当サイト「椿の庭」は、広告収入、「OFUSE」からの投げ銭を収入源として運営されています。

Tale of Empire -蛇王の秘宝編ー 小説

Tale of Empire -蛇王の秘宝編ー 第1話 新たな旅への誘い

 先の戦闘が終わって半年が経つ。
 アイリスは新たな王をいただき、国の再興のために動いていた。

 先代の王・ジェンティアナは帝都で静かに暮らしているという。
 ジェンティアナは憔悴した様子で、とても帰還は果たせそうにないとの旨だった。
 竜人族の実質リーダーであるシリウスは、王弟となったロータスから土地を巡っている時にその報せを受け取った。
 竜人族の新たな集落に適した土地を探している途中のことである。
 静の森を出て、東。
 名もなき平野はかつて海の底だったが、隆起した際に平野になった場所だ。広々とし、ダイヤモンド山も見える。道を舗装すれば、竜人族には良い土地だろう。
 しかし戦火を受け少なからず悪影響が出ていた。馬蹄に踏み固められ、火にかけられた跡が痛々しく残っている。
 さらに湖だ。
 魔女によりアイリス王国を支え、育んでいた水源がことごとく利用され、淀んだ水はカビによる病を誘い、それを燃やしたため水源の一部は破壊されている。
 ロータスは手紙を届けるという役目を終えた帝国軍の鷹を放し、青々と澄み切った空を見上げ、下に視線を映す。
 ダイヤモンド山の噴火の影響で、灰がどこにも薄く積もっている。
「このままでは王国全体、農業に支障が出るか」
 シリウスは唸るような声でそう言った。
 足下の土を掴み、持ちあげる。手を開くと、湿っているはずの土は砂のようにさらさらと風に流れていく。
「参ったな。ここまで土地が疲弊するとは……」
「火山の影響だろうか?」
「戦闘の影響もあるだろう。どうしたもんか……」
「帝都から専門家をお呼びしよう。そうすれば土地探しの知恵を貸して下さるかも……」
「ねえ、ねえ」
 ロータスの袖をプルメリアが引いた。
 土地や森林、果ては死者の「気」とやらに敏感な彼女は、新たな土地を巡るのに不可欠な人材である。その彼女の言うことにはシリウスもロータスも耳を傾けた。
「土地を探す必要はないって、言ってるよ」
「え?」
「いや、プル……」
 枯れ果てた土地にいても仕方がない……と言おうとしたその時、プルメリアはまぶたをおろして口を開いた。
「もうすぐその”導き手”と出会う……」

 プルメリアの予言から2日が経った夜。
 王国からは支援物資として、申し訳程度の保存食が届いていた。
 竜人族は持ち前の体力を活かし、王国内の各地で王国軍とともに倒壊した家屋を立て直し、野山を駆ける獣を仕留め、と日々働いている。
 かつて争った仲ではあるが、今関係性はある程度は良好だ。
 王弟であるロータスは竜人族の混血児であることを公にし、その仲立ちとして動いていることもあるだろう。
 ぎこちなくはあるが、王国軍の兵士達も竜人族も、個々で交流を試みている。
 シリウスはテントからその様子を見ていた。
 酒を片手にすぐに打ち解ける者達もいるが、かつて争った間柄である、距離を取っている者達も多い。
(今は良いが)
 微妙な均衡を保っていられるのは、ロータスという存在あってのことである。
 彼というある意味圧力があるから、どちらも「敵対視しないように」という意識を持っているだけだ。仲良くしたいという前向きな意識はまだ芽生えにくいのだろう。
 シリウスは地図を広げ、何度目かわからないため息をついた。
「食料も底をつくぞ……」
 と呟いたその時、幕が開かれる。
 振り返ると元妻であるベリルがそこにいた。
「どうした?」
「オウルが呼んでるわ」
 ベリルはカンテラを持ち先導する。
 いくつも設けられたテントの中で、一際大きいテントはベリー家のものである。
 入り口の幕前にはベリー家の郎党であり、狩人ルビーが立っていた。
 二人を見ると笑みを見せ幕を持ちあげる。
 中は炭が焚かれ、かなり温かい。
 絨毯はいくつも敷かれ、テーブルなどの調度品はそこらの宿のものより立派だ。
 ベリルの祖母であるオウルは、奥の間でハーブティーを飲みながら待っていた。
 オウルは器用にティーポットを操ると、シリウスとベリルにそれを勧める。
「連れてきたわ」
「うぅむ。夜遅くに悪かったね」
「じゃあ、私は……」
「お前も一緒にいなさい、ベリル」
 オウルの言葉にベリルはシリウスを振り返った。
 彼女はいぶかしむような目線を送ると、肩をちょんと持ちあげる。
 シリウスは促されるまま彼女の前に座り、ベリルがその隣に座った。
 ハーブティーに口をつける。
「あの金の髪飾りの娘だが」
 その瞬間にシリウスは吹き出した。
 喉に茶葉が張り付き、激しく咳き込む。
(急に何の話だ!)
 心配顔のベリルに手を振って無事を告げながら、思い出すのはダリアという街での思わぬ慰めを受けたことだ。
 野良猫のような、高貴な猫のような、なんとも言えない複雑な雰囲気を持っていたあの娘。
 金の髪飾りをシリウスの元に落として去った。
 どこぞの娼婦だろう、と思い、忘れようとしていたのだ。
 その娘のことが話題に昇るとは。
「急に何なの?」
 流石にベリルが疑問を持ったようだ。
「何でもない……」
「その娘が”鍵”を握っているそうな。シリウス殿、思い当たる節は?」
 オウルの言葉は意図すらわからない。
 シリウスは首を横にふった。
「……何の話かすらわからない」
「すまぬ、よぎったまま伝えてしまった。そうだのう、プルメリアが何か言わなかったかね」
「言っていたな。土地を探す必要はない……導き手が来るとかどうとか。だが、全く意味がわからん」
「あの子も私も完璧には予言出来ぬようだ。困った、困った」
「オウル、金の髪飾り……って何のことなの?」
「シリウス殿の浮気相手だよ」
「えっ」
 ベリルの目が大きく見開かれ、シリウスを見た。
「おい」
「あ、ごめんなさい。でも、そうね。クレマチスより若い娼婦って聞いた……はずね」
 ベリルには確かにそのように伝えている。
 お陰で当時は彼女に睨まれたものだ。
「茶葉を取ったらその金の髪飾りが落ちてきてのう。手に触れた時に何か訴えてきたのだよ。”ここに命の秘宝がある”と……そして主のもとに戻る、と。主とはその娘のことに他なるまい」
 オウルは髪飾りをシリウスに手渡す。
シリウスは髪飾りの主ではないが、かといって他の誰が持ってもおかしい。
 ”一応”預かっている恰好だ。
 しかし、オウルの予言はいつも曖昧で、具体的なものがない。しかし重要なことを告げていることだけは確かだ。
 シリウスは流石に眉を顰めた。
「命の秘宝?」
「枯れ果てた大地に命の秘宝……まあ、物事とはタイミングが全てとも言うであろう。この疲れ切ったアイリスの大地を癒す秘宝ではないかと思う」
 オウルははっきりとした声音で言い切った。
 プルメリアといい、オウルといい、ずいぶん無責任なことを言うではないか。
 そんな博打に多数の命を任せられるだろうか?
 シリウスは首を捻り、頷くことはしなかった。
「もっと具体的にわからないものなのか?」
「すまぬ」
「オウルの予言は確かよ。プルメリアも移動する必要はないって言ったんでしょ? だったらその命の秘宝とやらが解決策になるかもしれないわ」
「そうは言うが、そんな中途半端なものに縋るより、もっと確かなものが欲しい。……今は水源だ。水源の確保、猟場の確保だ」
「それはもちろん、わかってるわ。静の森だけではこの人数を支えられない。でも、だからといって、これだけ重なるような予言を無視するのも気がひけるわ。彼女とはダリアの街で会ったのよね? そこに行けば……」
 ベリルの言いたいことはわかるつもりだ。
 だが、とシリウスはついに首を横にふる。
「今は予言のために動くことは出来ない」
「シリウス殿……」
「皆必死だ。当てずっぽうに動けないよ」
 それだけ言うと、シリウスは二人を残してテントを出た。
 夜風は冷たく、やはり渇いたまま。
 ぶるっと肩を震わせると、自身のテントへ戻る。
 手の中に納まっていた金の髪飾りが、やけに軽かった。

 翌朝、やけにカラスがうるさく鳴いていた。
 遠く静の森が見える。その方角だ。
 ベリー家のテントは急ごしらえの会議場にもなっていた。
 シリウスはそこへ向かう途中で腹心のジャスパーと一緒になり、連れだって歩く。
 シリウスは彼を一瞥すると口を開いた。
「王国はどこも似たような状態だ」
「戦闘に明け暮れて、まともに土地の面倒を見なかったせいでしょう。唯一まともなウェストウィンドはもう避難民と農民でいっぱいだ」
「ロータスの土地か……あそこはそうだな。兵士達のオアシスでもある」
「そういう成功例もあるんだ、何とかなります」「だからこそ今は今の糧を得ないと」
「張り詰めすぎですよ。帝国からも支援はある」
「その支援を届けるための道すら危うい。帝国からも人を寄越したいが、その人員を支えないと結局共倒れだ。ジェット将軍もなかばこの土地に囚われているようなものだろう」
 ジャスパーはため息をつき、「確かに」と言葉を落とす。
「野っ原が多く影が少ないせいで、野生動物も少ない。静の森の猟場を荒らせばまた奴らは逃げちまう。……シリウス、やはり移動しますか?」
「それが良いと思うんだ。もっと東へ行けばどうだろう? 川がある、魚は獲れるだろうし……」
 話し合いながらテントへ入ると、中にはベリル、ロータス、オウル、帝国四方将軍の一人ジェット、と主立った顔ぶれが並んでいた。
「遅くなったか」
「いや、私たちが早く来すぎたんだ。オウル殿が予言を得たと聞いて」
 ロータスは相変わらずまっすぐである。
 この時もシリウスを疑いない目で見てくる。
「予言?」
 ジャスパーは腕を組んで首を傾げた。
「ばあさん、次はなんて?」
「命の秘宝だそうだ。シリウス、あなたに関わりがあると聞いたが」
「そんな深い関わりはない。ただの通りすがりなんだ」
「どこで?」
「ダリアだ」
 ロータスは「ほう」と納得したように頷く。
「あそこは異文化が混ざり合う交通の要衝だ。色んな情報が集まってくる。今は王国軍が流れ込んでいるはずだが」
「だからこそ、今行くのは危険だろう」
「だからこそ、今誰かが監督をせねばならない場所でもある。戦に疲れた兵士が慰めを求めるのは結局……」
 ロータスは言葉を切った。
「すまない。こういう話はすべきじゃない」
「監督が必要ならば、副将軍を配置しましょう」
 ジェットが申し出て、ロータスは「では兄上に」とすぐさま対応する。
 確かに中立的な立場である帝国の軍人が入った方が良さそうだ。
 しかし、とシリウスは皆の顔を見た。
「なぜそんなに予言を気にするんだ」
「何か改善のきっかけになるなら、と必死なんだ。それにプルメリアも神がかりになったろう。二人を信頼してるのは、シリウス、あなたもだろう」
「それはそうだが」
「ならなぜそう、否定的なんだ?」
 ロータスの青いサファイヤの目がシリウスを覗き込む。
 なぜ?
 シリウス自身にもわからないことだった。
 以前ならわらにも縋る思いで静かの森を訊ねたものだ。
 それと同じのはずである。
 シリウスは額を押さえると、胸にたまった淀みを吐き出すように息する。
 ロータスが続けた。
「ここだけじゃない、王国全体に慰めが必要なんだ。ダリアの街に行き、ヒントを探す。それだけだ」
「そのためにカネも食料も無駄にするかもしれないんだぞ」
「動かずにいる方が危険だろう。何もしなければ、全てを無駄にする」
「それはわかっている。だからこそ、今必要なものを確かに得るのが先だ。ある程度蓄えが出来てからでないと、最初に犠牲になるのは誰だと思っている?」
 シリウスの一言にロータスはぐっと言葉を飲み込んだようだ。
 そうなった場合、子供から危険になる。
 ついで老人、女だ。
「……」
「悪いが、予言のためには動かせない」
 思った以上に低い声がテントに響く。
 しばらくの後、オウルが呟くように言った。
「一人だ。一人で良い」
 皺の増えた細い人差し指が穏やかに皆の視線を集めた。
「動くのはそなた一人で良いのだ」
「だが……」
「シリウス殿、そなたの意見はもっとも。皆疲れている中で、まだ働かねばならぬ苦労を背負っているのも事実。一時の安らぎを得るために、休みなく……。その中であるかどうかもわからない不確かな予言を当てにするのは、大博打以外の何ものでもない。だが、しかし、何かを変えなければ何も変わらないのだよ。ずっとこのままでいるわけにはいかない。ここは私たちが守り抜く。そなた一人で良いのだ」
 オウルの手が開かれ、シリウスに差し出される。
「持ってきたかね?」
「ああ」
 シリウスはため息まじりに返事すると懐を探り、金の髪飾りをオウルに手渡す。
 皆が見守る中、オウルは目を閉じると首をふった。
「もうじきだと告げておる。もうじき再会できるのだ、と。シリウス殿。そなた、行かねばならぬ」
 以前なら、シリウスはその通りにしただろう。
 だが今はその決断が出来ない。
 オウルを信頼しているし、プルメリアに対してもそうだ。
 そしてプルメリアはあの時、シリウスに「旅に出る」と告げた。
 皆のために行く、と。
「……」
 重い沈黙が流れる。
 誰も口を挟まなかった。

 その夜、シリウスは再びオウルの元を訪れていた。ベリルとプルメリアの姿もある。
 しんとした空気だが、嫌な気配はまるでない。
 女性達が過ごすテントだからだろう、どことなく柔らかい空気はすぐにシリウスを温かく包み込んだ。
「以前ならあなたは決断したわ」
 ベリルがそう言った。
「ああ」
「静かの森にも同行させるほどプルメリアのことを信頼していたし」
「……その通りだ」
「その金の髪飾りの人のことはもう気にしなくて良いのに。素性どうあれ、ダリアの街の人なら確かに色んな情報を持っているでしょう」
 ベリルの言葉には説得力があった。
「街へ行くだけでも、きっと良い情報があるかも」
「噂話ほど危険なものもないだろう」
「それに振り回されるようなあなたじゃないって、信じてるのよ」
「知っているだろう、この髪飾りがなぜ俺の手元にあるか。誉められた経緯じゃない」
「それならもう、気にしないでって言ってるでしょう。誰も咎めたりしないわよ」
「君らはな。ただの行きずりなら……」
 シリウスははっとして口を噤んだ。
 流石にベリルも勘づいたようである。
「……ああ、そうなのね。そうね、じゃないと、大切に持っておかない……」
 二人して視線を彷徨わせる。
 プルメリアの前で堂々出来る話ではない、シリウスは首をなぞるとオウルを向いた。
「それで? ダリアへ行くよう、説得するんだろ?」
「彼女のことを知っているのはあなただけだもの」
「それはもう、良い。ベリル。こっちへおいで。全くせっかちな子だよ、お前は」
 オウルに手招きされ、ベリルは一瞬口を尖らせたがその通りにした。
 オウル達と向き合う形でシリウスも腰を下ろす。と、プルメリアがすり寄ってきた。
「シリウス。どうして迷ってるの?」
 プルメリアはすぐにそう言う。
「迷う? 迷ってなんかいない。俺は今回の予言には反対だと言ってるだろう」
「うそ」
 ぴしゃりとした声にシリウスは目を開く。
「嘘?」
「本当は行くべきだって思ってる。でも嫌がってる。心配してるんだって、シリウスの竜が言ってる」
 彼女の一言に、心臓が跳ねた。
「プル、やめてくれ。俺には俺の竜とやらが見えないんだから」
「導き手のことは関係ないの。その人がどうの、じゃない。シリウスはあたしたちを置いていくのが心配なんだ」
「プル!」
 シリウスは思わずプルメリアを引きはがした。
 跳ねる心臓を宥めるように息を吐き出し、目を閉じると額を押さえる。
 このままだと頭痛がしそうだ。
「……ベリル、プルメリアを連れてもう寝所へ行きなさい」
「でもオウル……」
「追い詰めてもせんないこと。シリウス殿はお疲れなのだよ」
 シリウスが重い頭を持ちあげると、不安そうにこちらを見つめるベリルと視線がかち合った。
 彼女に行くよう促し、首をふるとオウルと向き合う。
 いざ二人きりになると、空気は自然と張り詰めたものになった。
「シリウス殿、そなたはあまりに多くを背負いすぎている。そろそろ荷物を置く頃だ」
「それは出来ない」
「なぜ?」
「それは……ばあさまも知っているだろう? ここ一帯だけでも、王国軍と竜人族の間には不穏な空気が流れていることを。当然だ、皆仲間や家族を奪われ、奪った。その罪悪感と憎悪を持ち合わせたまま、だが敵意だけは持つなと圧力をかけられているようなものなんだから」
 シリウスが一気に言うと、オウルは静かに頷いて見せた。シリウスはそれに促されるように続ける。
「ロータスがいる、帝国将軍がいる、そして皆戦争などもうしたくない、そう思いながら、でも苦痛を感じざるを得ないんだ。いつその不満が爆発するかわからない。食料がなくなれば、またどうなるかわかったもんじゃない」
「かもしれぬな」
「それを予想しておきながら、放っておけるわけがないんだ」
「なぜ?」
「なぜだと? それは、俺が……俺がやらないと。俺が見ておかないと」
 シリウスはオウルを見ていられず、視線を落とした。
 少しの間があり、ふーっとオウルが息を吐き出すのが聞こえてくる。
「だが、それではどちらも前に進まない。そなたがそれを阻んでしまうよ」
 オウルの一言に、シリウスは頭に血がのぼるのを感じた。
「だが俺がいなくなって、皆王国軍と争わないと言えるのか? 恨みを抱いている者が双方にいるんだ、復讐心を持てば、俺たちはまた不毛な争いを始める。誰かがそれを見ておかないと……」
「それは独善の始まりであろう。先王・ジェンティアナがなぜ帝都にいると? 彼は結局竜人族への疑いを晴らすことが出来なかった。そしてそなたはあろうことか、自身の仲間を疑っているのだぞ」
 シリウスははっとした。
 自分の中にあったもやもやが理解されたのだ。
「革命家がそのまま王になってはならない、と言われる所以だ。シリウス、そなたは正しいとも。だが皆にもそれぞれの正しさがある。それだけだ」
「……王国と俺たちにこれ以上の憎しみはいらない」
「では何が必要なのだね?」
「……相互理解だ」
「それは必要な最初のステップだろうて。だがそれを見張るのかね? 見守るのではなく?」
 シリウスはみぞおちが楽になるのを感じた。
 体温が戻ってくる。と同時に、指先が寂しく冷えた。
「……いいや。ジェット将軍を見ればわかる。俺はそれに相応しくない。……中立ではいられないからだ」
「それがわかったのなら、己の道も見えてくるだろう?」
「……」
「シリウス殿、皆がそなたを頼った。そしてそなたはその信頼に応えた。守り、導くのは大変なことだ。だが、一人で何もかも背負う時期はやがて過ぎさるものだ。手を離し、一人一人歩かさねばならない。そうでなければ、そなたが永遠に支配せねばならなくなる。それで良いのかね? 本当に必要なことには、そなたはとっくに気づいているのでは?」
「……」
 シリウスは再び額を抱えた。目頭が熱い何かで滲む。
 役目から解放される。
 その安心感と、一瞬の虚しさ。
「成長を終えたら、自然と役割は変わるさ。そなたが見せなければならない態度も」
「ばあさま。予言は……俺をここから出すための方便じゃないよな?」
「それは違うとも、私もこの大地を癒したいのだから」
 シリウスは息を吐き出すと、顔をあげた。
 皺が刻まれたオウルの顔は、柔和なものが宿っている。
 シリウスはそれを見ると、目を閉じ、ゆっくりと頷いた。
「わかった」

 まだ白い朝、シリウスは誰にも何も言わずに旅立った。

次の話へ→Tale of Empire -蛇王の秘宝編ー 第2話 ある青年の話

 

 

2024.3.11より投げ銭ツール「OFUSE」を導入いたしました。下のピンクのボタンです。 気軽な無料のファンレターは1通200文字まで。 100〜11,000円までの自由な金額設定で送れる1文字2円の応援ファンレター。

当サイトがあなたの役にたった時は、コーヒーでもおごって下さいw

クリックしていきなり課金というわけではないので、そこはご安心くださいませ。

深月にコーヒーをおごる 無料コメントもお待ちしております!お気軽にどうぞ。

運営者:深月 カメリア

-Tale of Empire -蛇王の秘宝編ー, 小説
-,

© 2024 椿の庭 Powered by AFFINGER5