小説 続・うそとまことと

最終話 光の差し込む場所

 琴は車の助手席から、山を見ていた。
 ざわざわと真夏の風に揺れる木々の葉音がなんとも心地良い。
 道は思っていたよりも整備され、軽自動車であるためかそれほど狭く感じない。
 木漏れ日がなんとも美しく、二人の訪れを歓迎しているかのようだった。
「家があっさり決まって良かったよ」
 都筑がそうぽつりと言った。
「うん。すっごく気に入りました。普さんは?」
「気に入ってるよ。周りの人達もフランクで話しやすいし」
「私に合わせてないですよね?」
「合わせてない。君こそ、これから半田舎暮らしだ。遠慮してると辛いぞ」
「遠慮?」
「寒くなったら寒さ対策、移動手段は選ばない……」
「なんとかなりますよ。半田舎だけどインフラはばっちり。徒歩でスーパーもあるし、ネット通販もいっぱいあるし」
「それもそうか。君は案外たくましいよな」
「嫌になったら実家に帰ればなんとかなるし」
 琴がそう言うと、都筑は苦笑して頬をかいた。
「普さんは楽しみ?」
「そうだな。俺も嫌になったらこの辺でキャンプでもするか」
 琴はにやりと笑う。
「テントに熊が出たりして~」
 都筑はちらっと琴を見るや、口の端を持ち上げて言い返す。
「君の目の下になら出るよ」
「あー!」
「冗談は置いといて。熊はいないらしいけど、フクロウとか狸はいるみたいだ。蛇もイタチも」
「へえ。見れるかな」
「怖くないのか?」
「大丈夫大丈夫! 蛇も好きです」
「毒があるかも」
「噛まれないようにする」
「そうだな。まずは虫対策か……ムカデもいるらしいから……ムカデ油でも作っておくか」
「ムカデ油?」
「昔ご近所さんに教えてもらったんだよ。活きたムカデを瓶に詰めて、油を入れておいておく。どろどろの液体になったら完成だ。ムカデに噛まれた時塗ると腫れずにすむって」
 都筑が説明を終えると、琴は顔を固まらせて不器用な笑みを浮かべている。
「すごい」
「すごいよな。一発で治るらしいよ」
「毒をもって毒を制す……?」
「というやつだな」
 琴は流石に顔をひきつらせたが、頷くと前を見た。
「ミミズとかも薬になるらしいし……なんか昔の知恵ってやっぱり理にかなってるんだ。スキンケアも結局植物油使ってのシンプルで良いし……」
「化粧品は?」
「スキンケア類は要らなくなるかも……椿油で洗顔も洗髪も出来るし」
「そうか……。これから色んな部分で科学や化学、技術革新はもちろんだけど、基礎は土地それぞれの自然との調和が主流になるんじゃないか? 建造物も自然に逆らわないものが多くなるだろうから」
 車は山道を抜け、国道に至る。
 建物は多いが、すぐ近くには鎮守の森、川、橋とどこかノスタルジックな雰囲気になっていく。
「いいな、ここの雰囲気。あっ、路面電車」
 琴の視線の先で、赤いラインの入った路面電車が走ってゆく。
 それに沿って走れば、畑の見える場所に着く。
 焼いた板を貼った外壁、瓦屋根。
 新築風リフォームの古い物件だ。
 琴は一目見て気に入り、都筑も縁側に座るとすぐに購入を決めたのだった。
 小さいが庭もあり、駐車場もある。
 隣近所との間もあり、開放的な雰囲気である。
 小さな子供のいる家庭も多いようだ。
 最寄り駅まで徒歩で30分はかかるが、運動は必要だとデメリットにはならなかった。
 車を止めると家の鍵を開ける。
 廊下の木目の床が足にひんやりとした。
 リビングから縁側へ。
 夕陽が庭を黄金色に輝かせている。
「あっ」
 と琴が声をあげた。
 空は晴れていたはずだが、ぱらぱらと雨が降ったのだ。
「雨だ」
「通り雨かもな。車も綺麗になって助かる」
 都筑がそうのんびりと言って、縁側に座ると琴の手を取った。
 琴は隣に座り、都筑を見つめる。
「普さん」
「ん?」
「ううん。なんでもない」
 そう言って都筑の腕を抱きしめる。
 都筑が琴の手を撫でた。

 二人分の影が縁側に伸びていく。
 影は重なり一つになって、長く長く。
 もう離れることがないように、と琴がひっそり願うと、都筑が彼女の頬を撫でた。
 顔をあげると口づけが落とされる。
 じんわりと暖かく、満たされた想いにまばたきをすると涙がこぼれた。
 都筑の指先がそれを拭う。
 目が合うと、二人は自然と微笑み合った。

 

終わり。

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