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Tale of Empire ー復活のダイヤモンドー 小説

Tale of Empire ー復活のダイヤモンドー 第13話 新たな条件

 ロックランドにも春の気配がそこかしこに漂っていた。
 きんと冷えた空気は春の風に流され、その匂いを変えている。
 ロータスは馬首を巡らせ、王国軍が建てたテント群を見下ろす。
 和議のための場だ。以前の交戦の時ほどものものしい気配はないが、万が一があってはならない。警護のための緊張感に満ちているといったところか。
 帰る場所――であるはず。
 だが今はなぜか異国のものに見えた。
(私はやはり、変わってしまったのだろうか)
 纏う衣服、髪を束ねるバンダナ、携える弓矢に剣は竜人族に渡されたもの。
 もちろん、王国軍にいた時に使っていたものもシリウスから返却された。
 それがひどく軽い。
 陣営にアジュガの姿を見つけた。
 彼がシリウスと直接対話し、ロータスを引き渡したのだ。今回の和議の話し合いに同席するのは当然と言える――その彼が向かったのは。一際大きく、また花飾りのついた、明らかに浮いたテント。
 幕が開かれ、そこから一瞬見えた人影にロータスは息を呑んだ。
「姉上……?」

***

 ロックランドの砦のその前、互いの軍がにらみ合う格好でそれは始まった。
 アジュガは王国軍の後方で鎧兜を脱ぎ、王子らしく白地に金の刺繍が施された長いコートを羽織っていた。
 ロックランドの風景に似つかわしくない椅子に座ってそれを見おろしている。
 それから帝国の四方将軍、ジェット・グリーンも同席していた。双方の仲立ちだとオウルは知らせていた。
 シリウスと対峙して座るスカイという男は無表情で、髭の蓄えられた口元のせいで発言の意図が読めない。
 シリウスは彼から目をそらさず、淡々と進む報告を聞いていた。
 ――ダイヤモンド山の返還は、王国としても進んで解決したい問題である――
 なんとも遠回しな言い方だが、つまり今は出来ない、もしくは条件付きと言えそうな話だ。
「戦を仕掛けたのは俺たちじゃない。少なくとも、プラチナがそのように指示したこともなかった」
「その証拠になるものは?」
「ここに表せると思うか? あんた方と違って、議事録のようなものはない。だが皆の前でプラチナは、防衛のため以外に武器を振るうなと告げていた。これは俺たちにとっては公式の発言だ。必ず守る」
「あなた方にとってはそうかもしれないが、それは内々でいくらでも作り替えられる話でもある。それだけでは無実の証明にはならない」
「確かに外側の者からすればそうだろう。では、戦が始まるきっかけとなった事件の話をしよう。俺たちが使者を殺したと言うが、それの調査は進んでいるのか?」
「王国にとっては喫緊の要事だ。最優先に調査は進められている」
「つまり何も見つかっていないということかな」
 シリウスが皮肉を込めて言うと、スカイはちらっと目を合わせてきた。
 射貫くような目。
「使用された剣は竜人族の使っている物だった」
「だが俺たちが使ったという証拠はない。違うか? そもそも、武器の類いは体から離さぬ。なのになぜテントから発見されたというんだ」
「では王国軍の誰かがそれを偽装したと言いたいのか? だがそれをする理由も証拠もない。不毛な争いをさせて一体、誰が得をするというんだ」
「だから調査しろと言ったんだ」
 シリウスは吐き捨てるように言い、息を吐き出して首をふる。
 ここで言い争っても仕方ないのだ。
「……事件の話は真実が明らかになっていない。これ以上話しても仕方ない」
「その通りだ」
 スカイも同意見なようで、テーブルに出されていた茶を一口飲むとそれをとん、と置いた。
 空は青く澄んでいる。
「ダイヤモンド山の返還は解決したいと言ったか」
「ああ。国王殿下もそれに関しては乗り気だ」
「乗り気なら実行に移せば良い。そう出来ぬ理由があるというのか?」
「一つにはあなた方を信用していない」
「ダイヤモンド山は王国の端っこだろう。別に返還したところで、要所でもあるまいに」
「要所かどうかの問題じゃない。簡単に手放せば王国の威信に傷がつく。それにダイヤモンドを求める者も多い」
「商売のためか」
「アイリス王国が生き残るために必要なことだ。商売を見下すのはいただけない」
「そのつもりはない」
 このままでは平行線になりかねない。シリウスは奥歯を一度だけ噛みしめると「和議」と頭の中で繰り返した。
「ロータス王子殿下はご無事でいらっしゃるか」
 スカイがそう切り出し、シリウスは頷く。
「ああ」
 シリウスはシトリンを呼ぶとロータスを連れてくるよう言った。
 数分後、以前より肩幅の広くなった彼が現れ、スカイの目元が和らいだと思うとすぐさま見えなくなった。彼がその場に跪いたからだ。
「ご無事で何よりです」
「……面をあげよ」
 ロータスの声は低かった。
「はい」
「私ならこの通り、無事だ。和議のためここまで出向いた事、大儀である」
「もったいないお言葉でございます」
「父上からの信頼があってのことだろう」
 ロータスはちらりとシリウスを見た。
 スカイの後ろには国王がいる、と暗に釘を刺してきたのだ。
 シリウスはそうと気づき、気を引き締める。
「ロータス王子殿下が捕らえられたいきさつは、アジュガ王子殿下より伺っております。国王殿下も納得の上、ロータス王子殿下をお褒めになっておられました。王宮にて、首を長くしてお待ちになっておられます」
「そうか」
 ロータスの態度はひどく淡々としている。彼の目線をこっそり追えば、そこにいたのは後方のアジュガ――それと、もう一点。
 シリウスはそれが何かわからない。
「シリウス殿が言うとおり、この戦の発端となった事件の解決、それからダイヤモンド山の返還はまだ出来ぬようだが。条件はなんだ?」
 ロータスはストレートにそれを聞いた。
「……竜人族を信用するために必要なことがあるのです」
「ほう」
「……王子殿下の帰還、ダイヤモンド山の返還、そして事件について、それを罪に問わぬための」
「それは何だ?」
 ロータスが迫ると、スカイは気圧されたように眉を寄せた。
「王女殿下とのご成婚です」

 音が一切、止んだように静かになった。
 聞き間違いでなければ、彼はベリルと同じことを言ったのだ。
「何だと?」
 シリウスは思わず聞き返したが、ロータスは息を吸い込むと納得したように「ああ……」と唸るように声を出した。
「ロータス?」
「それで、ここにいらっしゃったわけか。兄上が武装していないのも……」
「なぜ、そうなる? 俺たちのことを人殺しと決めつけ、戦まで仕掛けたというのに。夫婦になれば信用するなど、そんな単純な話……」
 シリウスが首を捻って言えば、スカイはロータスをちらりと見やって言う。
「ピオニ―王女殿下にしてみれば、何より王家の方がこのような目に遭う、ということが耐えられぬのです。それならばいっそ御身自ら和平の要となり、なすべきを成そうと……」
「スカイよ、それではまるで姉上が自ら申し出た話のようではないか」
「その通りです」
「何?」
 ロータスがきつく眉を寄せた。
「姉上が?」
「ピオニ―王女殿下は、アイリス王国に漂う不穏な空気、止まらぬ戦のため狩り出される民を思い憂えておられるのです。そしてロータス殿下が人質に……弟を和平の犠牲とするくらいなら、と名乗り出たのです」
「シリウス殿以下竜人族の提示した人質解放の条件は厳しくない。なぜそこまでせねばならぬ?」
「信用がならぬからです。竜人族は使者を殺害、戦をしかけ、挙げ句の果てには王子殿下を人質に取るなどやりたい放題。だが、流石に婚姻関係となれば裏切ることもない……そう考えて」
「そして彼らを王国に留めると? 彼らが帰るべきはダイヤモンド山であって、王都ではない。彼らを引き込んだところで民との衝突は火を見るより明らかだ。得策とは言えない」
 ロータスがそうなめらかに話せば、スカイは口を閉ざした。
 ロータスは彼から目を離すと腕を組む。
「……そなたに言ってもせんないことであった。許せ」
「いいえ。王子殿下が謝られることはございません」
「……竜人族が出した条件が成らぬというなら、私が彼らと共にいよう。姉上が御身を犠牲にすることはない。そうお伝えし、再び和議の場を整えてはどうか」
 ロータスがそう提案し、スカイは側に控えていた騎士見習いを走らせた。
 シリウスはロータスを見ていたが、王国軍に目を戻す。
 報告を受けたアジュガがこちらを見た。
 ロータスと目が合い、彼は気安げに手を持ち上げる。
 ロータスは組んでいた腕をぎこちなく解くと、それに応え、続ける。
「信用と言うが、彼らには彼らの生き方があるだけ。王国と相容れぬ部分はあっても、人同士であることに変わりはない。時間がかかっても良いことのはずだ、対話を重ね、信用を育てていけばいい。違うか?」
「王子殿下はお優しくていらっしゃる。だが、それでも被害者はいるのです。武器を持たぬ、無辜の民が。それを無視して進むことは出来ぬのです」
「それとこれとは話が別だ。俺たちは火をつけたわけじゃない。第一、戦の場になぜ民が残っていたんだ? 被害者に罪はないが、疑問の余地が多すぎる」
 シリウスがそう言えば、スカイはわずかに眉を寄せてすぐに無表情を浮かべた。
 だがその目の奥は、危ういほどの熱を孕んでいた。
「王国軍に不備があったと?」
「揚げ足取りをしたいわけじゃない。調査をしてくれ、と言っているんだ」
 その時、騎士見習いが戻ってきてスカイに耳打ちをする。彼は立ち上がるとそっと下がり、頭を垂れた。
「アジュガ王子殿下、ピオニ―王女殿下のおなり」
 一気に緊張感が満ちた。
 アジュガもやはり目を引く存在感の持ち主だ。武骨な鎧兜も似合うが、王子然としたなめらかな衣装も、たくましい肉体によく似合っている。
 そしてそれに手を引かれ、現れたのは若い女だ。金髪はくるくると細かく巻いているため、太陽光を受けそれこそが金そのもののように輝く。
 扇越しに見える肌は透きとおるような白さで、頬は赤みがさして異様な色気がある。
 絹のドレスすらかすんで見えた。
「ああ、元気そうで安心したわ。私の可愛い弟」
 ねっとりと鼓膜に絡みつきそうな甘ったるい声だった。

 扇がパタンと閉じると、長いまつげに縁取られた大きな垂れ目にかち合う。
 緑とも茶色ともつかぬ、複雑な色をした目だ。奥の瞳は小さく、しかしシリウスを認めると隠すようにまぶたが下りた。
「お初にお目にかかります。私はアイリス王国第2王女、ピオニ―・レイン」
 確か王国絶世の美女、と謳われているはずだ。噂に違わぬ容姿、とシリウスは認めざるを得なかった。
 彼女は甘える猫のように微笑む。
 先ほどのスカイの話なら、怪物に身を捧げる巫女をイメージしたが、悲壮感とは無縁のような気配があった。
 絶世の美女ではあっても気配がおかしい。
「ああ。お初にお目にかかる。私はシリウス」
「シリウス。久しいなあ、以前はしてやられた。ロータス、お前も元気そうだ。どうしていた?」
 アジュガは変わらぬ笑みを浮かべてロータスの肩を叩いた。
「ちょっとごつくなったか?」
「……兄上」
「いやあ、一時はどうなることかと思ったもんだが、良かったよ。これでも心配したんだぜ」
「ご心配をおかけしました。姉上も、ここまで来られるのは難儀だったのでは?」
「意外と遠出も悪くなかったわ。でも、ロータス。あなたその格好だと勘違いしそう。服を着替えてきたら?」
 ピオニ―はそう指摘した。
 ロータスは今、竜人族の織った色とりどりの生地で作った衣服を着ている。銀髪も相俟って、まるでシリウスの弟のようである。
 これでは彼がどちらの人間か、分からない。
「それは和議が成ってからにしましょう。私が彼らの人質であることは、今は変わりない」
「あら、おかたいこと。あなたは昔からそうね」
「私なら無事です。姉上が身代わりになることはございませんよ」
「気を遣ってくれてるの? 優しいのね。でも、その優しさがあなた自身を苦しめたんじゃなくて?」
「……」
「もう良いのよ、ロータス。あなたはよく頑張ったわ」
 ピオニ―はそう言って扇を広げる。身を乗り出し、ロータスの耳元で何かささやいた。
 ロータスは一瞬苦虫をかみつぶしたような顔を浮かべたが、すぐに取り繕い、彼女が離れると静かに見つめていた。
「……父上はなんと?」
「それで良い、と。竜人族との間の戦闘、それそのものを長引かせて、民を疲弊させてもいけない。帝国からも何とかせよと言われているし、各王国との付き合いも考えれば、多少は目をつぶる用意があるそうよ」
「民が納得しますか? それこそ、被害者は出ているとスカイも申しておりました」
「確かにそうよ。でも、どこかで手を打たねばならない。それに調査したいのなら、互いに玄関を閉めてしまっては進むものも進まないわ」
 ピオニーはそれらしいことを言ったが、シリウスは鵜呑みに出来なかった。
 何かおかしい。
 これではまるで、被害者となったアイリス王国の農民達を言い訳の材料にしていないか?
「それに、罪に問わない、というのも条件の一つよ。彼らの家族だって納得せざるを得ないはずよ。他の息子達を長引く戦闘の犠牲にしなくて済むのだから」
「それを言われれば、彼らはひきさがざるをえないだろう。だが被害者や家族が求めていることはそんなことではないはず。もし俺たちに完全な非があったなら、罪の裁きを受ける。そうでないなら無実の罪をかぶり、また許されるなどという意味不明な状況を受け入れることは出来ない」
「誇り高いこと」
 ピオニーはからかうように言う。その赤い唇はつやめいて、青空に似合わない。
「悪いがこの話はなかったことにしてくれ」
 シリウスはそう言って、ロータスの腕をひいた。しかしロータスは彼らを見つめ、その場から動こうとしない。
 やはり帰郷の念が強いのか、シリウスはそう思った。
「ならば人質のことはどうなの? 和平のためとはいえ、不本意の者を連れ去り、戦闘を回避するための犠牲にしたわね」
「ああ。だが、戦闘に加わった時点で何らかの覚悟はしているはず。ロータス王子がどう考えているかは知らんが、それで救われた者がいるのも事実だ」
「無意味ではなかった、と言いたいわけね? だけどあなた、誇り高いわりに私達の弟を犠牲にした事実は消えないわよ」
「言い訳はしない。だが利用させてもらう」
「構わない、シリウス殿。あれは私が言いだしたことだ」
「ロータス、お前こいつを庇うのか?」
 アジュガの厳しい目線がロータスに注がれた。
「庇うのではありません。それが事実だと言いたいだけ。兄上、クレマチスはどうしていますか」
 ロータスの投げた言葉に、アジュガは息を呑んで頭をかいた。
「今する話か?」
「今気になったのです。このことについては、兄上が最もご存じのはず」
「……元気だ」
「ならば良かった。話がこじれてしまう前に、この場はお開きにしましょう。私が彼らとともにいるのはあくまでも戦闘を回避するため。誰も傷つかないためにした選択です。私を交渉の言い訳にはしないで下さい」
「バカ言え、お前が人質にならなければ、冬の間に竜人族を蹴散らせたぞ。そうすれば馬鹿馬鹿しい戦は終わっていた」
「それが本心ですか? 私が足をひっぱったと?」
 ロータスが詰め寄ると、アジュガはぐっと言葉につまり一歩退いた。
「……俺がお前も、彼女も、ウェストウィンドも守ってやるために出した決断だ。お前に責められるいわれはない。それに、父上のご命令だった」
「ウェストウィンドは王国の領土であり、広大な農地でもある。どうであれ守られる土地でした。父上のご命令なら誰も逆らってはいけないと? もし父上が間違っていたらどうするのです」
「お前、それ以上言えば命がないぞ」
「なぜですか? 父上は国王ではあれど絶対権力者ではない。そして私達は誰も奴隷ではない!」
 ロータスの口調が荒々しくなった。
 辺りは水を打ったように静まりかえり、書記係のペンを走らせる音が聞こえてくるほど。
 それから風がひゅうっと吹き、拍手の音が聞こえてくる。
 皆がそれを向いた。
「面白いな。兄弟げんかってのも、たまにはいいもんだよ」
 一際大きな岩の上に座り、終始見ているだけだったスティールである。
 彼はそこから飛び降りると、シリウス達と並び立つ。手には矛先を布で包んだ槍を持っているため、騎士始め衛兵が剣の柄を握った。
「そうカリカリしなさんな。ここで槍をふるうつもりはない」
「下がっていろ、スティール」
 スティールはしかしシリウスの体をどかせ、両者の中間に立つとシリウスを見据えた。
「まあ、聞けよ。シリウス。さっきのこいつらの話は悪くない。事件の真相を解明すると言ってるし、ダイヤモンド山は条件つきだが返還するって言ってるんだ。俺たちの悲願だったろう? あの山に帰ることは」
「たとえそうでも、無実の罪を背負えと言うのか? 汚名は一生どころか、永久についてまわることになる。お前、王国軍と戦うつもりでいたはずだろう」
 スティールを見るが、彼はゆったりと構え張り詰めたものがない。
「すぐに晴らせるさ」
「まさか。一度でも呑めば延々繰り返されるものだ。ありもしない罪を子供らの代に背負わせられるか?」
「そうそう、子供らには可哀想なことだよな。古里を追われ、借金のように土地を借りたままで生きていくのは。今は良いが、新しく産まれる者がいたとき、そいつらの故郷はどこになる? 俺たちが一瞬我慢すれば、そいつらは全うな故郷で誰に遠慮することなく生きていけるんだぜ。それにこの王女さまは言ってるじゃねえか。調査するって」
「始めに罪を着せることを言っておいてか?」
 ロータスの手がシリウスの胸を叩いた。
 王女の名誉を傷つければより事情は困難になる。シリウスは額を押さえると首をふった。
「とにかく、俺は反対だ」
「俺は賛成だよ」
 スティールはそう言い切り、ロータスを見た。
「やっぱ面白い王子様だな。俺はね、何でもかんでもやりゃあ良いもんじゃないって分かってるんだ。目的のためなら多少の妥協はしないとなって。あんたもそれは分かるだろ? 俺が何も考えず行動してるわけじゃないって」
 スティールの指先がロータスの鎖骨あたりをつついた。
「和平のためだ。俺だって妥協するさ」
 スティールはくるんと背を向け、王国軍と向き合った。
「紹介が遅れたが、俺は竜人族族長のスティールだ」
 アジュガの目が光る。
 ピオニーは扇で口元を隠し、彼を見た。
「族長?」
「ああ。ダイヤモンドの槍を持つ、正統な後継者だ。話を聞いた上で俺が決めるよ。あんた方の条件を呑む。その代わり、ダイヤモンド山を即刻返還してくれ。それから――」
「事件の真相を追え、ということね」
 ピオニ―が言うと、スティールは何度も頷いてみせる。
「王都へ行くのは俺たちの半分。残りは山に返す。それで良いな?」
「構わないわ」
 話はどんどん進んでいく。
 ロータスの視線を感じて振り向けば、彼は眉を曇らせ唇を気づかれない程度に開いて何か話す。
 ――これで良いのか?
 目の良いシリウスにのみ伝わるように言ったそれを理解し、しかしシリウスは目をそらす。
(族長の判断だ)
「では、まずロータスを解放するのね。さあ、いらっしゃい」
 ピオニ―は手招きし、ロータスを呼ぶ。
 ロータスは厳しい表情をしたが、彼女に従って向こうへ歩いて行ってしまった。
「すぐに着替えを用意させるわね。それからシリウス殿」
 ピオニ―の視線がシリウスを向いた。
「王子を人質にしたこと、それから私への発言は許せるものではないわ。それに竜人族が信用するに足る者達か見定めたいの。あなたは求心力がおありのようね、今度はあなたが王国の人質となるのよ。それで手打ちとしましょう」
「姉上? 何を……」
 シリウスは顔をあげ、彼女を見た。
「そんな話は出なかったはずです、姉上」
「不敬を許すわけにはいかないわ。それにシリウス殿は理解されているのではなくて?」
「……報いだと言いたいわけか」
 ピオニ―は顔色一つ変えない。
「私だって譲歩するのよ。あなたが何も払わないのはおかしい」
「なるほど」
 シリウスはつい笑ってしまった。
「わかった」
 と、話がまとまろうとしていた時、口を挟む者がいた。
 帝国四方将軍、ジェットその人だ。
「アッシュ帝国の名の下、不正は許されません。人質とはいえ不当な扱いはせぬように」
「わかってるわ、彼は帝国貴族の婿殿だものね」
「おっしゃる通りです。解放の条件もこの場で」
「兄上」
 ピオニ―がアジュガを振り返り、アジュガは頷いて口を開く。
「竜人族は向こう3年、ダイヤモンド山から採掘された鉱石、その一部を王国へ献上すること。また採掘現場では王国の使者を同席させること」
「一部とはどれほどです」
 ジェットは声を固くして言うが、ピオニ―は「さあ」と言ってしまう。
「スティール殿、一年に採れる量はどれほど?」
「知ったこっちゃねえな。毎年違うよ」
「ならば明確に示すことは出来ません。一部であるとだけ」
「……承知しました」
 ジェットは引き下がる。
「では、それ以外に話しておかなければならないことはないな」
 アジュガは解散を告げ、連れて行く竜人族の人数を数えながら兵士に指示を出す。
 流れていく人の足取り。
 シトリンは山へ帰され、フェンネルは王都へ。
 不安げな様子の彼らにシリウスは頷いてみせ、今一度ロータスを見た。
 ロータスもまた、離れていく彼らを見ていた。

次の話へ→Tale of Empire ー復活のダイヤモンドー 第14話 密談

 

 

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