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Tale of Empire ー復活のダイヤモンドー 小説

Tale of Empire ー復活のダイヤモンドー 第33話 各個撃破

 広場にシャムロックがやってきて、新たな報せをもたらした。
 ――アジュガ王子の戦死。
 集落にはまた沈んだ空気が流れた。今更彼に対する怒りはなく、ロータスの胸中にあるのはなんとも言えない悔しさだけだった。
 もっと話せていたら、どうなったのだろう?
 昔の兄のことばかり思い出す。
 クレマチスを見たが、彼女もやはり口を閉ざし、下ばかり向いていた。
 許すことは出来ないが、恨むことも出来ない。
 もっと違う関係であれば。
 そう思わざるをえない人だった。
 夕陽はついに見えなくなり、星が見えるようになると竜人族はたき火をし、そこで歌を歌い始めた。
 イオスはその側で膝を抱えて泣いている。アゲートもまた、花を捧げた。
 アジュガのための葬礼だ。
 ロータスは屋敷の中、窓辺に寄りそれを見ていたクレマチスの手を取る。
 彼女の目がロータスをとらえた。
「あなたにとっては、それでも兄上ね」
「ああ」
「私のことは気にしないで。行って」
「兄上があなたを傷つけたことは確かだ」
「かもしれない。でも、そこに行ったのは私の意思だった。それも確かなの」
「……なぜそう言えるんだ?」
「その時は、怒った。でも、今私は満たされている。あなたが側にいるし、姉様達もいる。だけど、彼にはそれがなかった。ひとりぼっちだった。……そう思えるのは、私が今守られているからだわ」
「兄上が……立ち直ってくれればと思った。そうすれば、あなたへの行為を反省するのではないかと勝手な期待をした。イオスもそうなのだろうか。彼は兄上に殺されかけたが、それでも慕っている。同じなのだろうか」
「かもしれないわ。なんのかんの、私の頼みを聞いたのは、アジュガ王子に良心が残っていたからだもの。姉様達も、シリウス殿も、結局無事なのは、やっぱり彼のお陰なのよ」
「……ああ」
 ロータスはクレマチスの手に口づけし、「行ってくる」と告げ屋敷を出た。
 炎は高く、まっすぐに煙をあげていく。
 星に向かっていくようなそれを見ていると、参戦した当時のことから思い出される。
 シリウスの人質になろうとした兄の身代わりを申し出た。
 アジュガは自身を心配していた、それは確かだ。
 その時の顔を思い出す。目を思い出す。
 王宮を走り回った子供時代を思い出す。
 炎のせいだ、目が熱いのは。
 炎から守ろうとまぶたをおろせば、目尻を涙が伝っていった。

***

 ジェンティアナは騎士達に守られ、命からがら王宮を脱出した。
 身を寄せたのは一般市民の家で、再起をはかるが今となっては軍すら持たぬ身である。
「事故による王宮の崩壊で行方知れずとなった国王を探している」と、そう告げ回るのはピオニーの軍であるという。
 ここで姿を現せば、間違いなく暗殺されるだろう。
 何を間違えたのだろうか?
 竜人族を引き入れたことだろうか?
 子供達を信じたことだろうか?
 王国を正しく導こう、守ろうとしてもなぜか失敗ばかりだ。
 サファイア像を抱きしめていたが、やはり彼女を愛さなければ良かったとすら思えてくる。
 ロータスは彼女の面影があり、見ればむくむくと怒りと疑いがわいてくる。
 到底側に置いていられない、そう思っていたが、彼は裏切り者ではなかった。
 アゲートはどうしたのだろうか?
 彼なら自分を助けるのではないだろうか?
 彼を後継者に指名したのは自分なのだ、彼には恨まれないはず……ジェンティアナはそこまで考え、気づいた。
 恨まれていない。
 信じてはいない。
 マイナスでないならマシ、というレベルの話だ。まるで虚しい。
「……」
背を丸め、膝を抱える。
 市民は王を怖れ、必要以上に接してこない。
 それはそうだろう、逆らう者は処刑してきたのだ。逆鱗に触れればどうなるか。
 ますます惨めな気分になり、顔をあげると家の住民である、少女と目が合う。
 母親の影に守られながら、ジェンティアナを見ていた。
「……何か言いたいことがあるか」
 そう声をかけると、母親は彼女を隠すようにしてしまう。
 その態度に無性に腹が立った。
「私は王だぞ」
 ジェンティアナの声は思ったよりも大きく、少女は泣き出してしまった。
「逆らう者は許さぬ、逆らうから争いが起きるのだ!」
 騎士の腰から剣を抜く……騎士がそれを止めようとしたその時だった。
 天井から人影が滑るように降り、ジェンティアナの手首をうつと剣を落とした。
 それを蹴り飛ばし、ジェンティアナの口元をハンカチで塞ぐ。
 一瞬の出来事。
 騎士達はようやく剣を抜こうとしたが、人影は倒れ込んだジェンティアナを盾にし、騎士達の動きを封じる。
 窓まで下がり、そのまま迷わず外に躍り出る。
 後には馬の激走する蹄の音が聞こえるばかりとなった。

***

 アジュガの葬礼から4日後のことだった。
 アゲートが地図を手にベリー家の屋敷に現れた。オニキスも一緒である。
「まだ全てではないが、おおよそは思い出せた。ここが魔女が記した”湖”の場所だ」
 広げられた地図に丸の書き込みは6つ。
「こんなに?」
「ああ。当時は私も疑ったんだ、アイリス王国の地図はほとんど完成していると思っていたから……だが実際、ここに行くと確かに湖があった。大きいもので、なぜ今まで把握していなかったのか、不思議なものも」
「その湖が幻影である可能性がありますな。人をやって調べましょう。鏡の破片があるかもしれない」
 オニキスは捜査機関のメンバーを呼び、それとシリウスも呼んだ。
 集まった者達に「湖の探索」を命じ、鏡を見つけたら壊さず持ち帰ることを指示する。
「私も……」
 ロータスは手を挙げると、ふと地図に視線が落ち気がついた。ここにも書き込みがある。
「ダブルリバーか……」
 竜人族とアイリス王国、両者の紛争が起きた土地である。
 そしてロータスが赴任するはずだった土地。
 何か因縁めいたものを感じる。
 ロータスは「私はここに」と言った。
「ダブルリバーのことなら、赴任するためにある程度の情報を得ている。誰より動けるはずだ」
「では、ダブルリバーは王子殿下にお任せしましょう。供をするのは……」
 イオス、ブルー、フェンネル、と慣れた者達が選ばれる。
 それからサンだ。
「慣れた者達だけだと緊張感が減りますから」
 とオニキスは付け加えた。
 シリウスはオニキス、コー、ナギとロックランドへ、ジャスパーもシトリン、残る捜査機関の面々とダリアからしばらく西へ行った草原を目指すことになった。
「後は竜人族に探させる。その方が早いだろう」
 シリウスはオニキスにそう言い、オニキスが頷くとその通りにした。
 また何日か、留守をする。
 静かの森に留まるクレマチス達のことが心配だが、魔女の通り道は塞がれ、天然の要塞である森は王国のどこよりも安全のはず。
 そして今は帝国軍と竜人族が守っている。
 準備を終えると、ロータスはクレマチスに会いに行った。
「もう行くのね」
「ああ。……必ず戻るよ」
「分かってます。あなたならきっと約束を守るもの」
 そうクレマチスは冗談めいた言い方をした。
 ロータスは思い出す。
 あのペンダントを返す約束を。
「……必ず返すよ」
「そうして」
 ゆっくりと顔が近づき、額が擦れあう。彼女の髪を一房手に取り、流す。
「危険はないはずだけど、何かあったらすぐに逃げるんだ」
「……うん、大丈夫。あなたこそ気をつけてね」
 髪が掌から流れ落ちた。
 ロータスはそれを合図に、背を向ける。
 静かの森を出て、南方へ。
 あそこは乾いた土地である、物資は多く、ロバを使っての移動だ。
 待っている人がいる。それだけで全身に力がみなぎるようであった。

***

 ロックランドに湖があるとは、シリウスも知らなかった。
 本物の湖ではないかもしれない。もしかしたら、水たまりのような規模のものかも。
「魔女の出入り口を潰してどうするんだ?」
「アゲート王子殿下はあと一つあるはず、とおっしゃっていた。魔女に逃げられてはかなわん、奴の移動場所を絞って絞って、行動を読みやすくする」
「なるほどな。しかし、今魔女は……」
「王都だろう。アカシア王家の復活を望んでいたはずだ」
「いきなり”女王”を名乗れるものか?」
「だからピオニー殿下を利用した、あるいは結託したのかもしれん。竜人族を分裂させたのも、魔女の入れ知恵だろう」
「なぜ言い切れる?」
「スティールは魔女と頻繁に会っていたようだ。私が最初に見た、老婆の姿の時。それと若い女の姿の時……ロータス殿下が魔女と老婆が重なって見えた、とおっしゃったので気がついた」
「そこまで把握していたのか?」
「ダイヤモンド山に土地勘があってな。登って見ていたらスティールと白髪の魔女を見かけたんだ。ずいぶん親密そうだったものだから、今日昨日の仲ではないな、と」
 オニキスがあまりになめらかに話すので、シリウスは耳を疑う暇がなかったが、ようやく気づくと目を見開く。
「親密そうだと?」
「ああ。あれじゃ、子供が出来るのも時間の問題だろうな」
 シリウスは大きく息を吐き、続けた。
「まさかとは思うが、魔女のもとにダイヤ始め鉱石が大量にあった……可能性は?」
「魔女がコネクションにもたらしていたのは鉱石の類いだ。宝石に加工する前の方が売れるらしいし、それで間違いないが……」
「スティールが貢いでいたのか。それでダイヤモンド山の無断採掘を……」
「いつからだ?」
「詳しくは分からないが、プラチナがいたころからだ。数年前から……だと思う」
「……用意周到だな」
「スティールには相応のバチが当たるさ。しかし、気づかなかった……シトリンが言っていたことを、もっと詳しく聞くべきだったな……」
 シリウスは呆れ半分、自分への反省半分に額をかいた。
 一方気になったのはダイヤモンドである。
 槍の穂先だったそれを捨てることも出来ず、結局持ち歩いている。
 これは執着なのだろうか?
 自分に問いかけるが、答えは出ない。
 時間が解決することもある、シリウスは深く考えないようにし、目の前の問題に立ち向かった。
 ロックランドが見えてきた。
 巨石が草原に刺さるように埋もれ、なだらかな丘を雄々しく見せている。
 ここでアジュガと交戦し、ロータスを捕らえた――ある意味では始まりの土地である。
「アジュガ王子には残念なことだ。もし彼が正気だったなら……」
「堕ちた一人の心を救うのは骨が折れることだ。あまり思い詰めるなよ」
 オニキスはシリウスを諭すように言い、肩を叩いた。
 竜人族はどうにも、感性が豊かすぎると付け加えて。
「同情はしていない」
 そう言い返せば、オニキスは意外にも真剣な顔つきをしている。
「たらればは時として危険だ。シリウス殿、情が深いのは良いことだが、流されてはいけない」
「……」
 オニキスの言うことは分かる。シリウスは頭をかくと「そうだな」と返した。オニキスは視界を巡らせ、口を開く。
「さて、ロックランドは広いな……どこに湖があるのやら」
 かつて戦闘があった土地だが、今は穏やかで広々と草が風に流されているのみ。
 動物はシリウス達を避けるように駆け、鳥類は空を行くだけだ。
「まず全体を見渡せるところに」
 シリウスは馬首を巡らせ、砦よりも小高い丘の上を目指した。

 陽が傾き始め、岩は影を伸ばす。
 オニキス達はテントを建て始め、シリウスはそれを尻目に目を凝らす。
 どこかに湖があるのだ。
 それと鏡の破片、きっときらめくはず。
「見えるんですか?」
 ナギが聞いてきた。
「……君らよりは目が利くのでね」
「夜でも見えるとか」
「ああ」
 ナギは良かったら、とシリウスに筒のようなものを差し出す。
 先端に透明な板が差し込まれた、15センチほどの筒。
「なんだ、これは」
「望遠鏡です」
 ここからのぞいて、とナギは指し示し、シリウスはその通りに覗き込む。
「!」
 あんなに遠かった岩が、目の前にある。シリウスは思わず一歩下がった。
「なんだこれは」
「遠くをよく見るための道具です」
「……すごいな。帝国にはこんなものがあるのか」
「狩りに使うそうですよ」
 シリウスはもう一度覗き込んだ。視力は良い方だが、これを使うともっとよく見える。
 片目をつぶって目を凝らす。
 陽が落ち、角度が変わったために何かが太陽光を反射した。
 きらめく。
「見つけた、あれだ」
 シリウスはナギに望遠鏡を返し、小さな背を叩く。
「行ってくる」
「あっ、僕も」
 ナギはそう言ってついてきた。
 巨石の近く、影になる部分にそれはあった。
 水たまりのようだが、よく見ると人工池だ。
 ナギを下がらせ、シリウスは近くにあった鏡らしきものを矢で飛ばし回収した。
 鏡ではなく、金属を平らにしたもの。うつっているのはかろうじて自分の顔だと分かる程度である。
 オニキスに呼びかける。
「人工池とこれがあった」
「人工池か……規模は?」
「人一人入れるくらいだな。太っていなければ男でも通れる」
「あなた方とアジュガ王子軍のロックランドでの交戦時、頭巾の一団が現れたそうだな?」
「ああ。つまり、スティールがあれを利用した可能性があるってことか……道理でそれまで姿が見えなかったわけだ」
 合点が行く思いだ。
「人工池も潰すか?」
「その方が良さそうだ。後はジェット将軍にお話し、人をやる……ああ、来たな」
 オニキスはシリウスの後方を見て厳しい目をした。
 シリウスも振り返る。夜に迷いなく移動するあの人影。
 竜人族だ。一人だが、シリウスが見たところ後ろに武装した者が10人、控えている。
「敵か味方か」
 オニキスは弓を手にし、シリウスを見る。
 シリウスも弓を構えた。
「あれはスティールの情人だ。彼は夜目が効くんだろう。あんたがたでは相手にならない」
「では任せて良いと?」
「ああ。援護は頼んだ」
 シリウスは矢を放ち、すぐに槍に持ち替える。
 オニキスとナギが矢を放つ中、さっと駈け出す。
 10人はいるとはいえ、下からでは不利な状況だ。とシリウスは思ったがすぐに気がついた。
 油の匂いがする。シリウスは叫ぶように言った。
「炎を使うつもりだ!」
「わかった」
 炎は上にのぼってくる。ロックランドで火を使えば、確実に上にいる方がやられる。
「こっちの動きを見られていたな」
「それだけここが重要だったということだ」
 オニキスは何を思ったか、周辺の草を焼き始めた。
 シリウスは目を見張ったが、すぐに「ああ」と気がついた。
 燃やしてしまえばそれ以上燃えることはないのだ。
「いつでも離脱出来る。シリウス殿、無理はするなよ」
 オニキスはそう言うと自身も焼いた草の道を通って駆け下りてくる。
「大胆な長官殿だ」
「たまにはな」
 シリウスは弓を構え、兵士の脇、太もも、と防具に覆われていない所を狙いうつ。
 油の匂いがひどくなる中、頭上の岩を飛ぶようにスティールの弟分がやってくる。
 王宮の前庭でも見た顔だ。
「死に損ないだな」
 そう冷めた声で彼は言った。
「運だけは強くてね」
 シリウスはそう返すと彼を追う。岩に登り、剣を抜くと斬りかかる。
 彼は飛ぶようにそれをかわし、剣を抜くと応戦した。
 シリウスよりも細身の彼は、岩の上で上手く立ち回る。
 一撃一撃は軽いものでも、こちらにはなかなかやりにくい相手だった。
 竜人族らしい、山や岩場での戦いに慣れたやり方。
 シリウスは礼をするようにかわし、足払いを狙ったがかわされる。
 儀礼的だな、とシリウスは突然に自分の言葉を思いだした。
 ロータスに指導をつけていた時のことだ。
 彼は王国で培った剣の使い方をしてたが、実践的ではないものだった。
 正眼に構え、愚直すぎるほどまっすぐに。
 スティールの弟分に合わせていたら負けだ。
 シリウスは突然にぴたりと制止し、彼が訝しんだその瞬間にまっすぐ剣を振り下ろす。
 弟分がそれを受け止める。
 シリウスは体重ごと預けるつもりでそのまま重みに任せた。
 弟分は膝を折り、手首をぶるぶる振るわせる。
『自分の力ではなく、道具に任せるよう帝都では指導を受けたんだ。重さを利用するためにいっそ力は抜く』
 ロータスはそのように説明していた。
 竜人族は力に頼りがちである。
 シリウスは一度剣を戻すと、剣の向かうままに振り下ろす。
 落とされた剣は弟分の剣を砕き、そのまま肩を切った。
「うぁっ」
 とうめき声が聞こえたと同時に、王国軍が「撤退」と告げ帰って行く。
 弟分は置いていくようだ。シリウスはすぐに止血すると、彼が自決しないよう猿ぐつわする。
「何があったんだ?」
 オニキスにそう聞けば、彼は「油まみれにしただけだ」とあっさり返した。
 人工池を潰すと、淀んでいた水が土に染み込む。
「草燃えちゃったなあ」
 と、ナギが呟いた。が、コーが答えた。
「燃えた草は土を肥やすんだ」
「そうなんですか?」
「燃えて初めて芽吹く種子もある。ルピナスなら精霊に祈るかもしれない」
「じゃあ、そうしよう」
 ナギは見よう見まねなのか、手をぱんっ、と鳴らすと何か呟いた。
「その人はどうするんですか?」
 コーが訊ね、シリウスは暴れる彼を肩に担ぐ。
「生き証人だ。とにかく連れて行く」
 馬車の荷台にドサッと置き、シリウスは彼の目の前に指を突き出した。
「簡単に死ぬなよ」
 文句の言いたげなその目を見返し、シリウスは馬車の幕を下ろした。

次の話へ→Tale of Empire ー復活のダイヤモンドー 第34話 腹を割って

 

 

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