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小説 続・うそとまことと

第6話 ユーチューブデビュー

「おかえりなさい……」
 夜11時。
 消毒を終えた都筑がリビングに入ると、琴がおずおずと顔を出す。
「普さん、ネットニュース、見ましたか?」
 ちょうどの話題だった。
 都筑は顔に緊張が入る。
「見た。井上が教えてくれた」
「どうしよう。事務所には連絡を入れました、あんまり個人情報を出さないで下さいって。でもウケてるんだから、収入減った分だと思って今がんばらないでどうするのって言われて……モデルさんたちのは完全にミスだって認めてくれましたけど。でも比較写真は記者が勝手にやったらしくて、確認は出来なかった、とか……」
 琴の説明に都筑は椅子の背に手をやり、はあ、と息を吐いた。
「君はどうしたいんだ」
「私は……正直お金の問題があるから、確かに今は収入が増えるのはありがたいです。化粧品メーカーからもこれ使ってみませんかって話ももらえてるし、スポンサーさんもついてきたし……でもなんか……ミクさんやモデルさん達のメイクによる比較写真まで出されるとちょっと……」
「彼女らに連絡は?」
「マネージャーさんにしました。ミクさんは直接連絡くれて、それでネットニュースを知ったんですけど、気にしてないからって言ってくれましたけど。でも気分悪いですよね? 昔との比較なんて。意味ないのに」
 都筑は首を撫でた。
 琴はため息をつくと、「ごめんなさい、お疲れなのに。ちゃんと自分でなんとかします」と言ってノートを広げた。
「何を?」
「ユーチューブで説明します。これしか思いつかないし……とにかくモデルさん達に謝らないと」
「君自身のことは?」
「個人情報は基本的なことだけで、もう仕方ないけど、そうだ、普さんとペアリングだから……」
 琴が言った言葉に都筑が顔をあげる。
「普さんの迷惑にならないですか?」
「なんの迷惑?」
 思わず声が鋭いものになり、都筑は首を振ってから改めて口を開く。
「ならない。外さないでくれ。……外すな」
 そう力を込めて言えば、琴は目元を赤くして俯く。
「はい」

***

 琴は翌日にはさっそく新しい動画を公開する。
 ネットニュースの件だ。
 モデル達の琴が手がける前と後の比較写真が出ていたが、年齢や服装によって、また本人の表情の作り方や成長により雰囲気は変わるもの。
 メイクのみでその人の印象や空気感をまるごと変えられるものではないということ。
 流行などもあり、そのためにメイクを変える必要があるのだから比較には意味がなく、前の写真にも魅力はあり、琴自身もそれらに憧れていたということ。
 琴がてがけたものを気に入ってもらえたならそれはそれで嬉しく思うということ。
 事務所に相談し、モデル達の過去の写真やプライバシーの保護を徹底するよう頼んだこと。
 ありがたかったのはミクが「気にしてないよ! あたしは琴さんのメイクが気に入ったからずっとやってもらってるだけの話」と話してくれたことだ。
 中には気分を害したモデルもいたようで、自分の実力を無視してメイクだけの力のように言われるのが嫌だということだった。
 中には自分もして欲しいというコメントもあり、賛否両論が入り交じる。
【有名人ダシに売名? 最悪じゃん】
 とのコメントが一番辛かった。
【みんな無名からやってんのに。ずるい】
【きれい事だけじゃ生活出来ないんでしょ】
【結婚してるなら稼がなくていいじゃん】
【自己顕示欲のかたまり】
 こういったコメントが多い。
 琴自身は彼女らの名前も、手がけた作品名も一切出していないのだ。
 中にはそれを理解してくれている者もおり、
【この人始めたころからずっと有名人の名前出してないし。おまいらネットニュースとか無責任すぎ】
【パーソナル別のメイク動画ってありそうでなかったから嬉しかった。男顔でモテなかったけど彼氏出来たもん】
【バラしたの違うとこからでしょ。この子ついったーもいんすたもやってないのに、それで売名ってありえなさすぎ】
【自己顕示欲ならそれらもやるよな】
【それな】
 と、フォローしてくれる声も多かった。
 琴は両方の意見で頭が回り始めた。
 励ましの声に胸がいっぱいになり、批判の声にいたたまれなくなる。
(有名人ってこの中で生活してるのか……)
 と改めて彼女らに尊敬の念が沸く一方で、
(こんなことになるとは思わなかった)
 と自分の考えの甘さにまた落ち込む。

 琴の説明動画はじわじわと広がり、かつてのモデル達もマネージャー経由で「事情は分かった」という返事が来る。
「まあ頑張って」というメッセージももらい、なんとか気持ちを持ち直した琴は改めて動画を作成する。
 コラボ以外でモデルを起用したことはないため、再びシンプルなメイク動画が流れ始めると、騒がれたことは鎮まっていった。

***

 秋が深まって来た頃、琴はユーチューブでの収入が入るようになり、世の中も自粛の部分解除・条件付きでの解除が進んでくる。
 琴は仕事が増えていた。
 メイク動画を見た芸能事務所や、モデル、アイドル、女優が指名するようになったのだ。
 おかしなことに、バズと炎上の両方があったが今となってはバズの影響だけが残ったようだ。
 仕事に対し誠実な態度を取っていたのが伝わったのだろう。
 それでも琴はやはり、ユーチューブでのモデルや女優などの有名人との共演は一切しなかった。
 琴は新たに危険物取り扱いの者がつけるようなマスクを購入し、仕事に出るようになった。
 一方都筑は感染対策の仕事にも慣れ、効率よく動けるようになると、帰宅時間は安定。
 6時に帰れることが増えていった。

 

次の話へ→第7話 すれ違い

 

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