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Tale of Empire ー復活のダイヤモンドー 小説

Tale of Empire ー復活のダイヤモンドー 第14話 密談

 王都に帰還するやいなや、アジュガが切り出した。
「クレマチスなんだが」
 ロータスはその名に反応し、彼を見る。
 アジュガはかなり困ったように眉を寄せ、ため息をついたものだった。
「出て行った」
「なんですって?」
「そのまんまだよ。良いか? ロータス。俺が彼女と結婚したのは、俺ならお前と彼女との関係を尊重し、守ってやれるからだよ。夫婦なんて形だけ、体面さえ保てりゃいいってな。だが、クレマチスはそれでも嫌だと言ってきかず、挙式の後すぐに出て行ったんだ」
 アジュガの説明にロータスも眉を寄せた。
 ロータスはアジュガには何かと面倒を見られている。関係の良い兄弟だ、と周囲も認めるところだ。
 だが、和議の場で彼が言ったことは?
 まるでロータスに不都合をかぶせるかのような言動。
 その一方、彼女らしい行動に何かほっとするような、救われたような心地もある。
 釣り針が喉の奥に引っ掛かったような違和感が残るものの、彼の言うことを信じられないわけでもない、とロータスは思った。
「……それで、どこへ? 兄上の寝室でなければウェストウィンドへ?」
「いや、帝都だ」
「帝都?」
 思いがけない地名だ。
 ロータスは目を見開き、アジュガを見上げる。
「王国からの避難民が多数いるなか、帝都へ? 危険ではありませんか。しかも、その時は冬だったのでは?」
「その通りだ。俺も知らなかったんだ。彼女はこっそり出て行って、消息不明。だがある時、皇帝陛下直々に手紙が届いて……」
「無事だったと?」
「ああ」
「……ひ、一人で帝都に? それは流石に無理がある。陛下が守って下さるだろうが……」
「気にするな、と陛下は書かれていた。供が数人一緒だと。だが、クレマチスが出て行ったこと、これは内密にせよとのことだった。それが俺の名誉のためでもある、と陛下は配慮を」
「そうなのですか……」
「クレマチスとのことは、お前に誤解させてすまない。だが、俺が約束を違えるわけないだろ?」
 アジュガはどことなく阿るように言って、ロータスの顔を覗き込んだ。
「……私の短慮でした。申し訳ありません」
「わかってくれれば良いんだ」
 アジュガの手が頭に置かれ、離れるとアジュガは立ち去った。
 彼の広い背中は、戦場を離れるとどこか幼く見える。ロータスは違和感を拭いきれず、首をふって気分を整える。
 これから父に謁見するのだ。

 王座の間に入るのは久しぶりだが、以前よりも狭くなった気がする。
 石の床の冷たさは、赤い毛の立つ毛氈でも隠せない。
 側に控える衛兵は顔を隠し、鋭く光る剣を鞘に隠している。
 ジェンティアナの放つ威厳とも言うべき、影のようなもので全体が包まれているような空間だった。
 かなり空気は重く、ロータスは肺を圧迫されているような不快感を得たが、以前よりも耐えられた。
 息が出来る。
「無事だったか」
 ジェンティアナの声はどこか掠れていた。
「はい」
「アジュガの身代わりとなったと聞いた。お前らしい判断だと思ったものだ。余計な犠牲者を出したくないのだろう」
「犠牲者に余計も何もありません」
「皆救われるべきだと?」
「それが不可能だとしても、そのように努める必要があると考えております」
 思わぬ問答になり、ロータスは唾を飲んで顔をあげた。
「竜人族は我々が思っているような、文明のない者達ではありません。これ以上戦闘状態が続けば、王国側にかなりの被害者が出たことでしょう」
「和議に賛成だと言いたいのだな」
「はい」
 ジェンティアナの小さな息が聞こえてきた。
「……ロータス、ウェストウィンドはアジュガの領地となった。しばらく宮殿に留まれ」
「……父上。一つお願いがございます」
「なんだ?」
「帝都へ行きたいのです」
 ロータスがそう言った瞬間、ジェンティアナが大きく息を吸い、姿勢を伸ばした。
「……帝都だと? なぜ?」
「……皇帝陛下に竜人族との和解に向け、ご助力を願いたいのです」
「何を申す? それではまるで、王国だけでは解決出来ぬと言いたげだな」
「いいえ。だが、ベリー家はそれを尽くせるほどの勢力を持たず、間に入る者がなければ衝突するばかり。不毛な争いに王国は疲弊しているのですよ」
「我が国土は何百年と耐え、発展を続けたのだぞ。今更ふぬけたことを言うものではない」
 ジェンティアナは背中をどっかりと背もたれに預け、息を吐き出した。
 呆れたといわんばかりの態度である。
「竜人族に捕らえられ、すっかり弱気になったか? 帝都へ行くのも戦闘から逃げたい臆病心からであろう。アジュガは身代わりに、と言ったが、真実はどうか分かったものではない」
「……私と兄上をお疑いに?」
「アジュガを盾に出すのか? ロータス、お前は昔から弱かった。体が弱くても、芯があれば良いと思っていたが、残念だ」
 ジェンティアナは両目でロータスを見る。献上品を見定める時のような目だ、とロータスは思った。
「帝都へ行くことは許さん。竜人族とのことは、王国が解決せねばならぬこと。下手に力を借りればアイリス王国は各王国から弱腰の国と侮られ、攻め入る口実を与えかねん。それに、ピオニーが成婚による和議を提案したのだぞ。これ以上こじれることもないのだ」
 ジェンティアナは侍女を呼ぶと、ロータスを連れて行くよう命じた。
「父上」
「もう話は終わりだ。お前を捕らえた竜人族の男はからの離宮におり、厳重に見張られている。危険はない。ゆっくり休めば、多少考えも改まるであろう。晩餐で会おう」
 ジェンティアナはもう興味をなくした、という風に首をふり、頬杖をついた。
 その王座の後ろ、白い髪が流れるのが見える。
 父のものではない。
 扉が閉まるその直前、白い髪、赤い唇の女がジェンティアナにそっと耳打ちするのが見えた。

 宮殿での私室に入る。
 中は掃除も隅々まで行き届き、調度品も新調されていた。
 アゲートの指示であると侍女は言う。
「アゲート兄上が……」
「ロータス殿下が人質となったため、一時的な平穏を得ました。各地からの献上品も年貢も無事に届き、多少は余裕が出た、とおっしゃって」
「では、アゲート兄上に会いに行く」
「面会の予約を」
 侍女は下がり、しばらくすると「晩餐で会おう」とアゲートからの言付けを伝えに戻った。
 ロータスはそのまま休むよう言われたが、気になることが多すぎた。
 まずはシリウスのことだ。
 彼もまた人質になったのだ。離宮ならベリー家の屋敷より広く、暮らすだけなら悪くない。
 だが王子を生け捕りにした罪もあるため、おそらく厳しい状況に追い込まれるはずだ。
 それから王都に連れてこられた竜人族の皆。
 竜人族の長がピオニーの婿となる。ならば彼らが悪環境に陥る可能性はなさそうだが。
(ここで考えても仕方ない……しかし、先ほどの女性は誰だ? 衛兵がいるとはいえ、父上の背後に潜むことを許されるなど……)
 よほどの権力者か?
 そんなことを考えていると、窓にコン、と何かがぶつかった音で思考が中断した。
 目線を向ければ、頭を下にした逆さまの状態のフェンネルが顔を見せた。
「?!」
 目が合うとフェンネルは嬉しそうに頬を緩めた。窓を開く。
「な、何をしている?」
「いやぁ、シリウスの旦那が注意しろよって言うから、とりあえず王子に会っとこうと思って」
「な、え……ど、どうやってここに?」
 ロータスは身を乗り出し、フェンネルを見た。
 窓枠のでっぱりに器用につま先をひっかけ、そこからぶら下がっていたようだ。
 衛兵が周囲を見回っている。ロータスは慌ててフェンネルを中に入れた。
「フェンネル、ここは君にとって危険だ」
「そうなんですか? なんで?」
「結婚による和議が成ろうとしているとはいえ、私たちは戦ってたんだぞ。敵だったんだ。それが居城に来たとなったら、襲っていると思われても仕方ない」
「でも、もう敵じゃないんでしょ?」
「そうだが……とにかく、会うのであれば、玄関からちゃんと入って……いや、待て。シリウスや他の者は? どうしている?」
「無事です。シリウスの旦那は別のところに連れて行かれたけど……」
「別の所とは? どこだった?」
「最後までは知らないんだよ。ただ、西の方に向かっていったと思うんですけど」
「西だと?」
 離宮と聞いた。
 だがそうではなかったのか。
 王宮まで来て、そこから西となれば断崖絶壁しかない。
 では監獄へ? ロータスは表情を険しくさせた。
「人質に対する扱いに関しては、四方将軍の前で明確に誓ったはずだ」
「なんかヤバそうですか?」
「いや、まだそうと決まったわけではないが……調べる必要がある」
 ロータスはフェンネルに隠れているよう言うと、部屋を出た。
 廊下を歩いていると、ちょうど良く姉と顔を見合わせた。
 トレニアである。
「姉上」
「ロータス! 無事で何よりだわ。お前が帰ってきたと聞いて、すぐにここに来たの」
「ご心配をおかけしました」
 挨拶もそこそこに、ロータスは脇を通り抜けようと試みる。だが、彼女は侍女数名を連れており、なかなか通り抜けられない。何よりこう言ったのだ。
「もうじき晩餐ね。母上達はいないけど、久々に家族が集まれて良かった。さあ、行きましょう」
 晩餐のことをすっかり忘れていた。

 銀のスプーンがスープ皿の底に当たる音が響いている。
 晩餐の席を照らすロウソクの火は、呼気でわずかに揺れるだけ、濃い赤紫のワインがどんどん減っていった。
 冷えた料理は次々並んでは片付けられていく。
 ロータスはそれを見ながら、遠く離れた席に座る父の顔をのぞいた。
 厳しい父親であり国王。
 幼い頃からその印象は長いこと変わらなかった。戦闘は長く続き、それがなくても緊張の続くアイリス王国では仕方のないこと。
 だが今感じるのは厳しさとは違っている。
 言うなれば、横暴。
 息詰まるような沈黙をついに破ったのはアゲートだった。
「ピオニー。もうすぐ嫁入りとなるな」
 その一言に皆の視線が彼女に集まる。
「そうですわね」
「これで竜人族との間にも、長く和平が続くだろう。良い決断だった」
「誉めておられるの? でもアジュガ兄上がようやく正妻をめとられたのだもの、お祝い事は続く方が良いと思いましたの」
「確かに、そうだな」
 話題がアジュガに向き、無口に肉を食べていたアジュガが皆の顔を見渡した。
「そ、そうですね」
「今まで結婚から逃げ回っていた兄上に勇気づけられましたわ」
「そうか? にしても、お前が婿を取るとなれば多くの男が泣くことになりそうだ。困ったな、王都じゃ忙しくなりそうだ」
「その通りだ。竜人族も集まっておる。民の反対運動も多くなるだろう。アジュガ、これからは王都の守りに専念せよ」
 ジェンティアナがそう言い、アジュガは口をへの字にすると恭しく頭を下げる。
「父上のおっしゃる通りに」
「兄上が守って下さるなら心強いわ。私の新居周辺もその範囲に入れて下さる?」
 ピオニーはからかうように言う。
 ロータスは彼女の一言に反応した。
「新居?」
「そうよ。王宮とは別に建てるの」
「また、なぜです? スティール殿がこちらに入られるのでは……」
 スティールの言動には問題がある、とシリウスが言っていた。それに、あの時のシトリンの弱った体、無数のアザ。
 ピオニーがわざわざ宮殿から離れれば、スティールを見張るのに難しくなるのではないか。
「彼は危険だ。姉上、御身大事と考えるなら、こちらにおられた方が良いのでは……」
「竜人族をここに入れると言うのか?」
 ジェンティアナの目がぎらりと光る。ロータスはアジュガが言ったことが、今になってようやく分かった気がした。
 逆らえば命がない。
 確かにそう感じるような。
「私はただ……」
「気にしないで、ロータス。ここから少し離れる程度よ。スティール殿だとて、そのくらいわきまえているはずでしょう」
「姉上は彼をご存じない。シリウスは気をつけるよう言っておりました。それに、仲間に対しても彼は……」
「いい加減にしろ、もう決まった話だ。ピオニーの決断をないがしろにするのか?」
 ジェンティアナが再びロータスに鋭い眼光をくれる。
 ロータスは流石に言葉を飲み込んだ。
 見かねたトレニアが声をかける。
「……父上。ロータスはピオニーが心配なだけでしょう」
「姉二人に庇われて満足か? それだから軟弱な男になったのだ」
 ロータスは再びジェンティアナを見る。
 こちらを見向きもしない。
 以前なら叱る時もきちんと目を見て、言うべきを言う人だったと記憶している。
 このように嫌悪感をむき出しにするようなことはなかった。
 じっと皺の刻まれたその顔を見ていると、ふいに目が合う。ジェンティアナは思い出したように口を開いた。
「……お前も妻を得れば、多少はしっかりするかもしれん」
 来た、とロータスは思った。
「ウィローの貴族から見合い話が来ている。会うと良い」

***

 鉄の格子窓の向こうはきつい風が吹いていた。
 王宮の西方に連れてこられ、どこに入れられるのかと思えば断崖絶壁に建つ、灰色の監獄であった。
 人質の扱いに関して、四方将軍の前で誓ったはずだが、さっそく裏切られた形だ。
 それでも最上階の独房は意外に部屋は広く、絨毯にベッド、ソファ、テーブルも燭台もありそれほど悪い環境ではない。
 シリウスは自分を裏切ったのは誰か、分かっていた。
 スティールである。
 シリウスを連れる軍を見送る彼とピオニーが一瞬、互いの顔を見合わせ、その口元に笑みを浮かべたのだ。
 だがこの事実を誰がどこまで知っているかは不明だ。
 シリウスを乗せたはずの馬車はそのまま王宮の方へ行ったのだから。
 ふう、と息を吐き、ベッドに横になる。
 こんな時に思い出すのは、帝都へ行ったジャスパー、ベリルの顔だった。
 彼らはどうしているのだろうか。無事だと長老は伝えてきたが、それからはまた連絡が途絶えている。
 竜人族と王国、関係が改善されれば良いが、そのきっかけになりそうなものはどれだけあるだろうか。
 ベリルは動けるのだろうか?
 更に気になるのはスティールとあの王女が結託しているよう、ということ。
 一体、何が狙いだというのか。
 夜は更けており、月も低い。
 だが頭が冴えて眠れそうになかった。
 せめて熱が集まる目を閉じる――カツン、と鉄格子に何かが当たる。
 体を起こし、格子の向こうを見る。
 フェンネルだ。こちらを見上げて手を振り、パチンコを構えると何か飛ばしてきた。
 それを掴み、フェンネルを見る。
 彼は再び手を振って、その場を立ち去った。
 手に渡されたのは、紙に包まれた石。
 めくると、しわしわの紙に文字が書かれている。
 流麗な文字は大きさも揃い、読みやすい。
 フェンネルの字ではない。彼はもっと丸い字を書く。
【離宮に入れられたと聞いたが、そうではないとフェンネルが知らせてくれた。折を見てそこから出そうと考えている。今しばらく耐えてくれ ロータス】
 律儀な内容に思わず口の端が持ち上がる。
 だが危険だろう。シリウスはそれを止めるよう伝えなければ、と思ったが、肝心のフェンネルは立ち去ってしまったのだ。
「……」
 参った、と思った。

***

 ロータスはフェンネルが戻るのを待ち、窓をこっそり開けていた。
 深夜になり、髪に葉っぱをつけたフェンネルが顔を出す。
「返事は?」
「へ?」
 ずいぶん間の抜けた声だ。
「シリウスからの返事だ」
「えっと……王子の手紙を届けて帰ったんだよね」
「な……」
 ロータスは大声が出そうになるのをこらえ、ぐっと飲み込むと彼に向き直る。
「いいか? 彼に手紙を渡したら、返事をもらってくれ」
「あ、そうか」
「そうだ。こっそりな。外部と繋がっていると知れたら大変だからな。フェンネル、君だけが頼りなんだ。しっかりしてくれ」
「はい!」
「しっ!」
 ロータスはフェンネルに静かにするよう促し、その口を押さえた。
 幸い、誰も駆けつけてこない。
 手を離し、息を整えた。
「……今日はもう遅い。寝ようか」
「うん。王子、じゃあまた明日」
「明日? 帰るつもりだったのか?」
「そりゃあ。スティールのアニキは俺たちを鍛えるつもりだし、帰らないと」
 フェンネルは軽々と窓を飛び越える。
 ロータスはその背中に声をかけた。
「フェンネル、その……」
 フェンネルが振り返る。その屈託のない表情。
「すまなかった。前……毒だと嘘をついて、君を脅した」
 フェンネルは最初、何のことかという顔をしたが、すぐに思い出したのか口を尖らせた。
「んー……。よし分かった」
 フェンネルはロータスのもとに戻ると、額の前で中指と親指で丸をつくり、思い切り弾いた。
「痛っ」
「はい、痛み分け。これでおしまい!」
 そう言うと、フェンネルは手をふってその場を去って行く。
 参った、と思った。

***

 一方、ジェット将軍が帰還し、ことの顛末を報告したとクレマチスは聞いた。
 ロータスは王宮へ無事戻り、家族と再会。
 竜人族の長とピオニー王女が結ばれ、こじれた関係に終止符をうつとのことである。
 族長、と聞いて驚いたものだが、どうやらベリルの夫ではない人物のようだ。
 アイリス王国へ帰還するか否か、その話し合いで持ちきりだった。
「シリウスも族長も王都へということなら、山へ帰る者達をまとめる必要がある」
 ジャスパーはそう言った。
 彼は冷静で、さすが帝都への使者として使わされるだけのことはある、とオウルは誉める。が、
「族長のスティールとは何者?」
 ベリルがそう聞くと表情を変えた。
「一言で言うなら戦闘狂い。あいつが和議の提案をあっさり飲むとは思わなかった。ところで和議の条件はシリウスなら蹴るような内容だったが」
「罪を着せるようなことを言ったと」
 クレマチスがそう呟くように言うと、ジャスパーが頷く。
「お嬢さんには信じられんだろうが、シリウスは卑怯な手を嫌う。王子をさらったのも、竜人族にはどうしても平穏を勝ち取る必要に迫られてたからだ。女子供が多くてな」
 その話はジャスパーは繰り返し話していた。シリウスがそういう男だというのは聞いたが、ジャスパーもまたそういう男だと、クレマチスは思っている。
「ではジャスパー、あなたは王国……仲間のもとへ戻るつもりなのね」
 ベリルの言葉にジャスパーは頷く。
「ああ。あんた方にはもう護衛は必要ないだろ? 帝国軍が守ってくれるさ。俺は明日にでも出る」
「明日?」
 ベリルが眉を寄せる。
「私も戻るつもりだけど、そんなに早く?」
「俺に合わせなくても、準備が整ったら来れば良いだけだろう」
「そうじゃないわ。あなた、一人で王国へ入って無事だと? 竜人族を王都へ集まらせたというけど、それって監視下に置くということなのよ。それに、帝国軍と一緒には帰れない。彼らが動けば、王国にも竜人族にも余計なプレッシャーを与えることになる」
 ベリルが説明すると、ジャスパーは「そうだった」と大きくため息をついた。
「全く……面倒くせぇな」
「仕方ないわ。シリウス殿が王国側の人質になったのも和平のための足がかりなんでしょう。それを無駄には出来ないわ。慎重に慎重を重ねるくらいが良いはず」
 クレマチスは「なるほど」とようやく理解した。そこで思いだし、手を打つ。
「ラピス副長官にお話を。何かお知恵を下さるかもしれないわ」
 皆の目が向く。
「さっそく話して来る」
「それは良いな。私も同行しようかね」
 オウルも腰をあげた。
 ルビーも一緒に、ということになり、ジャスパーとベリルを置いて庭園のいつもの東屋へ。
 合い言葉の後、ラピスが――現れたのは彼ではなく、黒髪の大男だった。
「副長官なら留守です。私が言付けを頼まれましょう」
 サンと名乗る男は見た目に合わず礼儀正しい。クレマチスはベリルの話をかいつまんで説明した。
「今なら混乱に乗じて王国にこっそり入ることは可能でしょう」
「おや」
 オウルが目を丸くして言った。
「そんな手段で入るのかえ」
「それが良いかと思います。クレマチス嬢が婚約者を置いて出たことは秘密にされているし、ベリー家の者とばれれば利用されかねない」
「お主、はっきり申すがそんな決定権を持っているのかね」
「副長官のお考えです。ジェット将軍が帰還され、王国の様子を話していた。王子殿下が帰還されたのなら、皆様も何らか動くはずだと」
「確かに読まれて当然よね」
 ルビーが納得した顔でそう言う。
「でも、どうやって入るの? ばれない?」
「長官が部下とともに向こうにいるはずですから、そこに連絡を入れれば何らか返事が来るはず。それをお待ちになれば」

次の話へ→Tale of Empire ー復活のダイヤモンドー 第15話 監獄

 

 

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