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Tale of Empire ー復活のダイヤモンドー 小説

Tale of Empire ー復活のダイヤモンドー 第29話 孤独の中の迷い人

 シリウスが捕縛された、とクレマチスはアジュガの宮で聞いた。
 アジュガの指示通り、手かせはつけられたが傷つけられてはいない。そして王宮の牢、また監獄に送られもせず、アジュガの宮にそのまま連れてきたという。
 クレマチスはほっと息を吐き、書斎にいるアジュガのもとへ向かった。
 木製の椅子は一人がけだがかなり大きく作られており、咲いた花のように丈夫が広がっている。
 そこに座る者の威厳を増すように設計されたそれに座るアジュガは、武骨な体躯もあいまって覇者のような気配すらあった。
 クレマチスは自分の体が急に細くなったような感覚にさいなまれながら、アジュガの前に立つ。
 アジュガの目がこちらを向いた。
 暗く、何も写していないかのような目。
「……お願いをお聞きいれ下さり、ありがとうございました」
 アジュガは返さなかった。視線を外し、興味もなさそうに脚を組み替える。
 沈黙が流れ、クレマチスはその場を去ろうとスカートの裾を揺らす。
 その時、アジュガの声がそれを引き留めた。
「二度目だな」
「え?」
「竜人族を助けてくれと言われたのは」
 そう言われ、クレマチスは違和感に眉をひそめる。
 竜人族を?
「……それが何か?」
「礼を言われた。なぜだ?」
「なぜ……?」
 アジュガの質問の意味が分からない。クレマチスはわずかに首を傾げるばかりだ。
「彼はロータス王子のことをよく知っていますもの」
「今は違うだろ。君、なぜ奴らの肩を持つんだ?」
「どういうことでしょう。一度目はお世話になった方のお連れの方だったから……竜人族の方もいたけど、ほとんどは貴族の方々でしたのよ」
「それがどうした? ベリー家は竜人族と王国の架け橋であるべき存在なのに、それを果たせなかった結果戦争が起きたんだ。本来ならお役御免で追われたって文句は言えないぞ。帝国の貴族だから容赦してもらったようなもんだろ」
 こんなに冷たい人だっただろうか?
 クレマチスは胸に疑問が渦巻くのを感じ、足が頼りなく震えるのに気がついた。
 冷えた空気に喉を掴まれた気分だ。
「まあ、いい。ベリー家にはそれほど興味もないしな。問題はシリウスだ。奴はロータスを人質にした卑怯者だろう。恨んでいるならまだしも、君、なぜわざわざ俺に頼んでまで助けようとしたんだ?」
「さっき言いましたわ」
「あれが理由? ロータスを知っているから? だったら尚更、軍に任せて詮議すれば良いだろう。わざわざ、嫌っている俺に、頼み込む理由になるか? まあ、いいか。ピオニーが結婚したからな、暇になった」
「?」
 アジュガは立ち上がり、クレマチスの顎を掴むと顔を上向かせた。
 嫌でも目が合う。
「おい、ここに連れてこい」
 アジュガは控えていた兵士に命じた。すぐに廊下を歩く数人の足音が響き、書斎に入ってくる。
 武装した兵士に囲まれ、シリウスがそこにいた。手には枷、兵士はそれを部屋に用意してあった鎖に繋いだ。まるで猛獣でも捕まえたかのように。
 クレマチスはアジュガを振り向いた。
 なぜこんなことを?
 そう聞きたいがもはやアジュガはクレマチスを見ようとしない。
「後は下がれ」
 アジュガの短い命令に、兵士達は下がっていく。
 残されたのは三人だけだ。
 アジュガはシリウスに目線をやった。
「なあ、この娘はなんでお前のために命乞いまでやったんだ? 普通に考えれば俺よりもお前の方が恨めしいはずだよな」
 アジュガの質問に、シリウスは返さない。
 当然だ。彼は猿ぐつわをされているのだ。
 アジュガの手がクレマチスの肩を掴み、再びシリウスの方を向かせる。
 シリウスの目が赤い、とクレマチスは気づいた。
「アジュガ殿下、一体何を……」
「黙ってろ、お嬢ちゃん。いいか? 世の中ギブアンドテイクだ。自分だけが良い思いが出来るなんて幻想はとっとと捨てちまいな。君は俺に頼み事をしたんだ、二度もな。その分は楽しませてもらうぞ」
「何を……っ」
 テーブルに体を押しつけられ、頭を固定されると両手を取られた。手首がきしみ、痛みに視界が歪む。
 お尻にアジュガの下半身の存在を感じた。
「いや……っ!」
 かろうじて声を出すと、アジュガは思いついたような声で「そうだな」と言う。
「舌を噛まれても厄介だ」
「やめて……、んむっ」
 アジュガの太い指が口の中に入り込む。歯を立てる暇もないまま、ぐじゅぐじゅと舌をもまれ、こみ上げてくる吐き気にクレマチスはいよいよ涙が出てきた。
 横顔をアジュガが覗き込んでくる。
「いい顔だな、クレマチスよ。ああ、せっかくだからお揃いにしてやろうか? 理由は知らんが、わざわざ助けてやりたかった男と」
 ビリビリッ、と布が引き裂かれる音。クレマチスの視界に入ってきたのは、自分が着ていたドレスの布だ。
 それを噛むように咥えさせられ、後頭部で結ばれる。
 息苦しい、とクレマチスは胸を上下させた。前を向けばシリウスがいて、赤い目をこちらに向けている。
 顔が急速に熱を帯び、驚くほどの速さで冷えていった。
(お願い、見ないで! 誰か助けて)
 それを願い、同時に自分が言いだしたことだと気づいてまた苦しくなった。
 両手首も同じものが巻かれていく。美しい布地が途端に恨めしい。体を反転させられ、胸元からドレスが引き裂かれた。
「もう少し大きいのが好みだけどな。ああ、揉むと大きくなるとか言うな。試してみるか? 毎晩でもしていれば、多少はあいつに追いつくかもしれんぞ」
 武骨な手が乳房を乱暴に揉みしだき、首を荒い息と唇、歯がなぞる。
 そのまま食い破られるのでは、と思うほどだ。喉がひゅうっと鳴り、酸欠なのか意識が遠のく。
 脚を持ち上げられ、むき出しになった下半身にアジュガの存在を感じる――それらが全て他人事のように思えた――その瞬間だった。
 ゴトン、と重い金属が落ちる音がして、突然に体が自由になった。
 テーブルから落ちる。自由になったのに力が抜け、起きることも出来ずただ目を開ける。
 シリウスが左手に枷を残したまま、アジュガを倒して鳩尾に膝を入れていた。
 解放された彼の右手はあらぬ方向を向いている。それがなぜか気になった。
「二度の頼み事? 良い思い? ふざけた事を言うんじゃない、王子。あんたは自分のために彼女の一生を犠牲にしたんだぞ! 幻想を見ているのはあんたの方だ」
 シリウスは枷がついたままの左手でアジュガののど元を締め上げる。
「誇り高い戦士だったアジュガ王子はどこへ行ったんだ? 俺たちはあんたのような野獣にも劣るような男と戦っていたのか? おい!」
 アジュガは呻きながらも、シリウスの手を掴んで返した。
「何が、誇りだ……! それにすがって、結局何も手に入らん……ロータスも、ピオニ―も、クレマチスも、皆俺を置いていった! 父上が求めていたのは、従順な将軍だ。それ以外に俺が生きる道などない……!!」
 ぐぅっ、と息を吐くアジュガを放し、シリウスは立ち上がる。
「哀れだ。どいつも、こいつも。自分の意思を貫く気概すらない。だったら王家を捨てた王女の方が、よほど勇敢だ」
 シリウスはクレマチスを抱き上げ、肩に担いだ。そしてアジュガを振り向き、言う。
「あんたを慕ってる者がいる。とっとと目を覚ませよ、王子」
 クレマチスはぐったりしたまま、シリウスにすがりついて息をする。
 くらくらする視界の中、アジュガの姿が見えた。
 背中を丸め、膝を抱え、幼子のように泣く姿が。

***

 宮の、今度は4階だ。以前よりも高い場所で飛び降りるには厳しい。
 クレマチスは引き裂かれたドレスを気にする余裕もないほど気力を消耗しているようで、シリウスも右手をぶらぶらさせて厳しい顔をした。
「どう出るか……流石に兵士を相手にする余裕はない。クレマチス、せめて君は助かるかもしれん、宮へ戻るか?」
「え? ……戻らない」
「だろうな……」
 柱を伝って降りる、無理だろう。
 せめてロープか何かあれば良いが。
 何かないかと外壁から様子を窺うが、見えるものはない。木も遠い。
「シリウス殿、あなたこそ一人なら……」
「無理だ。この手では」
「……枷をやぶるため?」
「……ああ」
 クレマチスの悲鳴を聞き、痛みを感じている場合ではなかった。
 皮膚は削がれ、それでも足りずに骨が外れたと思われる。今更痛みに微かな震えと熱を感じた。
「どうしよう」
 クレマチスは裂かれたドレスの布を取り、シリウスのその手を取り巻いていく。
 意外に慣れた手つきにシリウスは驚いた。
「慣れてるな」
「昔はお転婆だったの。ロータスもしょっちゅう体調を崩すし、怪我したりしてて……」
 きゅうっ、と結ばれ風に痛むことは減った。
 ふっと息が楽になる、その時だった。
 足下に人の気配がある。
 見下ろすと、フェンネルにイオス、ベリルの姿があり、更にルビーが弓矢を構えていた。
 矢にはロープ。受け取れ、と言わんばかりだ。
 シリウスはわかった、と手をあげる。
 ルビーが矢を放った。
 ゆったり飛んできて、掴むと先端は鏃ではないものだった。シリウスはそれを雨樋に結び、クレマチスを先におろさせる。
 下でフェンネル達が大きな布を広げ、いつでも受け止められる姿勢を見せた。
 シリウスはロープを握りしめながら、徐々に伸ばしていく。クレマチスは地面に近づき、ベリルに支えられるようにして降り立った。
 ギギッ、と鈍い音がして雨樋がへしゃげる。
「ここにいるぞ!」
 兵士が音に気づいて窓際までやって来て、指笛を鳴らそうとした。
 ルビーが弓を構えるが、シリウスは制する。
 その時、窓にアジュガが姿を現す。
「……放っておけ」
「で、殿下!?」
「そんな男、俺は知らん。どこぞの盗人だろう、追う価値もない」
「……」
 シリウスは目元の危ういアジュガを静かに見た。彼もシリウスを見る。
 その目は赤いが、はっきりと見開かれていた。
「……じゃあな」
 シリウスはそれだけ言うと、ロープを掴み外壁を蹴るように降りていく。
 2階まで来たらそのまま飛んで降り、合流した。

 酒場の近くへ戻ると、庭には武装した兵士らが所狭しと入り込み、シリウス達は面食らった。
 鎧はどれも質が良く、綺麗に磨かれている。見たことがない白金の色で、中の制服は青々とした青である。
「……どういうことだ?」
「エジリン皇子ご一行だわ」
 ベリルが説明し、クレマチスを巻いていたマントをまたまき直す。庭から声をかけた。
「ジャスミン?」
「ああ、戻ってきた? って、どうしたの? ああ、ごめん。事情は後で聞くわ。まず入って」
 ジャスミンはクレマチスとベリルを裏口から入れ、後の者には「大丈夫だから入って」と言った。
 帝国……皇帝とは話が出来た、とジャスパーも言っていた。シリウスは酒場に入り、後をフェンネル達が続く。
 中には身なりの良い、見覚えのある青年と、やはり見覚えのある40代のかなり大柄な男性だ。
「どうも。アッシュ帝国第4皇子エジリンと申します」
 皇子は明るい笑みを見せてそう言った。
「皇子……? こんなところに?」
「特殊捜査機関の者が常駐していますので、アイリス王国のどこより安全でしょうから。こちらは四方将軍の一人、ジェット・グリーン」
「いつぞやぶりだ」
 ジェットは人質解放の場に立ち会った将軍だ。シリウスは「ああ」と頷く。
「私は竜人族のシリウス……ベリーと申す」
「さっきは何かお取り込み中だったようですね」
「ええ、我々の秘蔵の書物を借りようとしたら、刺客に遭ったのです」
「刺客はどうなりましたか?」
「知りません」
「おや」
 エジリンは目を丸くした。
「我々の目的は書物であって、彼らの撃退ではありませんので」
「戦いの中でも理性を保っていられるのですか?」
「……それが私の役目なので」
 エジリンの質問に、シリウスは曖昧に答える。
 ジェットが腕を組みながらシリウスを見、「目的は果たしたのですか?」と聞いた。
「ええ。皇子殿下を巻き込むつもりはなかったのですが、結果としてはそうなりました。罰は何でも受けましょう」
「旦那!」
「旦那ぁ」
 シトリンとフェンネルが同時に言った。
 しかしエジリンはジェットを一度見るとシリウスに視線を戻し、言う。
「じゃあ、受けてもらいましょう。ジェット将軍」
「……はい」

 数分後、大量の蒸留酒を飲まされ、右手を氷嚢に包まれたシリウスが酒場で気絶するように眠る姿が確認された。
 戻ってきたジャスパー達も含め、ベリルにより改めて事情が説明されると、ジェットはサファイヤ湖に向かう準備を始める。
 ジャスパーはサン達と共にスカイを追いかけた結果をアゲートに報告、アゲートは「ピオニーの私物を盗んだ罪」で彼を投獄したという。
 彼の屋敷を、王国軍がこれから調べに行くはずだ。
 一つ片付いた、という安堵感の中、シトリン達は秘薬を調合し始めていた。
 右手の骨接ぎという罰を受けたシリウスは翌日に目覚め、酔いの残る視界の中でシトリンとクレマチスが何やら話しているのを見た。

 ゴリゴリ、とシトリンが薬研で薬草を砕く音が心地よく響いている。
調合法と材料を手に入れ、一日半が過ぎただろう。すでに砕かれた材料の熟成が進み、今砕いているものが入れば完成だ。完成が待ち遠しいのか、クレマチスは様子をずっと見守っている。
 粉末状になったそれが、一昼夜寝かせたものに混ぜられる。
 香りはツンと苦く尖って、甘さが出てくれば良い、調合法に記された通りの香りだ。
 出来た、と震える声でシトリンは完成を告げる。酒場はわっと沸いた。

「これで王子様が助かる!」
 シトリンは目の下を青黒くしながらそう言って、クレマチスに出来上がった秘薬を渡した。
「すごいわ。すぐにサファイヤ湖に行きましょう」
 ジェット将軍の護送のもとであれば安全な道程になるだろう。
 シリウスはそれを見守るようにして考え、余った秘薬を手に取る。皆の視線が集まった。
「これはアイリス国王に」
「え?」
 意外だ、と皆の目が丸くなる。
「国王は今危篤だ。早く処置をしないと、こっちに戻ってこられない」
「それで量を多めにしろって言ったの?」
「そういうことだ」
「国王殿下を救うのですか?」
 エジリンが聞いた。
「ええ。それが必要なことです」
「竜人族……特にあなたにとっては、国王殿下よりアゲート殿下が指揮を取っている方が都合が良いはずでしょう?」
「どうでしょうね。たとえそうだとしても、救える者を見捨てるのは竜人族の意志に反する」
「……」
 エジリンはシリウスを見ていたが、周囲を見回すと肩をすくめた。
「なるほどなあ」
 と呟き、立ち上がる。
「じゃあ、私も同行しようかな。それなら危険は少ないでしょう?」
「殿下、しかし私はサファイヤ湖に行くのですよ。せめて日をずらせば良いのでは? シリウス殿も」
「急がないと国王殿下も危うい。なら別れて行動すれば良いよ。副将軍は私と。軍を半分にして行けばいいんじゃない?」
 エジリンは事も無げにそう言い、決めてしまった。

 シリウスはベリル、ジャスパー、フェンネル、エジリン一行と王宮へ行く事となった。
 オウルを迎えに行かなければならない、ということである。
 ベリルはクレマチスを心配する様子を見せたが、クレマチスは大丈夫だと言った。
 サファイヤ湖へ出発するクレマチス達を見送り、シリウス達は行動を開始した。
 身なりを整えるがシリウスは野生を隠せない。参ったな、と髪を撫でると染料が溶け始めていた。銀髪が現れる。
 染めている時間はない。
 シリウスはとにかくエジリンの馬車に乗った。
 ふかふかの敷布のため、座っていても痛みはない。走り出すが揺れも少なく、車としての性能の高さに素直に驚いた。
「技術とはこういうことなのか……」
「手の具合はいかがですか?」
「ああ、ええ。お陰でちゃんと動きます。助かりました」
「何があったんですか?」
 ジャスパーが聞く。
「手枷を抜くために……」
「骨を外したんですか」
「事情が事情だ。もう聞くな」
 ジャスパーは憮然としていたが、それ以上聞こうとはしなかった。
 ベリルは一人訳を知ったような顔をしている。それもそうだろう、従妹のドレスは引き裂かれ、ほとんど裸身を晒していたのだ。何があったかなど、想像にたやすい。
 ベリルは額を押さえ、ふうっと息を吐くと「ありがとう」と小さく言った。
 王宮へは舗装された道を行く。皇子の名はさすがに伊達ではない。すぐに王宮は開かれた。
 つい先日忍び込んだ王宮の、見ることはなかった正面玄関は3階まで届きそうなほど高く、横幅は馬車が10台並んでも余裕がありそうなほどだ。
 石の床であることは変わりないが、流石にもてなしの場である、青い絨毯は毛も長く、掃除が行き届いていた。
 想像以上の荘厳さだ。
 衛兵がやってきて、確認をする。事前にアゲートに話は通してある。すぐに王宮内に案内されることになった。
 出迎えるアゲートのそばにはサンと、ルピナスが控えていた。彼にとって今一番信頼出来るのは捜査機関の者ということのようだ。
 それも虚しい話だが、彼は分かりきっていたこと、と話す。
 ジェンティアナの側にはオウルがいることももはや周知の事実となっているようだ。祈祷を捧げる巫女の存在に、王宮につとめる者は安心しているようである。
 寝室が開かれ、そこに入る。
 陽の光は優しく差し込み、天蓋の中で眠るジェンティアナを労っているようだった。
 だが相変わらず人の姿はない。
 国王の危機に、王宮内の気配は落ち着いているのがやけに虚しい。
 フェンネルは手に小箱を持っていた。シリウスを運んだあの中にも入れていたものである。
 流石に彼も大人しくしている。
「アゲート王子、これを」
 シリウスは袋に入れた秘薬を渡す。
 アゲートはそれを受け取り、中を見ると息を吸って話し始めた。
「……懐かしいよ。父上が危険だと聞き、私は心配になってこの部屋の前でずっと待っていたものだ。竜人族の女がやってきて、彼女は衛兵の剣に囲まれながら父上を治療した……あの光景は今でも忘れられない。銀の髪の、美しい女性だった」
 アゲートの目線が持ち上がり、シリウスの髪に留まる。
「……あなたも銀の髪だったのか……」
「アゲート王子、ロータスは彼女の……」
「その通りだ。竜人族の彼女の子……父上が唯一望まれた女性だ。だが……」
 アゲートは嫌なものを振り払うように頭をふった。
「分かっているんだ。彼女の死因は病気ではない。……毒殺だったと。妃の位が奪われると怖れた者によって。だから、彼女は去ってしまった。王を追い詰めないように」
「その妃もまた……」
「そうだ。被害者かもしれない。虚しいのは地位を追われれば行く当てがない、そんな綱渡りを続けなければいけない、この国の伝統だろう」
 アゲートの説明に皆静まりかえる。秘薬を取り出すわずかな音が響くほどに。
 草花がすりつぶされたそれを、調合法の通りその場で火にあぶり、香りが立った時に口に含ませる。
 オウルとフェンネルは協力して火を焚き、秘薬をまぶし、そしてジェンティアナの口に含ませた。
 それがしばらく続き、陽が傾いたころ。
 ジェンティアナの眉間が解かれ、まぶたが動く。
 皆立ち上がり、ジェンティアナの目覚めを待った。
 彼の指先がぴくりと動く。
「父上」
 アゲートが声をかける。
 肩を揺らし、顔を覗き込んだ。
 色のなくなった瞳が見え、それがアゲートをうつす。
「父上!」
「アゲートか……」
 ジェンティアナの声は掠れていた。
 目がはっきり合うと、アゲートはその場に膝を折り、顔を枕元に埋める。
「よくご無事で……!」
「一体、何だ……? この者達は……」
 ジェンティアナの目がシリウス達をとらえ、見開かれる。
「りゅ、竜人族……! なぜここに!」
「落ち着かれませ、父上。彼らは敵ではありません」
「しかし……!」
「国王。俺たちはあなたに贈り物があって来たんだ。他意はない」
 シリウスはフェンネルに目配せする。
 フェンネルは頷いて一歩前に出て、小箱をジェンティアナに差し出した。
「何をするつもりだ?」
「これを……竜人族の、あなたへの気持ちです」
 ジェンティアナは手を震えさせ、箱を払おうとした。が、アゲートがそれを代わりに受け取り、封を解いた。
 蓋が開き、ジェンティアナの目が変わる。
「……!」
 中に入っていたのは、ダイヤモンドで作られた女性像だった。
 その目はサファイヤ。
 彼女を掘り出したものである。

次の話へ→Tale of Empire ー復活のダイヤモンドー 第30話 郷愁

 

 

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