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Tale of Empire ー復活のダイヤモンドー 小説

Tale of Empire ー復活のダイヤモンドー 第15話 監獄

2022-11-26

 クレマチス一行はラピスの計らいで、アイリス王国へ向かうことになった。
 帝国の使者として赴く彼の仲間の同行者という形である。
 出発は3日後。
 ロータスにやっと会える、とクレマチスは軽い足取りで宮殿を歩いていた。
 部屋の前、自分の名前が聞こえた気がして足を止める。
 そっと耳を傾けると、ベリルとオウルが彼女たちの部屋の中で話し合っていたのだ。
 話しかけようか、とノブに手をかけようとした時、また自分の名前が聞こえ息を潜めてしまう。
「クレマチスが予言の者だとしたら……」
 ベリルの声は固い。
 良い話ではなさそうだった。
「一体、どうすれば良いのかしら。シリウス殿とめあわせなければならないのかしら……」
 めあわせる、という一言にクレマチスは身を固くした。
 ただでさえ望まぬ結婚をした身だ。
 また何らか払わなければならないものがあるというのだろうか。家名というもののために?
「もうおやめ、予言は不完全だった。剣はそれぞれ対の鞘にしか収まらぬもの、焦って選んでも合わないものは合わない」
「でも、もしそうなら私のしたことは無駄だったかもしれないのね」
「無駄とは言えぬのだろう。シリウスとやらはベリー家の婿として、静かの森で立場を得、帝国の将軍もそれ相応に扱ったから和議は成ったのだろう。人質としての価値もそうだろうとも」
「はあ……それもそうね……だけど、もし、クレマチスがそうなら……」
「あの子の意思を尊重しておやり」
「だけどオウル、あなたが出した予言でしょう。あれが叶えばきっと皆救われる。誰もが自分の意思を優先させていたら、もっと秩序は失われるわよ」
「人の意思……それは欲望ではない。欲望に従えば大変なことになるものだろうが、意思や本心をバカにしてはならぬ。よく言うであろう、宿命は変えられないが、運命は変えられる、と。馬に乗れば死ぬ宿命なら、馬に乗らなければ運命は変えられるということじゃ。欲に振り回されずにいれば、生きてはいけるということであろう」
「私が欲深いのかしら。銀の竜と結ばれれば、再興とまではいかなくても活路は見いだせると思って……それで結局、シリウス殿を振り回したようなところはあるかも。クレマチスを同じ目に遭わせようとは思っていないわ。でも、皆が生きていけるならと考えてしまう」
「思考は時として欲を絡めていく。考えるのを一時やめることじゃな。余裕がないと空気の味すらわからなくなるぞ」
 ベリルのため息が聞こえてきた。
 そうするのが良いのなら、と決めたことで後悔したことは、クレマチスにもあるはずだ。
 アジュガとの結婚はまさしくそれであったはず。そうすることで救われる何かがあるから、とそう考えて。
 結果得たものは、何だっただろうか。
 育ててくれた義両親の後悔の涙ではなかったか。
 そしてロータスを裏切ってしまったという思い。
 そうだ、彼と会えても、どんな顔をして?
 仕方なかったと?
「なんだか後ろめたいわ……」
「まあ、後悔があっても良いではないか。転んでも、そこから学べば良い。痛みが軌道修正してくれることもあるさ」
「オウルもそんなことがあった?」
「あったとも。痛みや苦悩があって、そこから抜け出そうとするなら意味がある。頭を打ち続けてようやく気づける何かがあるなら、それはそれで良いのだよ」
 クレマチスは冷えていく指先をそっと下ろし、その場をあとにする。
 廊下を歩いていると見慣れた身長、その背中が目に入る。
 ジャスパーだ。
「どうかしたの?」
「いや。妙な話が聞こえてきたと思っただけだ」
 ジャスパーが示したのは、先ほどクレマチスも聞いた彼女たちの方向。
 だがジャスパーは扉の前にもいなかったが。
「どこで聞いたの?」
「自分の部屋だ。窓を開けてたからだろうな。ややこしい話ばかりだ」
 大変だな、とジャスパーはクレマチスを見て腕を組む。
「耳が良いのでしたっけ」
「ああ。耳栓をなくしてな。ここはけっこう音を通すぞ、宮殿だからってことか?」
「かもしれませんね……」
「あんた、どうするんだ」
 ジャスパーの質問に顔を跳ね上げ、彼の鋭い目線にすぐまぶたを伏せる。
 どうする?
「考えなしに行動しすぎたのかも……今になってようやく、どうしたら良いのかわからなくなってしまった」
「はは。考えるより先に行動ってか? 悪くない」
「軽率だったかも……ロータス殿下はどう思われるかしら……」
 クレマチスの声があまりに落ち込んだせいか、ジャスパーはすぐに返事をしない。かわりにふーっと息を吐くと頭に手をのせてきた。
「小さい頭で色々考えると沸騰するぞ」
 目線だけを上に持ち上げると、ジャスパーのゆったりした笑みとぶつかる。
 彼なりに励ましてくれたのだろう。クレマチスは急に恥ずかしくなり、頭のてっぺんまで体温があがるのを感じた。
「本当に欲しいものは自分で取りに行かないとな。しっかりやってりゃその内、答えが出てくるさ」
 おやすみ、とジャスパーが去って行く。
 撫でられた頭をそっと辿る。
 まだ彼の手の温度が残っているのではないか、と思うほど熱い。
 同室のルビーにすれ違いざまに「おやすみなさーい」と声をかけられ、ようやくクレマチスは足を動かした。

***

 和議の場でピオニーが言ったのは「あの子に似た女性を紹介しましょう」ということである。
 今目の前に座る女性は確かに髪の色も同じで、年の頃も同じだ。
 ロータスを目の前に、彼女は恥ずかしそうに頬を赤く染め、目線を伏せている。
 クレマチスはいつも大きな目をまっすぐに向けてきたものだった。
 食事の席だが、やはり毒味を通すため冷えたものである。
 それは仕方ない。
 だが味気ない。この空気感がそうしているのだろう、とロータスは感じ取っていた。
 あまりに気が乗らない。
 それを態度には出さないよう注意し、ロータスは彼女の顔を見ると唯一温かいお茶を飲んだ。
「お味はいかがですか?」
 そう声をかけると、彼女の黒い目がロータスを捕らえ、形の良い唇が「はい」と返事する。
「帝国の正反対の国からいらっしゃった。旅はどうでしたか」
「そうですね。その、アイリス王国は森が多いと聞いておりましたが、草原が多いのかなって」
「道はほとんどそうでしょうね。ウィローはいかがですか? 春なら風景も良さそうですが」
「はい」
 ぎこちない返答の後、彼女は目を伏せてしまう。
 流石に彼女の両親がロータスに話しだし、ウィローの様子などを話し始めた。
 見合いが終了し、監督していたトレニアは首をふると扇を広げてロータスに耳打ちする。
「なんだか相性が悪そうね」
「どうでしょう。私が嫌な態度を取ったのかもしれません」
「ウィンド家のお嬢さんに似た子を、とピオニーが言ったそうじゃないの。でも、どうなの?」
「顔立ちは似ています。だがそれだけです」
「断るつもりね」
「もちろん。もう誰に睨まれようが気にしません」
 ロータスは王宮の応接間から出て、庭園を散歩する。トレニアも一緒だ。
「父上は何をお考えなのかしら。あなたの婚約者をアジュガに渡すなんて」
「ウェストウィンドの土地のこともあります。王子が領主となれば、王権をより強く印象づけることが出来ますから」
「あそこは農地であり、西方に向かう土地だから、ということね……まるで独裁国家のようじゃない? そうなった王国が滅びて滅ぼされて、今のアイリス・レイン王家になったというのに」
 なぜか戦争と縁の深い土地である。
 帝国貴族が領主となり、皇女を妻にすることでかつての王国が誕生した。
 だが国王は野心を見せ帝国に弓引く。
 結果クーデターが起き、時の国王は倒れ、王妃は帝国へ帰った。
 王国は一度滅んだ。
 だが皇室は新たな皇子を国王として派遣。今度は王国に古くから住む娘を王妃としたが、娘はクーデターに倒れた国王の縁者だったのである。
 復讐は成功したが、皇子殺害の罪は重い。
 王妃は処刑され、子供達は散り散りになった。
 そんなことの繰り返しで、何代の王国が滅びたことか。そのほとんどが復讐・奪還を大義名分としている。
「これでは前の王国を踏襲することになりそう。百年前に起きた内乱みたいに」
「仕方ないのかもしれません。そういうさだめなら……」
 ロータスは自分でそう言いながら、ひっかかるものがあり首を傾げた。
「ならば私たちがここにいる意味がない」
「え?」
 独り言のような呟きは風に消える。
(そうだ。繰り返すためならば、なぜ考え、行動するのか。何か違うのではないか? 何かが変わらなければならないのではないか?)
 急に浮かんだ考えに頭がぐらりと揺れた気がした。
「姉上の感じる危機感こそ大切なのでは……」
「あら、でも、それを感じ怖れた歴代の国王が支配に傾いていったのよ。今の父上のように……」
「姉上」
 トレニアは扇で口元を隠した。
「ロータス……」
「姉上、もし用意出来るならば義兄上のご実家に身を寄せられてはいかがです? 確かバーチに親戚がいるとか……いえ、ただの思いつきです。お気になさらぬよう」
「考えてはいたのよ。でも、まだ王女としてやらねばならないことがあるとも思っていたの。ロータス、お前の提案はありがたく受け取っておくわね」
 トレニアは早口に言うと、ドレスの裾を揺らして庭園を去る。
 夜になると、私室でロータスはフェンネルを待った。
 彼は足音も小さくやってきて、ロータスに手紙を渡す。
 5日になる。
「鉄で出来た扉、食事が渡される窓はこの手紙ほど、か。頭は通らないし、鉄なら切ることも割ることも出来なさそうだ……」
「でも脱獄したら、それがばれたら大変なことになるとかじゃないんですか?」
 フェンネルにしては気の利いた意見だ。
「本来離宮にいるはずなんだ。監獄にいる方が問題のはず……だがシリウスは確かに無理はするなと書いている。鍵が手に入れば良いんだが」
 予定はびっしり詰まっていた。
 ロータスは竜人族の人質だったため、彼らと繋がっていないか早い話疑われているのだ。予定を入れることで監視しているのだろう。
 わずかでも竜人族を庇うそぶりを見せれば、おそらくロータスは今より自由を失う。
 更に気になるのは、スティールが彼をこうしたのだろうが、それを他言しないよう伝えていることだ。フェンネルにも、と書いている。
「フェンネル、君は今誰と仲が良いんだ?」
「こっちいるのは年寄り多くて、仲は良いけど話は合わないかなあ」
「そうか。なら良いんだ。ところでシリウスの脱獄がバレて、なぜ大変になると?」
 誘導のようだが、とロータスは独りごちる。幸い、フェンネルは深く考えていないようだ。
「王子が静かの森にいた時、逃がしたら大変だからって話だったから、そうなのかなあって」
「……ああ、なるほど……」
 誰かに入れ知恵をされたのでは、と疑った自分にため息が出そうだ。
「どこかのタイミングで動ければ良いが」
 そう額をかき、フェンネルが戻るのを見送る。
 音も静かに歩き回る彼は、もし邪知があれば凄腕の情報屋か暗殺者になれるのだろう。
 人情のある者で良かった、とロータスは素直に思った。

 翌日、ロータスはアジュガとアゲートが話しているのを聞いた。
 アゲートの執務室の前である。
 そのまま通り過ぎようと思ったが、自分の名前が出たことで足が止まってしまった。
「ロータスの処遇だが、父上は新たな土地の領主にするおつもりのようだ」
「おお、そうなのですか。確かにあいつの領主としての評判は良いですからね」
「ああ。ウェストウィンドもより発展したと聞く。どうだった?」
「どう……と申されましても」
「ん?」
アジュガはウェストウィンドに無頓着なようだ。だがそうならば、あの土地に手を加えていないということだろうか? ロータスは彼に期待した。 が……
「副将軍に任せております。屯田の開発が進んでいるので、兵士らを存分に食わせることが出来そうだ、と」
「そうか。鍛冶を増やすんだったか。職人はどこから連れてくるつもりなんだ?」
 二人の会話に、ロータスは背筋から何かが抜けるような感覚を味わい、目頭をひっかいた。
 緑の風が吹くあのウェストウィンドが。
 何も言わず立ち去ろう、いや、言わないで良いのか?
 しかし言ったところで無駄だろう。
 彼は新たな領主なのだから。
「ところで、看守になった元部下が報告したのですが、監獄に新たな訳ありが入ったそうで。兄上はご存じですか?」
「もちろん。妙な話だ。裁判なしに処刑するとか。3日後だったかな……」
 突然飛び込んできた内容に、ロータスは体の奥がひゅっと冷える感じになった。
「兄上の裁判を待たずにだと聞いて、気になったのです。どうお考えですか?」
「どうと言われてもな……訳ありのどこぞの貴族である可能性が高いんだろう? 手を汚さず名誉を傷つけないままで暗殺、といったところか。いずれバレる話だろうに」
「貴族ではなく、豪商の関係者だとかなんとか……姿が隠されていたようで」
「そうなのか? 全くどいつもこいつも……」
 アゲートのため息まじりの悪態が聞こえてくる。
 シリウスのことではないか? いやそうに違いない。早く助け出さねば、手遅れになってしまう。
 ロータスは冷えた下唇を噛みしめ、息を殺すと元来た道を戻る。

 自由になる時は意外と早くやってきた。
 翌日、ピオニーの嫁入り準備のために、神殿へ使いに出ることになったのだ。
 そこで体調不良を装うと、神官達はすぐに寝室を用意した。
 ロータスはベッドに自分の身長ほどの膨らみを作り、窓から出るとその足で厩舎に向かい、すぐに馬を走らせる。
 昼間見る監獄はまるで異質だ。
 夜の闇を吸ったかのような黒い痕がいくつもついた灰色の分厚い壁、壁、壁。
 ここには重犯罪を犯した者だけでなく、王家にゆかりある訳ありの者も収容される。
 いやな匂いが漂ってきそうなほど、どんよりとした気配が漂っていた。
 シリウスがいるのは最上階の部屋だとフェンネルは言っていた。
 あそこは貴族や王族の訳ありを収容する独房が並ぶ階、監獄の中ではマシなはずだ。
 声をかけるわけにはいくまい、ロータスは監獄の周辺を気配を殺して探る。
 見張りはおらず、中に帯剣する看守がいる程度。
 どうしたものか。
(なぜこうも必死になっているんだ、私は)
 シリウスは敵だったはずだ。
 それも自分を捕らえ、盾とした男だ。
 だが彼が求めたのは、たとえばプルメリアのような戦う力を持たぬ者のための平穏の時間だ。
 それは無視出来ない。
「……」
 このような扱いを受けて良い者ではない、ということだけは確かだ。やはり救い出さねばならない。
 ロータスが決意を新たにしていると、看守が交替で出てくるのが目に入る。
 帰宅するのか、休憩するのか。
 藪に隠れながら彼のあとを追う。
 監獄横の森に小屋があり、そこで看守達は身支度をするようだ。
 今彼は一人。
 そのまま見ていると、彼が服を着替え、出て行く。
 今だ、とロータスは小屋に忍び込んだ。
 脱いだばかりの制服は生暖かい。
 とにかく襟元まできっちりとしたそれを身に纏い、銀髪を隠すように泥を塗りつける。
 帽子をかぶって帯剣すると、何事もなかったように歩き出した。
 そのまま監獄へ入る。
 中は思ったよりも広く、石を敷き詰めた床は靴の音をよく響かせた。
「よお、どうした?」
 看守の一人に声をかけられ、ロータスは咳き込むふりをして「忘れ物だ」と告げ、続ける。
「しかし、最上階は静かだな」
「そうだなあ。最近、新しい訳ありが入れられたらしいけど、大人しいもんだよ」
「訳あり?」
「そうだよ。訳ありっていうからには、どっかの貴族が何かやらかしたのかね……」
 この様子なら、最上階にシリウス――竜人族が収容されたとも思われていない。
 最上階に至る階段はらせん状で、一つしかない。まるで塔のようになっている。
 ロータスは再び一人になると、しばらく歩いたが靴を脱いだ。
 反響しすぎたためだ。
 幸い人はいないが、その分自分の呼吸すらうるさく感じた。時々流れてくるすきま風は人のうめき声のよう。
(こんな環境に長くいたのでは、正気を失いそうになるな)
 囚人が狂ってしまえば、そこから得られる証言は信憑性はどうなのだろうか。
 ロータスはなんとなくそんなことを考えた。
 階段は狭く、踵が浮く。昇っていくと途中の小窓が高さを教えていた。
 4階、5階……断崖絶壁の向こうは荒海。
 なるほど、逃げだそうと思えなくなる仕組みだ。
 足を早めて登り切れば、だだっ広い空間に3部屋ほどの独房がかなりの距離を取って造られているのが見えた。
 まだ高い太陽。だが当然、中は曇天時のように暗く重い。
 独房は2つ開いている。
 奥の部屋だけが閉じられていた。
「……シリウス?」
 声をかける。
 手紙ほどの大きさ、の窓をコンコン叩く音が返ってきた。
 外からしか開けられないそこを開ければ、シリウスの返事があった。
「本当に来たのか」
「ああ。少なくとも、こんな扱いを受けていいわけがないし、王国側としても許されない無礼だから……それに……」
「王国側全体がこうすると決めたわけじゃないはずだ」
「え?」
「裏切ったのはスティールだ。それから……」
「それから?」
「いや、確証はない。すまん、忘れてくれ」
「シリウス、気になることがあるなら言ってくれ。なぜスティール殿が裏切ったと分かるんだ?」
 ロータスは質問しながら、周囲を見渡す。
 鍵はどこにあるのか?
 早くしなければ、神官達が流石に怪しむ。
「俺を捕らえた後、笑ってたのさ。それだけだし、カンでしかない」
「竜人族のカンは当たるんだろう? プルメリアがいれば、あっさりわかったかもしれない」
「かもな。あの子は特に直感が鋭い……わかるだろう、俺たち全ての感覚が鋭くて、正しいわけではないと。だがスティールが王国軍と通じているのはおそらく確かだ。それ以外はなんとも言えない。王子、俺を助けない方が良いぞ」
「あなたは本来離宮にいなければならないんだ」
「俺だと名乗る者がそこにいれば、王国側はそれで体面を保てるはずだろ? だったら問題にはならない。良いか、王子。スティールと、奴に通じる者。それと戦って勝てる見込みはない」
「今のところはそうかもしれないが、だが、ここで不正が通ればそれは新たな歪みを産むだけだ。シリウス、あなたが耐えれば良いとか、私が黙れば良いとか、そんな問題ではないと思う」
 太陽の位置が微妙に変わっていた。影の位置が変化する。
「……早く戻らねば」
「その方が良い。王子、正しさだけが正しいってわけじゃない。正論が時として邪魔になることもあるんだぞ」
「だが……」
 その時、鈍く光るものを見つけた。
 鍵だ。
「シリウス、2日後にあなたを処刑すると聞いたんだ。それは誰も望んでいないはず」
 ロータスは重い鍵を取り、穴に差し込む。
 ゴリゴリッ、と石同士をするような音がして、扉が解放された。
「後はあなたの判断に任せる」
 ロータスはそう言うと、鍵を戻し、足早に戻る。帽子を深く被りなおし、らせん階段を降りる。
 看守達がそれぞれのフロアで移動を始めた。
 靴をはき直し、何食わぬ顔で参加する。
 紛れ込んで離脱、監獄を脱出すると服を着替え、神殿に向け走り出した。
 その時、一羽のカラスが上空に飛び立った。

次の話へ→Tale of Empire ー復活のダイヤモンドー 第16話 再会の街

 

 

  • この記事を書いた人

深月カメリア

ライター:深月カメリア 女性特有の病気をきっかけに、性を大切にすることに目覚めたXジェンダー。以来、性に関して大切な精神的、肉体的なアプローチを食事、運動、メンタルケアを通じて発信しています。 Writer:Camellia Mizuki I am an X-gender woman who was awakened to the importance of sexuality by a woman's specific illness. Since then, I've been sharing an essential mind-body approach to sexuality through diet, exercise, and mental health care.”

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