ピオニーは後に続いた兵士により投獄された。
暗殺者達は投降し、軍に協力して薬を各方面に届けに行ったという。
軍は動かないのではなく、動けない様子だと報された。
何はともあれロータス達は開かれた扉の向こうへ進む。
地下のため光はないが、空気にカビの匂いがない。
どことなく磯のような匂いがする。
そのままひたすらまっすぐの通路を進めば、急に明るくなった。
天井がガラスのような、透明な板になり、その上には水。
魚が泳ぎ、ロータス達を見るや姿を隠す。
「……まさかサファイヤ湖?」
発した声は反響する。
湖を突き抜けて太陽光が差し込んでくる。
目がチカチカした。
「サファイヤ湖が真ん中か?」
シリウスは自身の目元を覆いながら言った。
「確かに大きな湖だが……真ん中では」
「なら水源がそうかもしれないな」
シリウスはそう言って、前を指さす。
ロータスがそれを辿れば、通路が急に曲がり、より深く潜っていくように見えた。
「……全ての湖は繋がっている……と長老は俺たちが子供だったころ、そんなことを言っていた」
「湖が繋がっているなら、水源を潰せばアイリス王国は……」
「崩壊するな」
「シリウス、何か聞こえる」
ジャスパーが割って入り、声を出さないよう言った。
耳の良い男である。皆黙り込み、ジャスパーは目を閉じて耳に手をやって音に集中した。
「……『あんた、誰を選ぶつもりだ』……スティールの声だ」
はっ、と皆が振り返り、慌てて口元を覆った。
「……『生意気言うんじゃない、生かしてもらえるだけ、ありがたいと思いな』女の声だな。魔女か?」
「おそらく」
「……『これでアイリス王国は終わりだ。新世界を作って、私が全ての支配者になる』クソッタレた理念だな。そこに連れて行く奴を、自ら選んでいるようだ」
「選んでいるだと?」
「優れた者だけ連れて行く。それ以外は無用だ。裏切りはもうない……だとさ」
「彼女は方々から裏切られて処刑された。それのトラウマがこんな事件を……」
ロータスはそう言った途端、背筋に冷たいものが走り眉を寄せた。
「父上は逆だ……有能な者ほど怖れていた。だがしようとしていることは似ている」
「アイリス王はバランスを欠くのが常のようですな」
オニキスはそう冷静に言い、額を押さえた。
「どちらも自信がないから起きることだ。被害妄想と言えるかもしれません。ちなみに、国王殿下はご無事です」
「えっ」
ロータスは目を見開いた。明るい報せにふと肩が楽になった気分である。
「そうなのですか!」
「ええ。皇帝陛下が保護されたとか。お疲れのようだからゆっくり養生させると」
ロータスはほっと息を吐く。その時、ジャスパーが「しっ」と人差し指を立てる。
「……『そろそろ始めるよ、アイリスは生まれ変わる』急いだ方が良さそうだ」
皆で走り出し、まぶしくて見えない光に突撃する。
***
果たしてたどり着いたのは、真っ白な世界だった。
巨大な白い、綿のような石らしきものが並び、幾重にも重なり山のようになっている。
地上なのか地下なのかすらわからない。
空が見えないのは灰のせいなのかすら。
そこかしこから水滴が落ち、どこかへ流れていく。
水源なのだろう。
しかし、白い世界のせいで距離感が掴みにくい。
「シリウス、あなたの目で見てくれ」
「ああ」
シリウスは目を凝らし、道なき道を歩きながら小粒ほどの大きさの影を発見した。
黒のドレスは間違いなく魔女――マグノリアのもの。
そばにいるのはジャスパーである。
「二人だけ……のようだな」
「カラスの声は聞こえているが」
ジャスパーがそう言うと、オニキスはさっと弓を構えた。
「カラスを見つけたらすぐに言ってくれ」
「ああ。だが、なんでカラスにこだわるんだ?」
「あのカラス、我らを利用しているフシがある。自分の意思で話すしな、放って置いて良い者ではないはずだ」
「あんたが言うならそうなのだろうが。どうにも、聞こえ方は籠もった感じだ。ここは多分、外じゃない。天井に覆われているはずだ」
「……なら奴は外か」
「多分な」
「二人がいるのはあの奥だ」
シリウスは割って入ると奥を指さした。
神殿と同じ造りの遺跡である。
門は巨人のためとでもいうかのような高さで、よく見ると細かく彫刻が施されていた。
三角が連続するその模様は竜人族が好んでつける、ダイヤモンド山を象ったものである。
だがあそこまでの技術となれば、竜人族は持たない。王国側の職人の手によるものだろう。
「ここでも共同で何か造っていたのか」
「ここは王家も把握していない。年代は不明だが、新しい物じゃないのは確かだ。友好はあったのだな」
「ああ……俺たちも聞いたことがなかった」
遺跡に向かい、歩き出す。
豆粒ほどに見えていた二人の姿は近づき、石を切り出して造られた床に至ると足音が白い世界に響き渡る。
「スティール」
声をかけると、スティールはゆっくりと振り向いた。
驚いた様子は一切見せない。
「……シリウス」
「お前の弟達は皆とらえたぞ」
「そうかよ。せっかく鍛えてやったのに、大して役に立たなかったな」
「それは本心なのか?」
「どうだろうな。だが、もうどうでもいい話だ。どうせあいつらも、あんたも、皆いない世界へ行く。そうすりゃ全て解決だ」
「救いようがないな……」
シリウスは今度こそ呆れ、説得するのを諦めた。
言ってもわからないなら、本人が理解するまで放っておくしかない。
彼らが目の前からいなくなっても、記憶の中で永遠にスティールを苦しめるだろう。
彼の苦しみは彼が自ら生み出しているからだ。
「お友達との話は終わったかい」
唇を歪めてマグノリアが笑う。ロータスが口を開いた。
「マグノリア王女」
「おや、あたしの名前を久々に聞いたね。そうそう、あたしは王女だった。そしてあんた達はあたしの腹違いの妹の子孫らしいね。あの子、一番王位から遠いと思っていたのに」
「女王になったわけではありません。本人が望んだわけでもない」
「欲のない素直な子だったと? 純血じゃない、庶民の子さ。王の寝所を掃除するのが役目の。孤児院出身で、どこの誰とも言えないような卑しい女の娘が后だなんて」
「帝国に産まれた女性ですよ。そして王国の子でもある。彼女が卑しいなら、あなた方には民を思う気持ちがなかったことになりませんか」
「事実そうだろう。民より優先すべきはあたしたちのはずだった。王国を導いてやって来たんだから」
「王家一つで国を動かしているわけではない。民がいなくてあなたは今日の食事を得られるのですか?」
「そんな御託を聞きたいんじゃないよ。それに、民を新しい世界に連れて行くさ。あたしのために働く連中をね」
「そんなことをして、あなたが得られるものは何です? 一生の栄華? 快楽? それとも過去の再現ですか? だがそこに、あなたの婚約者はいるのですか?」
「うるさいね!」
マグノリアの表情が険しくなり、目尻に深い皺が寄った。
「余計なことを言うんじゃないよ、この世間知らずのクソガキ!」
マグノリアは髪を抜き、それをロータスに飛ばす。
髪の毛は針のように鋭くなり、大きさを増して剣になった。
「!?」
飛んできた剣をすんでの所でかわす。
石床に剣は刺さり、傷をつくると髪に戻って消滅した。
「あんたがあたしの絵を盗んだんだね、この混血の王子様。あれをとっとと返しな」
「絵などいくらでも」
オニキスは筒を取り出し、肖像画を広げるとそれを上空に向かって放り投げる。
白髪の王女、金髪の王女。
二枚の絵がマグノリアとスティールの目を奪った――その瞬間に矢が飛んでいく。
「あんた、オークションを潰してくれた奴だね。あの時殺したおけば良かった!」
「悪運だけは昔から強くてね。やはりブックか。なぜ若い?」
「契約のためさ」
「契約?」
「蛇王とのね!」
6本の剣が飛んでくる。
意思を持っているかのように、シリウス達に向かってきた。
スティールも槍を構え突っ込んでくる。
シリウスの穂先と擦れ合い、火花が飛び散った。
***
ダイヤモンド山が再び噴火したようだ。
王都で感染者の治療を手伝う中、クレマチスは灰が濃くなるのを見てそれに気づいた。
それに、足下には微振動。
「ベリル姉様、大変な事になりそう」
「王国の安住の地は少なくなりそうね。帝都、各王国に避難出来るよう、整えないと……」
「各地の者へ避難を促した方が良いのでは」
エジリンがそう提案し、クレマチス達は頷いた。
「静かの森、ウェストウィンド。それからノースグラス……」
「ダリアの街を通って帝都に」
「父上には私から話をします」
はきはきと話すエジリンに、クレマチスは胸に下げていたペンダントを渡した。
「ウィンド家の両親にこれを見せて下さい。そうすればすぐに分かって下さるはず」
「わかりました」
エジリンはジェット将軍を呼び、すぐに指示を出す。
静かの森にはルビーが、そして回復した竜人族も向かうことになる。
「お二人も避難を」
エジリンはそう言ったが、クレマチスもベリルも頷かなかった。
「ロータス達は必ず戻ります」
ベリルはクレマチスを見ると、笑みを見せた。
「皇子殿下。……もしもの時は無理にでも連れて行くから、お気になさらず」
「……分かりました。ジェット将軍、ウェストウィンドへの使者にこれを」
「かしこまりました」
軍が一斉に動き出す。
王都はにわかに騒がしくなり、軍靴が去って行く。
残った王国軍、竜人族達は手分けして治療に当たった。
濃い灰の降る中、わずかに陽が差し込んでくる。
風向きが変わり始めたのだ。
***
マグノリアの髪は徐々に短くなっていた。
あれが彼女の魔力の源なのだ、ロータスはそう気づいているが、かといってどうすれば良いのか分からない。
マグノリアが作り出した矢が降り注ぎ、剣を降るってそれをはじき飛ばす。
矢は髪となり、更に灰のようになって消えた。
「しつこい連中だね。スピネルの毒でも浴びせてやろうか!」
マグノリアはヒステリックに叫ぶと、髪を数本抜いて白い矢となったものを一気にばらまく。
白い矢はどす黒く染まり、オニキスは「触れただけでも危険だ」と注意した。
「燃やせば良いのでは!?」
ロータスの言葉に皆が振り向く。
ジャスパーとシリウスは頷き、剣をすり合わせ火花を作った。
火花が触れると毒矢はたちまち燃えて灰となる。
「チッ、こざかしい連中だ」
「流石に勝ち目はないぞ、スティール」
「降参すれば生かしてやるとでも? 冗談じゃねぇな」
スティールは不敵な笑みを浮かべた。
「これなら燃えないぞ」
スティールは槍を持ちあげる。
そこには先ほどと同じ、どす黒いものが付着していた。
オニキスはそれを見るとつぶやくように言う。
「……悪竜の残骸頼りか? 情けないな」
「黙ってな、兄ちゃん。どうせ死ねば終わるんだ。あんたらのことなど、誰も気にしねえよ。皆いなくなるんだから」
「竜人族の教えを忘れたのか? 魂は不滅だ。誰もいなくなったりしない」
「そして生まれ変わるってか。よくそんな迷信を信じられるもんだぜ」
スティールは吐き捨てるように言った。
「プラチナが助けてくれたか? 夢にでも現れて? 長老はどうだ? いつ生まれ変わる? それにその時、プラチナだったと分かるのか? 意味がねえ。死んだら何も出来やしないんだ」
「お前……」
シリウスは目に赤さを滲ませた。
「戦闘で皆死んじまった。なあ、意味ねえよ」
スティールはマグノリアの前に立ち、槍を構える。
「先に行けよ、コネクションの魔女。ここは食い止めてやる」
「あはは、頼もしいね。あんたを選んで良かったよ。生まれ変わった世界で、あんたは全ての父になる。楽しみにしておいで」
白髪を靡かせながら、マグノリアが背を向ける。
「待て!」
ロータスは追いかけようとしたが、スティールの槍の前に足を止めた。
「よぉ、王子様。雰囲気が変わったな。いつぞやはただの男の子だったくせに、今は一人前の男になった」
「あなたは亡者のようになった」
「はは、言ってろよ。どうせここは生まれ変わる。丁度良いじゃねえか」
「あなたがなんの成長もしないなら、生まれ変わった者達と再会しても意味が無い」
「へえ」
スティールは眉間を寄せた。
「腹が立つぜ、王子。知ったようなことを言いやがって」
「今なら分かる。母上は私を待つため、あの湖にいた。今ようやく解放され、元の正しい流れに戻ったのだ。その正しさは救いだ。生と死を軽く扱うなど、あなた達のしていることは、ただの命への冒涜だ!」
「だったらその流れとやらに連れてってやるよ!」
スティールの槍がロータスに向かう。
ロータスはしゃがんでよけ、スティールの腹を狙って剣を抜く。
彼の服を浅く裂き、間合いを取った。
「フン」
スティールは薄く血の滲む腹を確認すると、口元に笑みを浮かべる。
「ロータス、皆と先に行け。スティールと向き合うのは俺たちの役目だ」
シリウスは槍を構える。
フェンネルとジャスパーも、覚悟を決めて武器を取った。
シリウスの目は青く澄んで、迷いも焦りもない。
ロータスは頷いた。
「……分かった」
3人を置いて走り出す。
スティールは一瞥をくれたが、止める気配はない。
遺跡の更に奥を目指し回廊を行けば、背中に剣戟の音がぶつかってきた。
シリウスなら大丈夫だ。
ロータスはそう信じ、振り返らずに走った。
遺跡の天井にはステンドグラス。女神が空を舞う美しい絵を象っている。
その隙間から光が漏れていた。
奥の奥には古い王座があり、そこにマグノリアは座っている。
女王のように。
「スティールはシリウスとやらと戦うことを選んで、あんたたちを見逃したんだね。あれじゃあただのガキだね」
「あなたもお覚悟を」
「勝つ気でいるのかい」
「もちろん」
マグノリアは赤い爪を肘掛けにかけ、ゆっくりと立ち上がる。
まるで老人のような動き。
「でも出来るのかい? あたしは実体のない存在なんだよ。鏡と一緒さ。あんた達の見ているものはただの幻なんだ」
「……え?」
「ほら」
マグノリアは手鏡を取り出し、自らを映した――姿はすっと消え、鏡の中に老婆が映る。
「ほぅら。これじゃあたしを殺すどころか、触れることすら出来やしない。王子、知ってるはず。あたしを捕まえようとしても出来なかっただろう?」
「……」
ロータスは眉を寄せた。
手鏡を拾いあげると、その瞬間に手鏡は割れマグノリアは消える。
「ははは! どうする? どうやってあたしにトドメを刺そうか?」
「王子殿下、惑わされてはなりません」
オニキスは矢をつがえ、辺りを警戒しながらもいやに冷静だ。
「ですが……」
「実体がないはずない」
オニキスが示したのは鏡の痕だ。影が落ちている。
「影……」
ロータスは呟く。
ならば存在しているはずなのだ。
だが、いつかのように鏡か、水の中に潜られては厄介だ。
追いかけても戻って来れないかもしれない。
「……」
ステンドグラスに影が映る。
ロータスは顔をあげ、竜人族の弓を持つと即座に矢を放った。
バリン、と音を立ててガラスが割れる。
一瞬だけ太陽光のような光が差し込んだ。
だがマグノリアの姿はない。
ロータスは首をふって視線を下にやった。
自身の影が伸び、腰には複雑な形をした袋。中身が光を通して発光している。
導かれるように、その先に視線が行った。
赤いバラだ。
影がない。
「あれは?」
ロータスが駆け寄ると、割れた鏡が浮かびあがり、その鋭利な部分を突き刺すように飛んできた。
「殿下!」
イオスの声に反応し、鏡を払う。
「これではキリがない!」
「コー、鏡を探すぞ。ここだけではないはずだ」
「かしこまりました!」
オニキスとコーが走り出す。
鏡の破片を打ち落としながら、ロータスは滑り込むようにバラの元にたどり着いた。
影がないそれは透明な何かで守られている。
「王子! 余計なことをするんじゃないよ!」
マグノリアの耳をつんざくような声が響き渡る。やはりこれに何かあるのだ。
だが何が?
そしてどうすればこの透明なものを破れる?
「王子殿下!」
イオスが盾を片手に背にかぶさった。
バラバラッ、と破片がいくつも二人に降り注ぐ。
「イオス!」
「ご無事ですか!?」
「私は無事だ」
盾から出ていたイオスの顔半分に、破片がいくつも刺さっていた。致命傷ではなさそうだが、血が流れている。
「すぐに手当を」
サンが駆け寄る中、マグノリアの甲高い声がまた響く。
「おのれ、オニキス! 鏡を割ったね!」
バンッ、と脳天に響くような破裂音とともに、ずるりとマグノリアが現れる。
白髪の魔女は若い肉体をしているが、その様はまるで老婆である。
彼女の肖像画が、ロータスの脳裏をよぎった。
(金の糸を)
プルメリアが何の意味もなく、それを探せと言うわけがない。
ロータスは胸元に下げた袋を取り出し、糸を持つ。
太陽光に照らされ、きらきら輝くそれは糸ではない――彼女の髪だ。
「やめてぇ!」
マグノリアが叫ぶ中、ロータスはダイヤモンドを手にした。
陽の光が集まる。
まぶしいほどの光に焼かれ、金の髪が燃え上がった。
マグノリアはその容姿を変え、皺だらけの老婆の姿となる。針金のように細い指がロータスを狙うが、その手はブルーの剣により落とされる。
「ぎゃあ!」
「殿下っ、バラが!」
イオスの声に振り返ると、透明な何かは消え去り、影のない赤いバラが転がる。それはすぐに消えてしまった。
マグノリアは絶望したように息を飲む。
「おのれ、シャウラ! あたしを裏切ったね!」
「魔女め、ここで終わりだな」
「調子に乗るんじゃないよ、オニキス! あんたも道連れだ!」
マグノリアの細い腕がオニキスの足首を掴んだ――その瞬間、マグノリアは灰となって消えた。
あまりに一瞬の出来事に、皆呼吸すら忘れたようになる。
黒いドレスがその場に落ち、灰は風に飛ばされて消えた。
***
流石に王国が造り上げた、鋼の槍である。
シリウスは技術というものを身に染みて感じ、その重く鋭い一撃をかわすのに一杯だった。
背中に重い汗が流れる。
スティールの持つ王国製の槍は、空を斬る度ブォン、と不穏な音を立てた。
「防戦一方だな、シリウス。なあ!」
スティールは上から叩きつけるように槍を下ろす。
ガンッ、ガンッ、と柄で受け止める度、膝が地面に埋もれていくような錯覚さえ覚えた。
「俺に勝って、それで満足か!? だったらとっくにそのはずだろ!」
「うるせぇ! 昔っから説教ばかり垂れてよ! 邪魔なんだよ!」
「だったら放っておけば良いだろ! お前がいちいち突っかかってくるのが問題だ!」
シリウスの槍の柄が中央から折れた。
両手がパッと離れた隙に、シリウスは後ろに飛んで距離を取る。
石突きと穂先を前にして持ち替えた。
「シリウス」
ジャスパーとフェンネルがそれぞれ隣に立ったが、シリウスは下がるよう言った。
「チッ、仲間がいて良かったな。あんたはいっつも誰かに守られてばかりだ」
「そうだな。お前は誰かを犠牲にしてばかりだ」
シリウスのわかりやすい嫌味に、スティールはこめかみの血管を浮き出させた。
「プルのオヤジのことか?」
「それだけだと思うか? コネクションの魔女と通じ、プラチナや仲間を売ったんだろう。そして王国の新たな王となった。そのために王女を廃人としてな」
「あれはあの王女さまが甘かったんだよ」
「かもしれん。だが、お前と関わった者はみんなそうなった。ダイヤモンド山すらも、鉱石を失った。怒りで噴火したのだと皆知っているぞ」
「噴火が俺のせいだと? ハッ!」
スティールは吐き捨てるように笑う。
「だったらその証拠が見たいもんだ。真に俺のせいなら、俺をその火口に落として示すがいい」
こんな地下ではありえないことを、スティールは言った。
ふざけているような態度にシリウスはいよいよ怒りがわき、急速に怒りが冷えていく。
あまりに哀れだ。
自分に対する嫉妬心を制御出来ず、彼は堕ちてしまったのだ。
そのためにどれだけの者が傷ついただろう?
あまりに報われない。
スティールが槍を構え、顎をあげた。
「フン、こんな時に目は青いままか」
スティールのつまらなさそうな声に、シリウスはもはや答える気すらなくなった。
スティールが咆哮をあげて突っ込んでくる。
シリウスは柄を柔らかく持ち直し、小指に力を込める。
突き出された槍を仰け反るようにして避け、流れるように石突きをスティールの腹に打ち付けた。
穂先でスティールの腕を裂く。
「グァッ……!」
痛みに呻く声がした瞬間、血の匂いが風に乗る。
次にはどこからかガラスの割れるような音がして、突風とともに巨大な影が現れた。
「うわっ、あの時の奴だ!」
フェンネルがばたばたと駆け寄り、シリウスを立たせると引っ張る。
鷲。
狩りの時に見た、巨大な鷲だ。
翼が風を打ち、突風よりするどい風が生まれる。
シリウス達が唖然として見ていると、血の匂いにひきつけられたのか、鷲はスティールの体を掴むとそのまま頭上へ向かっていく。
「スティール……」
ジャスパーがその名を呟いたが、彼は反応を見せない。
どこか無気力な目でシリウスを見ると、疲れた人のようにその腕をだらんと下げた。
鷲は天井を破り、細かな破片を散らしながら灰の空へ飛んでいく。
鷲により開かれた灰の隙間から、ぽつん、と滴が落ちてくる。
「雨……」
シリウスは呟いた。
次の話へ→Tale of Empire ー復活のダイヤモンドー 最終話 新たな流れ
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