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Tale of Empire -蛇王の秘宝編ー 小説

Tale of Empire -蛇王の秘宝編ー 第3話 互いの事情

 ダリアの街は兵士達に溢れていた。
 食堂に風呂場、娯楽施設、と歓楽街はいっそう賑やかで、いっそう荒ぶっている。
 女達は日中でさえ危険だから歩けなくなっているらしい。
 無理もない。
 すさんだ男達が路頭に居座り、ホームレスになり、スリや強盗が起きているのだ。
 王国としてもここの整備はしたいようだが、手が足りない。
 そして治安を守るはずの軍が機能しないのだ。
 それもこれも、ダリアの街が持つ、良くも悪くも雑多なものを受け入れ、隠してしまう性質のせいだろう……裏通りに入ればすぐに娼館だらけだ。
 仕事目当ての女達は化粧も濃く、甘ったるい危うい香りを纏っている。
 その香りにどれだけの副作用があるかわかったものではない。
 シリウスは鼻までスカーフで隠し、昼だと言うのに妖しく誘う女達をかわし、一軒目の娼館を訪れた。
 小さい店で、女も少ない。
 受付にいたのは仮面をつけた、おそらく男である。
 ボディガードも何人か立っている。
「黒髪の娘はいるか?」
 声をかけると、仮面の男は手品でもするかのように手を組んだ。
「黒髪がお好み?」
「まあ、そうだ。年は17、8……アイリスの女じゃない。ウィローあたりの」
「うちにはそんな子いませんね」
「邪魔したな」
 シリウスがきびすを返すと、予想通りにボディガードが立ちふさがる。
「兄ちゃん、せっかく来たんだ。遊んで行けよ」
「悪いが、時間がない。あんた達も、客にならない男を相手にするより、仕事をした方がよほどいいんじゃないか」
「すぐに出て行かれるとな、悪評が立つんだよ。満足させられなかった、ってな」
「なら裏口から出るさ」
 シリウスは一歩下がる風を装うと、ボディガードはシリウスの肩を掴もうとした――その瞬間に彼の足をひっかけ、何が起きたかわからないうちに彼を転倒させる。
 全員が驚いている間に、シリウスは店を出た。
 下らないことに時間をかけたくない。
 次の店は二階建てだ。建てたばかりという雰囲気である。
 商売しているのは若い女が多そうである。
「黒髪の娘はいるか?」
 差し出されたのはそばかすの多い少女。
 違う、とシリウスは店を後にした。
 老舗であるという娼館に入る前に竜人族であることを隠す。
 シリウスが旅人を装うと、受付の男はシリウスを品定めするように全身を見、頷いた。
「黒髪の娘はいるか?」
「いますとも。当店では帝都の世慣れした娘に、バーチの色白の娘、アイリスのじゃじゃ馬、エリカの素晴らしい肉体を備えた娘にウィローの品ある娘が」
「年は17,8……金の髪飾りに腕輪をつけていた。踊り子もやっていたらしい」
「名前は?」
「いや……知らん」
「とにかく17、8の黒髪娘を用意させましょう。どうぞお部屋でお待ち下さい」
「いなければ出て行く。ここで待たせてもらう……酒代は払うさ」
「ご遠慮なく。お目当ての娘がいなくても、本日お気に召せば……」
 男に促されるまま、部屋に案内される。
 どちらにせよもう夜が近づいていた。
 ダリアまで来る時、全て野宿だったのだ。多少休まねば流石に体も持たない。
 今日の宿はここか、とシリウスは決めた。
 やがてノックされ、酒を手にした男と娘が入ってくる。年の頃は17,8。黒髪の、ほっそりとした体つきの。
 哀れなほどに痩せていた。
「……」
「……黒髪はこの娘だけか?」
「はい」
「そうか……」
「どうなさいます? 他の娘もご覧に?」
「いいや、今日は疲れた。……本当に他にはいないんだな」
「はあ」
 男が下がり、娘と二人になった。
 シリウスは彼女に下がるよう言ったが、よく考えればそれをすれば彼女はどうなる?
 他の客を取らされるか、あるいは役立たずと悪評が立つのか。
「お、お酌でも……いたしましょうか」
「いや、良い。気にするな。何もするな。俺はもう寝る」
「でも……?」
「良いんだ、人捜しをしているだけ……そうだ、まさかと思うが、知らないか?」
 シリウスは金の髪飾りを彼女に見せた。
「これに見覚えは?」
 娘は首を横にふった。
「……娼婦じゃないのか」
 シリウスは寝台に寝転び、目を閉じる。
 強行軍の疲れが一気に襲ってきた。
 強い度数の酒の香りのせいもあるかもしれない、すぐに眠りに落ちた。

 翌日、シリウスが目覚めると娘の姿はなかった。
 服を着替え、荷をまとめる――ない。
 金の髪飾りが、ない。
 盗まれたか、あの娘か。
 シリウスは部屋を出て、階下に急ぐ。
「おい、昨日の娘は? 黒髪のだ」
「落ち着いて下さい、いかがされましたか?」
「盗みだ」
「なんと……おい、黒髪のだ。探せ!」
 店中が騒がしくなる。
 シリウスは部屋に戻り、部屋中探し回ったがやはり髪飾りは出てこなかった。
「大変、申し訳ございません。代わりと言ってはなんですが、お代は結構です」
「カネの問題じゃないんだ。あれがないと……いや、違う。娘は?」
「消えました」
「盗んでいったか。……全く」
「申し訳ございません」
「うかつだった。そりゃそうだ、カネに困っている女の前で出すものじゃなかった……」
 シリウスは舌打ちし、店を後にする。
 いつかクレマチスと出会った神殿へ向かった。娼婦でないなら何者だ? もしかしたら、旅芸人の一人で、あの時はたまたまダリアに立ち寄っただけだったのかもしれない。
 だがオウルとプルメリアを信じるならば、会えるのだろう。
「……参った」
 思わず女神像の前で弱音を吐く。
 こんな雲を掴むようなことを。名前も知らない、一度偶然に会っただけの娘をどうやって探し出せと言うのか……時間が惜しい。
 やはり皆の元へ戻って、再興のため尽くした方が良いのではないか……そう考えていると、やけにうるさく騒ぐカラスの声に意識が戻される。
 カラスが樹上から飛び降り、何かに襲いかかっている。
 ネズミか何かだろう、と気にしなかったが、次に聞こえてきたのが女の悲鳴なのだから放っておくことも出来なくなった。
 シリウスは半ばイライラしたまま、外へ出た。
 ギャア、とカラスの威嚇する声に混じる、女のかぼそい声。
 近くへ駆けつければ、昨夜のあの娘だった。
「シッ、シッ!」
 カラスを追い、娘を助ける。
 くちばしにずいぶんやられたようで、肩には生々しい傷口が出来ていた。
 細く泣く娘はシリウスの姿を認めると、髪飾りを差し出した。
「ごめんなさい……」
「……店に戻ると大変だぞ。このまま逃げろよ」
「でも……」
「ウェストウィンドだ。保護してもらえ」
 シリウスはそれだけ言い、彼女に背を向ける。
「へーえ、いつかと同じ。困ってる子を放っておけないみたい」
 樹上から声がふってきて、シリウスは目を見開いて見上げる。
 黒髪に、猫のような目つき。異国風の雰囲気を纏った、あの時の娘。
 だが、ものものしく外套を纏い、まるで逃亡者か盗人のような姿だ。
「……」
「どうする? お嬢ちゃん。あたしだったらお礼するけど」
「やめろよ、俺は求めてない」
「そう?」
 あの時の娘は木から降り、シリウスの前に立つと腰に手を当てて口の端を持ちあげた。
「ありがとう。これ、気に入ってたの」
「……」
「あれ? 返してくれないの?」
 シリウスは反射的に彼女の手に届かないよう、高く持ちあげていた。
 目はきつく彼女を見たままに。
「……なぁに? 意地悪」
「君を探してたんだ」
「何で?」
「君が鍵を握っていると……」
「か・ぎ……」
「名前は?」
「ミラ」
 やけにあっさりと名乗った娘――ミラは、シリウスから髪飾りを取り戻すのを諦めたのか、シリウスの腰元に手をやって上目遣いに見つめてきた。
「どうしたら返してくれる?」
「俺を案内してくれ」
「どこに?」
 そう言いながら、ミラの爪はシリウスの胸板を意味ありげになぞっていった。腹部に至り、腹筋をくるくるなぞる。
「くすぐったいな」
「とにかく、それを返してよ。そしたら夢の世界でもどこでも連れてってあげる」
「夢は結構。俺は現実が欲しいんだ」
「ここに来る人は皆夢を求めているのに……あっ」
 ミラはシリウスの影に隠れるようにして身をかがめた。
「どうした?」
「あたし、追われてるの!」
 ミラはシリウスからスカーフを取り上げると、髪を隠すように巻き付けた。
「案内とか知らないわ。でも、助けてくれる?」
「誰に追われてるんだ?」
「マグノリアの残党!」
 ミラの一言にシリウスは眉を寄せ、すぐに彼女の手を取りその場を離れた。

 先ほどの宿に入り、部屋に入ると戸を閉める。
 窓から見れば、誰かを探している様子の者が数名いた。
 だが宿には入ってくる様子はない。シリウスは彼らが遠く去るのを見届けるとミラを振り返った。
「はぁ~、良かった」
「なぜ魔女のことを知ってる?」
 シリウスはミラの肩を掴み、声を険しくさせた。あのことを知っているのは、王国内の限られた者達だけだ。少なくとも今は、混乱を防ぐために民は報されていない。
 100年前に死んだはずのマグノリア王女が内乱を起こした、などと。
「それは……まあ、そうね……」
「ごまかすなよ、ばあさまやプルメリアがなぜ君を予言したのか。まさかコネクションの者だから、じゃないよな」
 だが、もしそうなら?
 コネクションは必要とする者に、必要とするものを届けている。
 魔女マグノリアは並の寿命をはるかに超え、若い姿に変化したのだ。
 もはや何があってもおかしくない。
「そうね……」
 ミラはシリウスの目から逃れようと明後日の方を向いている。
「あの、ちょっと痛いんだけど」
「話せば離す」
「何それ。ああ、もう、余計なこと言っちゃった。わかった、お兄さんには話してあげる。あたしはコネクションと関わりある人の養女なの」
「コネクションと関わり?」
「そう、コネクションに在席してるわけじゃないけど、ちょっと協力してる……みたいな」
 シリウスは約束通り、手を離した。が、ミラが逃げていかないよう、彼女の両側に手をついた。
「それで、つまり、マグノリアはせっかくの力を悪用したから……あたし、やっちゃった」
「何を?」
「あいつの命を守ってた結界ってやつを破壊したの」
 シリウスは言葉を失い、ミラを見た。
 彼女の説明は要領を得ないが、嘘があるとは思えない。
「……」
 シリウスがそのまま見つめていると、ミラは困ったように首を傾げ、笑みをつくって見せた。
「で、疑問は解けた? あたし、そろそろ帰りたいんだよね」
「帰る?」
「ここあたしの家じゃないから。これでもちゃんと帰る場所はあるの」
「どこだ?」
「蛇王様のもとよ」
「蛇……王?」
 シリウスは聞いたことがない名称だ。
「どこにいるんだ? その蛇王とやらはコネクションの者か?」
「まさか。養父の知り合いよ。だから、まあ、ちょっとだけコネクションに関係してる。コネクションに関わるのは、ずっと探してる人がいるんだけど、見つからないから」
「誰を探しているんだ」
「蛇王様のご子息よ。彼が見つかりさえすれば、命の秘宝が……」
「命の秘宝だと!?」
 シリウスはいよいよ大きな声を出し、すぐにミラの手によって口を塞がれた。
「しーっ!」
「……すまない。今、命の秘宝と言ったか?」
「言ったわ。それが何か?」
「俺はそれを探してるんだ。本当に予言の通りなのか……君が導き手」
「はぁ? その予言って、何?」
「それは……」
「あたしがここまで話したんだから、そっちも話してよ。知らない所で話題にのぼるなんてちょっと嫌な感じよ」
「……俺の仲間に予言者がいる。二人な。その二人が揃って、アイリスを癒す秘宝の話と、それを導く存在の話を」
「それがあたしって?」
「君が残した髪飾りから読み取った……ようだ」
「あれは蛇王様にいただいたものよ」
「ふん」
 シリウスは途端面白くなくなり、思わず鼻を鳴らした。
「何よ」
「何も。そうか、なら……その蛇王とやらに会えれば、命の秘宝が手に入るかもしれないんだな」
「どうかな」
 ミラは思わせぶりに肩を持ちあげる。
「無理かも。命の秘宝は……」
「なぜだ?」
「なぜも何も……そこまで話す理由はあたしにはないな」
「俺には聞く理由がある」
「理由ってなぁに?」
「その命の秘宝とやらは、アイリス王国と竜人族を救う鍵なんだ。頼む。案内してくれ」
 シリウスは頭を下げた。
 彼女の顔は見えないが、とにかく逃げる様子はない。
「王国と竜人族を救う?」
「そうだ。それがあれば、戦火で枯れた大地が癒されるのではないかと」
「だから何? 戦争したのはそっちの勝手でしょ、あたしや蛇王様がなんでそれを助けないといけないの? 自分でやったことの責め苦くらい、自分達でおわないとしでかしたことの重大さがわからないんじゃないの」
 ミラの鋭い指摘に、シリウスは眉を思い切り寄せた。
 おそらく彼女を睨んでいるだろう。が、ミラはそれを平然と受け止める。
「ああ、また目が赤い。不思議な目ね。あの時も色が変わってた」
「アイリス王国を見て、何か感じないか? 俺たちが責め苦を背負うのは仕方ないことだ。だが、無関係の者達まで苦しんでる。一番真っ先に犠牲になるのは女子供だぞ」
「だとしても、それを救うためにあたしたちに力を分け与えろって言うわけ? こっちだっていっぱいいっぱいなのよ。同情をひけば何とかなるとでも思ってる? どうであれ戦争したのはそっちよ」
「仕方なかったんだ」
「仕方ない、仕方ない、で犠牲を出したのは誰なのよ。その犠牲も仕方ないで片づけるつもり?」
 シリウスは唇を噛んだ。
 彼女の言い分に何となく思うところがあったのだ。そう、責任は自分たちで……いや、それがいかに自己満足な考え方だったか。
「……わかってはいるんだ」
「ならもう良いでしょ。助けてもらった分、それなりには話した」
「待ってくれ」
 すり抜けようとしたミラの手をシリウスは掴んだ。
「先のことを正当化するつもりもない。だがそのために未来を閉ざすことは、それが最も許されないことだ。未来の可能性を広げたい。それさえ出来れば……蛇王から奪うつもりはない、代わりに何か必要なら……」
「蛇王様が必要としているのは巨大鷲の卵よ。昔マグノリアがそれを捧げて変化の術を得た。まあ、あの魔女くずれがアイリスをあんな風にしたのよね。それについて謝る気はないけど。だってあんな計画知らないし」
「知っていたら力を貸さなかったか?」
「多分ね」
「なぜ巨大鷲の卵が必要なんだ」
「蛇王様のお食事だからよ」
 シリウスはなるほど、と頷いた。
「……それさえあれば、命の秘宝と交換してもらえるのか?」
「今はもうないでしょ。巨大鷲の卵は300年に一度しか生まれない。マグノリアが持ってきてから100年くらいしか経ってないもの」
「見たように言うんだな」
「見たからね」
 シリウスは目の前の娘を見据えると、また眉を寄せた。どう見ても年下だ。17,8歳にしか見えない。
「……」
「何よ」
「年下かと」
「ふふん」
 ミラは得意げに笑うと、シリウスの胸元をついた。
「マグノリアと同じよ。まあ、あたしは灰にはならないけど」
「なぜだ?」
「あの魔女くずれはあの時点で寿命を越えてた。あたしは、そうじゃないってだけ」
「……君は何者なんだ?」
「さあ? 自分でもわからないわ。物心つく前にさらわれたらしいから」
 ミラは腰に手を当て、シリウスを見上げた。
「蛇王様も、もうご老体よ。そして跡継ぎがいないの。このままではウィローの存続自体危ぶまれるのに、アイリスのことまで見てあげられないわ」
「それを救う手立てはあるだろう? 互いに協力出来るんじゃないか。蛇王の遣いでも何でもやる。その代わり、アイリスと竜人族を救うために……秘宝が無理だとしても、何か知恵は貸してくれ。ウィローは他の王国に比べれば豊かだし、長寿の国で、平和だと聞いた。その秘訣でも充分だ。頼む」
「遣いでも何でもやるって?」
 ミラの声が低くなった。
 シリウスは彼女から目を逸らさず、続ける。
「さっき追われていただろう。連中が狙っているのは一人旅の少女だ。俺と一緒なら多少目をごまかせる。ただでさえ女の一人旅は危険だ、前も襲われていただろう。護衛でも何でもつとめてやる」
「……」
 ミラはシリウスの目をじっと覗き込んだ。彼女はどことなく危うい毒を思わせる、ぎらついた目をしている。
「……良いわ。命の秘宝のことは蛇王様が決める、一緒に来て。ただし期待はしないでよ。命の秘宝には期限があるから、もうギリギリなの。数も限られてる」
「……わかった。ありがとう」
 シリウスが礼を言うと、ミラは目を見開いた。
「何だ?」
「……別に。じゃあ、行こう」
 ミラはシリウスの手を取り扉を開けた。

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