
「誰にも見せるんじゃなかった。君の……いやらしい背中を」
「ちが……ネイトが触るから……っ」
「俺だから反応してる?」
「そう……」
 間が開いたと思ったら、耳を甘く噛まれた。
「んん!」
「あんまり可愛いことを言うんじゃない。いじめたくなるから」
 冗談ともつかない声が背中に落ちる。
 旬果は指を噛んだ。
 ジイイ……とファスナーがゆっくり下ろされる。
 音で耳を犯されている気分だ。旬果は背を向けたままで、何をされるのかわからない怖さを感じていた。
 いや、怖さというより、抵抗出来ない状況に興奮している……。
「ああ、いつもと違うな」
 ビスチェを指が辿る。
 その先は腰、お尻だ。
 だがネイサンは手を止めてしまった。
「……あの時の続きがしたい」
「あの時の……続き?」
「ああ。こっちへ」
 ネイサンは旬果の手を牽いて、浴室へ入った。
 洗面台には広い鏡があり、室内の照明もほのかに温かみがあって空気が変わる。
 旬果はようやく気が付いた。
 試着の時の続きがしたい、と彼は言ったのだ。
 急速に体は熱を放つ。
「続きって……こういう、こと……?」
「ああ。鏡越しに、君は俺を見てた。無防備に、まっすぐに。襲われたらどうしてたんだ?」
「人がいるのに、そんなこと……しない……でしょ?」
 ネイサンの手はより性急に旬果の体を求め、まさぐった。
 シルクの滑らかな感触が、ネイサンによってお尻を撫でる。
「君相手だから、必死に耐えただけだ」
 髪の生え際、耳、うなじに、ちゅ、と音を立ててついばむようなキス。
「……どうして?」
「汚したくない。でも、汚したい」
 旬果は肩越しに彼を見た。ネイサンはまっすぐに見つめ返す。
「なのにそんな風に見つめられたら、教えてやりたくなるんだ。俺は男だって」
 こうやって、とネイサンは彼女の腰から手を這わせ、胸、デコルテを撫でまわす。
「君に刻みつけたくてたまらなかった」
 彼の声は低く、心の奥底から湧き上がる渇望が滲み出ていた。
 ネイサンの手が彼女の背中を滑り、体温がじわりと伝わる。
 彼の触れる指先は、まるで彼女の存在を確かめるかのように優しくも力強い。腰に彼の熱い昂りが押し付けられる。
 旬果は喉の渇きと息苦しさを覚えたが、陶酔した感覚になり、洗面台に置いた手をぎゅっと握り固めた。
「もう……ずっと……」
「旬果?」
「ずっと……おかしくなりそうなの……目が合うだけで、欲しくなるの」
 鏡にうつるネイサンが、自分の首筋にしゃぶりついている。
 本当に狼みたいだ。愛撫を施す彼の姿がありありと映し出され、興奮したその様にまた体の奥が疼いて旬果自身を犯していく。
「ここ……」
 ネイサンの手を、脚の間に導く。ドレスはいやらしく蠢く手で影を作り、鏡がそれをうつす。
 ぬちゅっ、と音がして、熱く凝り固まったクリトリスが彼の指でいじられた。
「は……あぁっ」
 とろけそうな強い快感が脳に走った。
「すごいな……もうこんなに濡れてる。待ちきれなかったのか?」
「待てない……っ、あなたが好き……っ!」
 ぐん、と腰に当たるものが一気に大きくなった。
 ネイサンは腰を落とすと、旬果の下着を抜き取る。淫蜜が溢れ、脚を伝っていく――それをネイサンの舌が追った。
 熱くなめらかな感触に、旬果はいよいよ腰が抜けそうになった。体勢が崩れ、ドレスの肩ひもが肩からずれ落ちる。
 下着のままの裸身が現れると、以前ネイサンがつけたキスマークが肌に無数に散っているのが鏡に映った。
 あまりに淫らだ。
 これほど情欲に掻き立てられたことはない。
 下着ごと胸をわしづかみにされ、彼の手の中で柔軟に形を変える乳房がカップからこぼれ出た。
 ぷっくり膨らんだ乳首が指の間から漏れ出ている。
「……私……ピルを持ってるの」
「ピル?」
「だから……」
 ネイサンは鏡を見ながら、こぼれた乳房を愛撫している。目は鏡の中の旬果を獲物のように見据えていた。
「今夜は……直接……だめ?」
 息のあがった声は上ずって、甘ったるく舌足らずだ。
 ネイサンはぱっと唇を肩から放し、息を吸った。
 だがペニスはいっそう固くなっている。
「……後悔しないか?」
「しない……」
 ネイサンの手が頭を撫でた。
 刻みつけたくてたまらなかった、などと言いながら、彼は常に旬果を気遣っている。
 今も、旬果の肩に愛を伝えるためのキスをしたではないか。
 すっかりとろとろになった秘口を、ネイサンは確かめる。
 下が下ろされ、すでに反るほどいきり立ったペニスが陰唇を舐めるようにする。
 お互いすっかり濡れているのだ。ぬぷぬぷ音が立ち、行き場のない熱が高まってまた奥から淫蜜になって流れ落ちる。
「……好きだよ、君が好きだ。旬果……」
 素直すぎる告白とともに、彼が中に入り込んでくる――ぎゅうっと壁は蠢き、奥へ誘い込む――「はあ……」と息が口から出て、鏡をくもらせた。
 ヒダが絡み、ネイサンをきつく締める。
 熱された鋼鉄のようだ。いつもより、熱くて固い。
 隔てるものが何もない、むき出しの肌同士が絡み合っていく。
 それだけでおかしな気分になってきた。
「挿入ただけでイキそうだな……」
「うん……」
「ふふっ、可愛いな……っ」
 壁のない笑みを落ち、背にはキス。ネイサンは旬果の腰を掴むと、ぐーっと腰を沈めた。
 ぬぽっ、と粘着質な音とともに二人の愛液が溢れ、結合部を濡らす。
「あ、いくぅ……っ!」
 奥に熱い先端が触れ、発火したように目の前がちかちかした。
「あっ!」
 頭頂部まで貫くような熱い波。旬果は絶頂に体をびくびく震わせる。
 力が抜けるようだったが、ネイサンはそれを許さなかった。
 腰をしっかり掴み、奥を穿つようにピストンする。ここ数日で覚えさせられた、旬果の感じる部分だ。
「あっ、あっ!」
 子宮が下がり、内壁は彼のものを迎えるようにしっかりまとわりつく。
 ネイサンにはそれがたまらないようだった。
「ああ……すごい……。俺の形になってる……」
 ネイサンは旬果の腕を取り、さらに腰を打ち付けた。
 奥を貫くような快楽が走り、その度旬果は声をあげた。
「ごめんなさ……っ、うるさいよねっ……!」
 そう謝ると、ネイサンは体を折り曲げ肌を重ねた。うなじに息がかかり、肌が吸われる。
「嬉しいよ、君のその声……可愛くて好きだ……」
「あぁっ!」
 ぐいっ、と奥に先端が押し付けられ、ぐりぐりとこねまわされる。
 烙印を押されるようだ。
 危うい熱が生じ、腰が勝手に揺れる。
「あっあぅ……」
 ネイサンは旬果の体中を撫でまわした。腹も、肩も、腕も、胸も。
 何度も耳と首に唇と舌が這い、旬果はその度に体を跳ねさせる。
「そろそろイキそうだ……良いか?」
「んん……イって、イって……中で……っ」
 鏡にネイサンの手がつき、旬果はいよいよ追いつめられたウサギのようになる。
 逃げ道のない恰好だ。ネイサンは旬果の片脚を持ち上げ、ぐちゅぐちゅになった中をめちゃくちゃに突き上げた。
「あ、もう……あっ、いくぅ!」
「……ぐっ、う……!」
 ビューッと、勢いよく熱いものが発射され、奥にうちつけられた。
 腰が余韻で震える度ドクドクと注がれ、中は彼のものでいっぱいに満たされていく。
 背中にネイサンの吐息混じりの声が浴びせられ、ずずっ、とペニスが回るように動いた。
「あっ……はぁ……」
 精子を奥と壁に擦り付けるような動きだ。旬果はそれにもすら愉悦を感じ、秘口をきゅんきゅん収縮させた。
 ネイサンは体を起こし、旬果の腰と肩を支える。
 旬果は手で導かれるまま後ろを向き、熱いキスを受けた。

 二人して肩で息をしている。
 まぶたがとろんと重くなり、気を抜けばそのまま倒れ込んでしまいそうだ。
 だがネイサンは中でまた昂りを取り戻したようである。ぐんと大きくなったペニスで中がいっぱいになった。
「あっ、また……っ」
「急かしてすまない。今抜くよ」
 ぞぞぞっ、とペニスが引きずり出され、真っ白いシャンプー液のような精液がこぼれ出た。
 中は急にネイサンを失い、切ない感じがする。
 床に落ちた白いものを見ていると、ネイサンの腕が膝に回り、あっという間に横抱きだ。
 ネイサンはソファに旬果を座らせ、ビスチェを取った。
 アンバーの照明の中で、乳首の色は濃くなっている。
 ネイサンの舌が乳輪と乳房の境を舐め、もう片手は乳房を揉む。
 快楽を求めていた乳首が弾けるように立ち上がり、ぷっくり膨らんだ。
 喉をさらけ出すように息を吸い、無意識に脚を開いてアームにかける。
 また秘口が収縮して、温かい淫蜜をしたたらせる。
 そこから花のようなにおいが立ち込め、クチナシの香りと混ざり始めた。
 においだけで気分がおかしくなりそうである。
 どんな香水よりも淫靡だった。
「ネイトも、脱いで……」
「ああ……」
 ボタンをいくつか外したところで、わずらわしくなったのかネイサンは無理やりに脱ぎ捨てた。
 筋肉が陰影を作り、なまめかしく汗が光る。
 全て衣服を取り去ると、邪魔するものがないまま素肌を重ねた。乱れた髪がまざるほど唇も舌も求め合い、耳に噛みつく。
 ネイサンが腰をすりつけるようにし、旬果は意図を察して体を離した。ソファにだらしなく背中を預けると、ネイサンのものが突き立てられるように入ってくる。
 開き切った秘口は難なく彼のものを受け入れる……反り返った先端が膣をなぞっていく。旬果は喉をひきしぼるような嬌声をあげた。
「あぁ……すごいな」
「中ぐちゃぐちゃ……っ」
「そうだな……俺のが混ざってるから……」
 ネイサンは快楽をじっくりと味わうように旬果を攻めた。一度出したからか、余裕が出たらしい。
 旬果をしっかり見つめながら具合を確かめている。
「ここ、Gスポットだろ? 好きだよな」
 快楽が一点集中しているような場所だ。先端で軽く突かれ、じわじわ広がる快感に旬果は思わず目をつぶる。
 はあ、はあ、と荒々しい旬果自身の息。汗が浮かび、肌が吸いつくようだ。
 人の入らぬ森に来たようだ。汗が浮かぶと、果実をつぶしてすりこまれた香木のような彼のにおいが立ち上る。
 うっすら目を開ければ、うるんだ視界には自身の茂みをかき分けるように出し入れが繰り返されるものが見えた。
 彼も興奮しているのが、嫌でも伝わってきた。
 頬に手を伸ばし、身を起こしてキスをすれば、ネイサンは深く角度をつけて応じる。
 そのまま乳首も犯すように口で愛撫され、背中がのけぞった。
「こんな……っ激しい……!」
「ふふっ。まだ足りないくらいだ……もっと君が欲しい」
 ネイサンは旬果をぎゅうっと抱きしめた。合わせて体の奥に差し込まれる。
「……っ!!」
 声にならない嬌声とともに、また軽くイッてしまった。
 それに気づいたネイサンが旬果の顔を撫で、半開きのままの口にキスをした。
 そのまま抱き起され、ネイサンが腰かけると旬果は彼の胸に身を預ける恰好になる。もう動けそうにない。
「大丈夫か……?」
「だい……じょうぶ……」
 疲れはしたものの、まだ体の奥はくすぶっている。ネイサンの熱いペニスが動くのを期待していた。
「そのまま、休んでて良いから……」
「ひゃっ、あ……」
 太ももに手が置かれ、体を揺さぶられる。
 下から貫かれると、まるで逃げ場がない。中で奥と先端が混ざるように絡み合い、離れないのだ。
「んん……ん、んっ」
 声が耐えきれず出ていく。ネイサンはこちらをまっすぐ見上げていた。
 狼のような危うい気配が減り、何か希望を見出したように瞳を輝かせて。
 旬果は腕をつっぱり、背筋を伸ばした。
 ぐいぐい突き上げられ、腰が揺れる。どっちが動いているのかもはや分からない。
「あーっ……もう……!」
 背中をのけぞらせると、一気に快楽が突き抜けて行った。中に熱いものが迸り、ネイサンが身体を引き寄せきつく抱きしめてくる。
 余韻が奥に浴びせられ、耳に唇と舌の感触が落ちて来た。
 ネイサンの鼓動は早く、汗ばんだ体は熱くなっていた。

 休憩に、と二人で風呂に入った。湯はまだ溜まっていないが、体温は高く問題ない。
 バスタブは小さく、ネイサンの膝の間に入らないと二人では厳しい。
 それでも離れるのが惜しく、旬果は背を胸に預けた。
 ネイサンの手が湯をすくい、旬果の肩にかける。
「思ったよりずっと大胆だ」
「……私?」
 振り返ると、気安い笑みを浮かべたネイサンの視線とぶつかる。
「ああ。こんな誘いを受けるとは」
 旬果は笑みを浮かべてみせる。
「これでも大勢の前で踊っていたのよ」
「確かにそうだ」
 ネイサンは旬果を抱き寄せた。
「君は大胆なだけじゃなく、行動力も決断力もある人だ」
 ネイサンは旬果の細い肩に顔を寄せる。彼の髪から落ちるしずくが胸に流れた。
「どうしたの?」
「いいや。君の肌をよく覚えておこうと思って」
 そう言う彼の手つきは徐々にあやしくなってきた。腹部を撫でていた手は上にあがり、柔らかい乳房に回される。
「休憩なんじゃ……」
「君は休んでろ」
「え、ちょ、ちょっと……」
 きゅう、と柔らかい乳首が摘ままれる。と、すぐに子宮に甘い刺激が走った。
「ん……!」
 風呂場では声が反響する。旬果は顔を熱くし、口を押えた。
「なぜ声を隠すんだ?」
「恥ずかしいの」
「大胆だったはずだろ?」
「それとこれとは……ふぁっ」
 彼の親指が乳首を弾いた。たまらず声が出る。
「ネイト……待ってっ」
「今夜は……解放出来ないって、言っただろ?」
 ネイサンは肩口に強く吸いついた。それが首に登ってくる。
 熱い息が彼の興奮を物語っていた。
 摘ままれ、はじかれ、すっかりこりこりと硬くなった乳首は、じんじんと甘く疼く。
 旬果は熱く吐息し、ネイサンの肩にもたれかかった。
「休憩って言ったのにぃ……」
 批難する声は高く、舌ったらずだった。これでは説得力がない……やはりネイサンはふっと笑って旬果に口づけただけだ。
 手は腹部をたどっており、旬果は脚を開く――そこでネイサンは手を止めてしまった。
「休憩だったな」
「もう……ずるい……っ!」
「じゃあ、ベッドへ行こう」
 ネイサンは旬果の腕を肩に回し、ひょいと抱き上げる。
 シングルベッドに二人で倒れ込んだ。
 マットの適度な弾性が二人を包むと、安心感が出てくる。旬果は腕を伸ばし、甘えるように彼の首にすがった。
 ネイサンの唇が肩に触れ、舌がそこを舐め軽く歯が立てられた。
 くすぐったいような痛みが走り、肩が跳ねる。
「ん……」
 出来上がった体は刺激に弱くなり、ネイサンの手が乳房と乳首を撫でさすっただけでまた秘口から淫蜜が溢れてしまう。
 腰は力を失くしたが、背中をベッドに預けると勝手に揺れ動いた。
「もう挿入て良いか?」
 目をのぞき込んでくる彼の目は瞳孔をいっぱいに開いている。
 前髪が降りると、いつもより若く見えるな、なんてことを旬果は思った。
「うん……中、来て……」
 舌足らずな返事。ネイサンは彼女の口をふさぐと、その舌を絡めとってペニスを秘口にあてがう。
 開き切ったそこは難なく彼のものを受け入れた。
「あ、あっ!」
 ずぷっ、と大きな水音が立つ。
 遮るものがないためか、滑らかに挿入されてはぬるぬると出ていく。
 熱を味わうかのような彼の動きに、旬果は翻弄されっぱなしだ。
「はあ……あぁっ、……気持ちい……ネイト……」
 脚を持ち上げ、より深く彼のものを奥へ誘い込む。
 するとネイサンは旬果の脚を腕にひっかけ、大きく開かせた。
 そのまま覆いかぶさるようにすると、より深く差し入れる。
 律動が始まった。ベッドは悲鳴のようにギシギシ音を立て、ネイサンの吐息混じりの声が部屋に流れ始めた。
「好き……好き、ネイト……」
「俺もだ……もっと言ってくれ」
「好き、大好きっ……」
「もう、イキそうだ……全部受け止めてくれよ」
 旬果は何度も頷く。
 もっと欲しい。全部欲しい。
 あられもない願望が溢れ、涙が流れた。
 ずっ、ずっ、と秘部を密着させたまま激しく腰がぶつけられる。
 まるで種付けみたい――そう思うと、体の奥底から危うい熱が生まれ、頭がぼーっとしてきた。
 彼も一緒なのだろうか。
 口で息する彼も頬まで真っ赤で、中のペニスは出口を求めて荒々しく彷徨う馬のよう。
 ぐんっ、と突き上げられ、快感の波が打ち寄せて来た。
「もうだめ……あっ、ネイト……っ!一緒に……っ」
「ああっ……!」
 唸り声のような声とともに、熱い精液が奥に浴びせられた。
 ネイサンが腰を震わすたびに溢れ、腰がびくびく跳ねる。
「旬果、まだ、このままっ……」
 とネイサンは旬果をきつく抱き、腰を擦り付け射精を促す。
「……まだ、出る……」
 ぐいっ、と奥を再び突き上げられ、甘い刺激が全身を犯していく。旬果は枕を掴み、中に広がる彼の熱さを味わった。

 ようやく疼きもおさまり、二人で裸のまま抱き合って過ごす。
 深夜も深夜だ。クチナシの花は夜ほど香りを濃くするというが、こうなってはもはや旬果のにおいなのかどうかもわからなくなっていた。
 深く愛し合った後、充実した疲れが襲ってきたが、旬果は手を伸ばしてスーツケースの上に置いていた箱を取った。
「これ……」
「ん?」
「プレゼント……あなたに」
 箱を開ければ、革と銀のブレスレットがわずかな明かりできらめく。
「……伝統の贈り物だな。俺には無縁だと思ってた」
「もらってくれる?」
「もちろんだ。何より嬉しい」
 良かった、と旬果は胸を撫でおろした。それと同時にじわじわ喜びがわいてくる。
「つけてくれ。大事にする」
「今?」
「ああ」
 留め具を外し、彼の左手に回す……傷痕があるはずだが、明かりは少ないため、全ては見えない。
 旬果は気づかないふりをして、ブレスレットをつけた。
 好きな人に身につけるものを贈るのは、そしてそれを手ずからつけるのは、不思議な気分だ。
 なんというか、とても気恥ずかしい。
「ブレスレットの意味を?」
 ネイサンはそう訊いてきた。
「中世、戦争へ行く家族のために女性が贈ったって……」
 ネイサンは穏やかに微笑むと、旬果の肩に手を回して抱きしめた。
「……そうだな。そういう意味だった」
「違ってた?」
「いいや……合ってるよ」
 額にキスが降りる。
 体温が心地いい。もう抗えないほど眠気が襲ってくる。
「……もう眠ろう。旬果、明日は送れないけど、君の無事を祈ってる」
「うん……また会える?」
「ああ」
 ネイサンの返事が聞こえるが、続きは聞こえなかった。まぶたが落ち、もう限界だ。
「……全てを終わらせて、君のもとへ帰るよ」
 その言葉は夢の中の旬果には届かなかった。

 一か月滞在したオテル・パラディソはすっかり空になった。
 荷物のない部屋は風が遠慮なく吹いて、旬果がいたという気配を洗っていくようである。
 アンティークの鍵も、これで触るのは最後。
 支配人に礼を言って、鍵を渡す。
「お世話になりました」
「ああ。人生の一幕として、素晴らしいものになったら幸いだよ」
「もしかしたら一番充実した一幕かもしれません」
「それは良かった。良かったよ。彼にとってもきっと良い一幕になったはずだ」
 支配人が言ったのが、ネイサンのことだと気づかないわけがない。
「それはどういう……」
「シュンカー!間に合って良かった!」
 玄関が開かれ、フランチェスカがひまわりのような笑顔を浮かべて入ってきた。
「これでお別れってわけじゃないし、サヨナラを言いに来たんじゃないのよ」
 ぎゅっと抱きしめられ、「ハイ!」とフランチェスカは花束を渡した。
 クチナシを中心にした小さな花束である。
「無事の帰国を願ってるわ。また会えるのを楽しみにしてるからネ!」

 慌ただしくタクシーに乗り込み、二人の見送りを受けて空港へ。
 帰り道、ゆっくりと走る一台の車とすれ違った。
 後部座席にはプラチナブロンドの男性。薄い青の目が印象的で、豹を思わせる風貌だ。
 確実に目が合った。
 一瞬でも見れば忘れないだろう顔立ち。
 目を逸らすことも許されないような感覚。旬果はそういえば、ネイサンと出会った時にも似たような印象を受けた、と思い出した。
 昨夜の約束通り、ネイサンは仕事のため見送りには来なかった。
 時間が迫り、案内に従って飛行機に乗り込む。
 座席に座って窓を見れば、これから行く空。そして確かにそこにいたイタリアの地。
 旬果の事情を知らない飛行機は走り出し、飛んだ。

次の話へ→【コキュートス -月下のバレリーナー】第8話

 

 

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