Tale of Empire ー復活のダイヤモンドー 小説

Tale of Empire ー復活のダイヤモンドー第35話 ダイヤモンド山

 広場に旅だった者達が戻り、鏡の破片や銀食器が集められる。合計6つ。
「刺客は現れなかったか?」
 とオニキスが聞くと、やはりそれぞれ現れたが撃退したという。
「これで魔女の道を潰したわけだな」
 シリウスはそう言ったが、腕を組んで続けた。
「魔女は何が目的なんだ? 自らが女王になることか? それともレイン王家への復讐なのか? いまいち腑に落ちない」
「過去に固執していることは確かだ。王子殿下はあの世界で、彼女の過去をご覧になったのですよね?」
 オニキスの視線がロータスをとらえる。
 彼は頷いた。
「ええ。婚約者とともに幸せそうでした。だけど、目的と言われると……」
「追っていれば分かるだろう。副長官なら想像だけで判断するのは危険、というのではないか」
 サンの冷静な一言に皆顔をあげた。
「……そうだな」
「ああ。余計なことを言った。悪かったな」
 解散し、外に出ると夕暮れに星が光っているのを見つける。
 シリウスはロータスと同じ屋敷だ。自然連れだって歩くことになった。
「明るい星だ」
 ロータスも同じ星を見つけたらしい。
「今だけの輝きだ」
「え?」
「月が満ちれば、あの星は遠くなる」
「……永遠に続くものなどないのだろうか」
 ロータスはそう呟いた。シリウスは言葉の意味が分からず、続きを待つ。
「太陽と月ですら、いつも同じ所に同じ大きさでいるわけじゃない。星もそうだ。永遠などないのなら、マグノリア王女がもし復活を目指しているなら虚しい望みだと思って」
「どうなんだろうな。王子はどうなんだ?」
「私? 私は……わからないな」
「地位を得た男が望むのはいつだって”不老不死”だろう。たとえば死んでも、誰かの心の中で生き続ける。神として祀られる。……竜人族にその考えはないが、人間の中には死を怖れてそう考える者がいるのは聞いている」
「……死か。神殿では優れた者の魂はいつか神の国へ行くと教えている。あの湖で、母上が私に帰る場所を教えてくれた……霊魂は確かに存在するらしい。今は不老不死は意味がないと思う。あなたは?」
「俺もそうだな。生きて生きて生き抜いたら、あとは神とやらが判断するさ」
 陽は落ち、影が伸び、やがて夜の気配に吸い込まれていく。
 屋敷には灯り。
 ただよってくる夕食の匂いは、シリウスには慣れないものだ。
 ドアを開ければ、髪をまとめたクレマチスがエプロンを着てキッチンに立っている。
 オウルもテーブルについていた。
 振り返ったクレマチスはにっこりと笑って言う。
「お帰りなさい」

 シリウスには慣れない料理だが、ロータスは目を輝かせている。彼の好物らしい。
 白ワインで煮込まれたため、果実感のあるさっぱりした味わいが特徴だという。
 ウェストウィンドを出る時、土産の一つでワインを持ってきたらしい。
「ベリルとは大違いじゃなあ」
 オウルはのんびりと言った。
「この子は料理と言えば串にさして火で直接焼くくらいだからの」
「料理なんて習ったことないもの。オウルだって薬の調合はするけど、料理はしないでしょ」
「ばらされた」
 言い合う二人を尻目に、ロータスは皿によそわれた魚に目を細める。
「久しぶりだな……」
「嬉しい?」
「ああ、とても……。クレマチス、家に帰ってきた気分だ」
「料理に愛着を持っていたのですか?」
「まさか! そうじゃなくて……」
 わざとむくれてみせるクレマチスに、ロータスは慌てて言いつくろった。
 わかりやすい応酬に背中がむずむずする。
 シリウスは苦笑いを浮かべ、とりあえず出されたワインを口に含む。
 かなりアルコールは弱い。竜人族にはほとんどジュースだ。だがベリルは気に入ったようで、よく飲んでいる。
 料理は塩気の具合が丁度良い。クレマチスは料理が好きなようだ、もし竜人族にも料理の教科書があれば、もっと色々な食事を楽しめるだろうにとシリウスは考えた。
「もっと交流していくべきだな……」
「そうよね。新しい家を用意する?」
 ベリルがそう答えた。
「何の話だ?」
「え? 交流の話でしょ。邪魔しないように……」
 ベリルが言っているのは、ロータスとクレマチスのことだ。交流とシリウスが呟いたため、二人のことだと思ったらしい。
 が、耳を赤くしたロータスが振り向いた。
「お、お気遣いなく。今は良い」
「あら、でも、殿下。……ああ、そうか。そうね。ジンクスがありますものね」
「ジンクス?」
 シリウスが聞き返すと、ベリルはきまじめに答える。
「結婚前に同衾すると不吉なの」

 夕食を終え、眠る前の一時を過ごす。
 ロータスが相変わらず天井裏を使う理由が分かってしまった。
 シリウスはロータスが本気でクレマチスを大切に想っているのだと知り、なんとも言えない気持ちになった。
 律儀なやつめ、と心の中で彼をたたえていると、そのロータスが怪訝そうな顔つきで聞いてきた。
「シリウス……ベリル殿はあなたの妻だと聞いているのだが」
「ああ」
「その……どうなっているんだ」
「どうって? ああ、そうか。どうもなっていない。俺たちは形だけだ」
 シリウスは正直に答えた。ロータスは分かったような分かっていないような、眉を寄せながらも頷いてみせる。
「そうなのか……その、ではベリル殿が、つまり……」
「他の男と親密でも構わないか、と?」
「ああ」
「それはそうだろう。相手がクズなら殴っておくが、そうでもない」
「……そうか」
 ロータスは勘づいているようだ。
「ジャスパーだろ? あいつなら大丈夫だろう。しかしモテるよな、あいつは。シトリンの初恋相手だったはずだし、クレマチスもあいつには早くから気を許していたようだし」
「そうなのか……まあ、確かに気さくな方だとは思ったが……。あなたにとってベリル殿やクレマチスは、どういう存在なんだ? ベリー家と竜人族といえば同盟関係のはずだが、それとは関係なく、個人同士として」
「どういう……妹みたいなものだな。お前、クレマチスを泣かせたら俺やジャスパーが黙っておかないと覚えておけよ」
 シリウスがそうおどけて言うと、ロータスは目を丸くした。
「……羨ましいな。そんなにすぐ人と信頼関係を築けるのか」
「いきなり落ち込むなよ」
 灯りが落ち、それぞれ寝所に向かう。
 ロータスとクレマチスはそっと手を触れさせ、指先が滑り落ちるまで見つめ合う。
 いつどうなるか、誰にも分からない。
 二人で過ごせる時間も思うより短いかもしれないのだ。
 短くても思い出があるなら、それが支えになるだろう。
 シリウスはふっと息を吐き、寝所に入るとベッドに体を沈めた。
 腹に金の髪飾りが落ちてくる。
「いつどうなるか……わからない」
 楽しめる時には、楽しまねば。

***

 アゲートが「最後の一つ」を知らせたのは翌朝のことである。
 ロータスとシリウス、ベリルは広場に集まった。
 よく見れば、特殊捜査機関の人数が少ない。
「シリウス殿の言うとおり、マグノリア王女の目的を知る必要があると思いました」
 そこで昨夜の内にブルーとサン、ナギを派遣したのだという。
「休みなしではありませんか?」
「捜査が終われば陛下からたっぷり休養期間を頂きます。それに皆、適度にその場その場で休んでおりますから心配はいりません」
「そうなのですか?」
「長逗留が当たり前ですからね。それを楽しめない、休めない者は不向きなのですよ」
 オニキスの説明に、ロータスは納得した。
 アゲートは地図を持っていない。
 彼が言った湖の在処は「ダイヤモンド山」だった。
「ダイヤモンド山……」
「あそこに水源はあっても、湖なんてないぞ」
 竜人族はそう言い合う。だが、マグノリアはない場所にあるように造っているのだ。
「調べる価値はある」
 シリウスがそう言い、竜人族達も賛成の意を見せた。
 王都は陥落し、軍は代理女王となったピオニーのものとなっている。
 というのも、ジェンティアナは行方不明になったからだ。
ダイヤモンド山は竜人族のものとして返却されたものの、スティールの直轄山となったはずだ。
 敵地である。
「ダイヤモンド山に残っている竜人族は……」
「うまく立ち回っているはずだ。彼らがいないとスティールも鉱石を得られない。彼らに協力してもらおう」
 長老はロータスにとって、祖父にあたるはず。
 出発の準備を整えていると、アゲートが声をかけてきた。
 彼はいつもの引き締まった表情ではなかった。
「お前に謝らねば」
「何をです?」
「父上の命令とはいえ、捕らえたことだ。頃合いを見て助けるつもりだったが、今となっては言い訳だな」
「……もう済んだことです」
「そうだろうか? お前に友人がいて良かった。……クレマチスにも言われたが、もし私が父上に意見出来ていれば、少しは……。いや、すまない。それから、私に危機が迫っていると報せてくれたのだな。ありがとう」
 必死になってやったことだ。ロータスはそういえば、と思いだし、頷いた。
 ロータスは荷物をまとめ、広場に向かった。
 シリウス、ジャスパー、フェンネルにシトリン。
 オニキスとコー、イオス、そしてベリルとルビーが待っていた。
 彼らとともにダイヤモンド山へ。
 皆が見送りに出てくる。
 クレマチスは「お守り」と言って、紐を編んだ腕輪をロータスにつける。
 細い糸がきらめいたのに気づいて持ち上げると、彼女の髪と同じ色だと気がついた。
「これは……あなたの髪?」
「ええ。帝都では女性が男性の帰宅を願って髪に祈りを込めるって聞いたから……」
「……あなただと思って大切にする」
「うん」
 クレマチスの手がロータスの手の甲を撫でた。
 柔らかい体温に心拍があがる。
 送り出してくれる人がいるのは、こんなに勇づけられるものなのか。
 ロータス達は歩き出し、ダイヤモンド山へ向かった。

 ダイヤモンド山の周辺は王国軍と竜人族により守りを固められていた。
 どうやって忍び込むか考え、夜を待つ。
 夜営の松明の火が揺れる中、一小隊のテントに忍び込み鎧を盗む。
 王国軍に入り込み、交替のふりをして入山した。
 慣れた足取りに疑う者はいない。
 なるべく王国軍の動きに合わせ登っていくと、スティールの姿が見えた。
 ダイヤモンドの失われた槍の柄を握り、それを岩壁に投げつける。
 頭を抱えるその姿に、新たな王者の雰囲気はまるでない。悩める一人の青年の姿であった。
 パチパチと松明の火が木を焼く音が聞こえる。
 シリウスの合図で軍から離脱し、獣道ともいえない、道なき道を歩いた。
 ここから集落を目指すのだ。
 やがて木々の開けた空間に到着する。ようやく林道だ。
 ジャスパーが鳥の鳴き声を真似、それに反応した者が家から出てきた。
「……帰ってきた」
 と、彼が言うと、続々と静かに竜人族達が顔を出す。
 シリウスは兜を脱ぐ。細く輝く月光のような銀髪が現れた。
「真の敵を討つぞ」
 彼の静かな声に皆が頷いた。

 長老の家に迎えられ、一行は数日ぶりに屋根のある宿を得た。
 出される寝酒にある者は眠り、ある者は寝ずの番を買って出る。
 ロータスは窓を見ていたが、長老の気配に振り向く。
「王への土産は渡したか?」
 長老がシリウスに聞くと、彼は頷いた。
「ああ。サファイアを抱きしめていたよ」
「そうか。あの子の想いが伝われがいいが……」
「時間がかかる。王は……まだ本調子とはいえない」
「そうか……」
 ロータスの存在に二人は気づいていないようだった。
「長老、サファイアは……」
「王の側に。こうなることは分かっていた、と手紙に書かれていたよ。妃によって毒殺されることも」
「むごい話だ。その妃すら、結局浮かばれない。誰も報われない」
「その通りだ。サファイアを死なせたその妃も恨めない。だが、それで良かったのだ。もし俺が恨みのために何かしていれば、ロータス王子に会うことはなかった。巡り合わせに感謝しているよ」
「ロータス……彼が混血だとは思わなかった」
 ロータスはどきりとした。
 シリウスは知っているのだ。
「サファイアの子だと、あなたは知っていたのか?」
「ああ。誕生の時にそうだろうと気づいた。当時プルメリアも、彼女のような者もいなかったが、予言はあったのだ。銀の竜が産まれると」
「何だと?」
 シリウスの声音が変わる。厳しいような、今まで聞いたことがない驚きに満ちたものだった。
「銀の竜だと?」
「そうだ。そしてその夜に王子は産まれた。銀髪の、青い目の。サファイアの生き写しのような王子だと聞いた」
「待ってくれ、彼が銀の竜?」
「シリウス、落ち着きなさい。目が紫になっているぞ」
「分かった、すまない。だが、彼がそうなら……」
 シリウスは息を吸い込み、ふっとその緊張を解いた。
「……ははは。必ず、良い方向に戻れる道はあるんだ。不思議だよ、彼はクレマチスと惹かれ合い、そして俺たちの所へやって来た」
「どういうことだ?」
「長老、やはりベリー家との盟約は生きていたんだ。戦がなかったとしても、きっと俺たちは皆出会っていた」
「盟約のために、か?」
「もっと大切なことのためにだよ」

 朝になり、早くに目が覚めたロータスは庭に出た。
 昨夜のシリウスと長老の会話が思い出される。
「銀の竜」という言葉にシリウスは意外なほど反応していた。
 井戸の水を汲み上げ、それを居間に運んで湯にする。
 長老が出てきてそれを見ていた。
「昨夜の話を聞いたのだね」
「えっ」
「分かるとも。俺は耳が良いのでね」
「では、その……私はやはり、あなたの孫、なのですね」
「その通りだ」
 ぴたり、と感覚と肉体が一致する。
 つま先まで血液が流れ込み、しっくりくる感覚にロータスは心地よさを感じた。
「……サファイヤ湖で母上に会いました」
「あなたを待っていたのだろう。必要な時に、必要なことをするために」
「母上は囚われているのでしょうか?」
「いいや。魂をとらえるのは常に自分自身だ。彼女はそういう執着する子ではなかった。あなたに会い、そして役目を果たした。それで満足したはずだよ」
「……今は自由ですか?」
「大いなる渦に戻った、という方が近いかもしれない」
「……よく分かりませんが、良いことなのでしょうか」
「もちろん。渦は温かい光に満ちている。何も心配することはない」
 彼の説明に、ロータスは理解は出来なかったが納得はした。
「祖父上……」
 何を言えば良いのだろうか、ロータスは上手く言葉が出てこない。
「おはようございます」
 と、居間には続々仲間が入ってきた。
「これから話はゆっくり出来るとも」
 長老はロータスの手の甲をぽんぽん叩くと立ち上がった。

 ダイヤモンド山にはひそやかな空気が流れていた。王国軍の見張る中、鉱山開拓のために働いているからだ。
 ここから湖を探すのは難しい。
 オニキスは鷹を捕まえた。足首の書簡を抜き取る。
「……マグノリアは王宮にいる。動きは見られない、と。湖がなくなったせいだろう」
「王宮にですか?」
 ベリルが返した。
「ならばピオニー王女はどうしているのですか?」
「ピオニー王女は……気が狂ったようだと」
「何か盛られた?」
「そうではないようですが、夜中に悲鳴をあげて止まらないようですな。それで毎夜浴びるように酒を飲んでいるとか……」
「クーデターを起こしたせいかしら」
「おそらくは。箱入り娘が突然、戦を目の当たりにしたようなものですからね。怖くもなるでしょう。……まあ、自業自得だな」
 オニキスはそう言うと返事を書いた。「深入り無用」とシンプルに一言。
 鷹が飛んでいく。
「湖を見つけなければ」
「プルがいればなあ」
 フェンネルはのんびりとした口調で言う。
「プルメリアとはどういった者なのです?」
 コーがシリウスに訊ねた。
「7歳の子供だ。色で安全か危険か、行く道はどこか、必要なものは何か見分けることが出来る。予言者とは違うが、精霊に教えてもらうこともあると言っていたな」
「占いとも違うのですね」
「その子を連れて行ったのなら、マグノリアには何か見つけたいものがある、……あったのかもしれないな」
 オニキスは一人呟いた。

次の話へ→Tale of Empire ー復活のダイヤモンドー 第36話 流れ出る怒り

 

 

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