Tale of Empire -白樺の女王と水の貴公子ー 小説

Tale of Empire -白樺の女王と水の貴公子ー 第19話 その一歩を

 オニキスの不信任案について議論されることになった。
 朝臣が集まって様々に意見が出される。
 オニキス自身は他人事のように感じ、窓の外に視線をやって過ごしている。
 副大臣のオパールはオニキスを庇う様子を見せ、「証拠もないのに座から引きずり落とせば、いつか後悔する」と譲らない。
 カイ・フィカスはまだ沈黙を保っていた。
 オニキスはそれが気になった。

 ようやく解放されると、オニキスはコーとともに庭園を歩いた。
 雨に色づくアジサイは美しく、青からピンクへ鮮やかに色を変えている。
 ぽつぽつと降る帝国の雨は穏やかだった。
「厳しいですな」
「名代の件か?」
「はい……」
「副大臣に上手く席を譲れれば良いが、根回しの前にやり込められた感じだな。流石に相手が相手だ。……とはいえ、父上も体調が戻りつつある」
「つまり?」
「父上が大臣に復帰し、副大臣を後継に推薦。皇帝陛下の許可を得られれば良い。俺はそれまで持ちこたえればいい」
「そんな簡単でしょうか……」
 コーはわかりやすく項垂れ、首を横にふる。
「まるで裁判のようではないですか? 若旦那さまの名誉に関わります」
「気にするな。この程度で落ちる名誉なら、はじめからなかったのだろう」
「それで良いのですか? 若旦那さま……自暴自棄に……」
 なっているのでは、とコーは口では続けたものの、オニキスを見上げると再び首をふった。
「そういうわけでもなさそうですね」
「ああ」
「元々政治活動にご興味がなかったのは知っておりますが、一度広がった不名誉は取り戻すのに時間がかかりますよ」
「他の活動に関しても、か。そうだな……だが、なぜか焦る気になれん」
 オニキスが雨の空を見ていると、樹上に集まるカラスの群れに目が行った。
 一羽、こちらを見ている。
「……あれはなんだ?」
「カラスでしょう」
「それは見れば分かる。こっちを見ている」
 カラスは気の弱そうな人間を見抜き、時にはいたずらを仕掛けてくることがある。
 オニキスはそのため、カラスの前では背筋を伸ばして向き合うようにしていた。農作物を荒らすなら弓を構えることもいとわない。
「……普通のカラスではないな」
 よく見れば目の辺りに傷がある。そのカラスはオニキスを鳴きもせずにじっと見つめ、翼を振ったかと思うと地面に着地した。
 ぴょんぴょんとジャンプし、オニキスを誘うように振り返る。
「変わったカラスだ」
 オニキスはそう言うと、そのカラスの後を追う。コーがいつも通り眉をハの字にし、何か言おうとしたがすぐに口を閉じる。
「今日はお小言はなしか?」
「若旦那さまの好奇心を止めても無駄でしょ。いいです、お供します」
 コーは不満顔を浮かべながらもオニキスについてきた。
 カラスは二人を振り返りながら、時に羽ばたき、時にジャンプし、を繰り返し大通りから脇道に向かう。
 華やいだ街並みから小高い山へ向かう道に向かっていることに気づき、オニキスは首を傾げた。
「ここから先は何もないはずだが」
「カラスのすることですよ。特に意味を求めても仕方ないのでは?」
「それもそうだな……」
 しかしカラスは振り返り、ついてきているのを確認すると羽ばたく。
 一本の枯れかけた木に止まり二人を見下ろした。
 オニキスはカラスの姿を追っていたが、その隣に引っ掛かっていたジャケットに眉を顰める。
 えんじ色のジャケットはところどころ破れ、汚れも目立つがその背中には見覚えのある黄色の粉。
「あの男の……」
「オークションの時のですか? こんな所に?」
 ジャケットが引っ掛かっている枝には、とても手は届きそうにない。木登りをするにも樹皮はなめらかで、手の届く位置に枝はなかった。
 オニキスはコーにベルトを取るよう言うと、バックルを重しに投げ打つ。
 ジャケットの袖部分にうまくはまり、そのまま下ろすことに成功した。
「やはり俺が用意した花粉だな」
「取り逃がした奴が首都に入り込んでいるということですか? 大変じゃないですか」
「ああ……」
 オニキスはもう一度木を見上げた。
 カラスの姿はない。
 だが音すらしなかった。
「どこかへ飛んでいった……いつの間に? カラスの姿を見たか?」
「いいえ」
 オニキスは眉間の皺を深めたが、その時ジャケットから一片の紙切れが落ちてきた。
 足下に落ちたそれをオニキスは拾い上げる。
 指にしっくり馴染むようなそれはかなり高級な紙のようだ。
 これを仕入れるにも確かなルートが必要だろう。
 紙には文字が書かれている。
「”……の用意”」
「なんですか?」
「紙に書かれている。用意が必要なのか。しかし、この紙……かなり良い品のようだな」
「どこかの貴族が使ってたりするもの……」
「かもしれん。あのカラス、これを俺に取らせたかったのか?」
「まさか……」
 オニキスは紙を確かめるように指を滑らせる。コーはカラスが去り、何もないように思える風景に少し気を抜いたようだ。

 一方、フロンドの邸に潜入中の私兵は、また紙切れを見つけた。
 これで5枚目だ。
 つなぎ合わせてもまだ文章にはならないが、同じ紙であることは間違いない。
 ”邪魔”
 ”協りょ”
 ”た……ば”
「これは何かな……」
 呟きつつポケットにしまう。
 明日には休日である。
 ホリーのヒソップ邸に戻り、連絡を取るつもりだ。
 オニキスに出された不信任案のせいで、グレイもオニキスも首都に留められている。
 幸い、自警団結成とその訓練は滞りなく続けられ、あれからならず者の姿は見ていない。
 だがヒソップ父子は自身の私兵・従者を二つに割いた状態だ。首都で何かあったら、あるいはここで何か起きたら、うまくやり過ごせるだろうか。
 思わずため息をつき、女装に慣れたままに掃除を続ける。
 足下に積まれていた本に気づいたのは、それに躓いてからだ。
(余計なことを考えるからだ……!)
 内心で自身に悪態をつき、音を立てぬよう必死にバランスを保つ――視界に入ってきたのは一枚の絵。
 幼いマーガレット嬢の、花に囲まれた……ザーッ、と本が流れるように倒れていく。
「何の音?」
 下働きの女がドアを開ける。
 私兵はとっさに机の下に隠れ、息を殺して待った。
「?」
 彼女は首を傾げてそのままドアを閉めた。
 翌日、無事に休日を得た彼は、一度ブドウ畑を迂回、尾行の有無を確認すると女装から男に戻りヒソップ邸に入った。
 家令が厳しい目を向けたが、彼は元々ああいう顔なのだ。挨拶をすると静かに頷く。
 私兵は目を輝かせ、挨拶を返すのもそこそこに切り出した。
「すごいものを見つけました」
「すごいもの?」
「はい。これです」
 私兵が取り出したのは一枚の手紙。
 それから紙切れ5片だ。
 ご丁寧に署名つき、それも指定した色のインクである。赤紫の色だ。
「手紙……ではあるが、契約書のようでもあるな」
「はい。オニキス様とマーガレット嬢の結婚を指示したものです」
「結婚を指示。フロンドだけの意思ではなかった、というわけか? この署名は……うーむ、これは神官の名前だ」
「そうなんですか? でも、これでオニキス様をおとしめた黒幕を見つけられましたね」
「それはそうだろうが、これではまだ足跡程度だ」
 家令の言葉に私兵はふっと息を吐く。
「確かに……でも、少なくともフロンドに協力する者がいたって証明にはなりましたね?」
「ああ。これが突破口になるのは確かだろう。赤紫のインクはアッシュ帝国共通で神官が使うものだ。インクのみで判断は出来ない」
「名前は……」
「バニラ、と書かれているな。バニラの名は神官の間では一般的だ。人物の特定は出来ない」
 私兵はついに項垂れた。いよいよ事件の真相に近づけると思ったのに。
「いや、待て。この紙……これは羊皮紙ではないな。それに手触りが良い」
 家令は手紙と、それから紙切れを手にしてそう話す。
「紙ですか?」
「ああ。これだけの紙を使うのだ、そんじょそこらの神官では手が届かぬだろう」
「では……」
「ホリーの者かどうか……一度、調べてはみるか……」
「さっそく調べて参ります」
「しかしよく見つけたな」
「はい。マーガレット嬢の絵が飾られていて、それを調べたところ出てきました」
「そうか。では、さっそく首都に使いを出すか……」

 オニキスは久しぶりに母校を訪れた。
 不信任案の話が出ているためか、生徒達はオニキスの姿を見ると避けるようにしながら、盗み見している。
 それに構わず入っていったのは、製紙を教える元同級生の教師のもとだった。
 同い年の彼はオニキスを見ると一度だけ頷いてみせる。
「用とは?」
「この紙について知りたい」
「紙?」
「高級品だろう。産地と、どこで入手出来るか、色々な」
 元々同じクラスだったためオニキスは遠慮がない。教師は紙を手にすると、指触りを確かめたり、太陽光に透かしてみたりしている。
「丈夫だね。高級品ではあるけど、貴重品ではないかな」
「よくある紙なのか?」
「一部の人からは人気の紙だよ。絵描きとか。でも、まあ、これ色が抜かれてないから多分下書き用とか、重要ではないけどちゃんと明記したい書類とかに使うかな」
「色が抜かれていない……か」
 教師は紙の見本帳を取り出し、すぐに同じものを見つけた。紙の匂いを確かめ、頷いてからオニキスに見せる。
 真っ白なその見本の紙は、確かに色が違う。
 だが指触りは同じようだ。見本のものの方が若干なめらかに思えるが。
「これで間違いないのか?」
「間違いない。他のはけっこうのり付けが難しくて、紙の表面がでこぼこするんだよ。これはかなり質の良い草を使ってるから、他のとは差別化出来るんだ」
「なるほどな……産地は……」
 オニキスは見本帳を目で辿り、眉を寄せた。
 つい先日見た名である。
 ルウの花と同じ産地とは。
「またグロウか」
「また?」
「花を探していたのだが、それの自生していた土地もグロウの山だったらしい」
「グロウは珍しい植物の宝庫だから。戦争で人が少なくなって、製紙工場が出来てから職人は入ってきたけど、街にはなってないしね。他の植物の栽培のため移住した人も多いらしいし」
「さすがよく知ってるな」
「一応教師だから」
「グロウは一度焦土と化したんじゃなかったか?」
「そうなんだけど、人が入ってきてさ。土を掘り返したり新しい土を入れたり、色々やって復活させたらしいね。虫とかも入れたみたいだ」
「偉人がいたのだな」
「そういうこと。で、疑問は解けたの?」
「なんとか。助かったよ、ありがとう」
「良いよ。ところでピンチっぽいみたいだけど、大丈夫?」
「なんとかなるだろう」
「君って昔からそんな感じだよな……余裕なのかピンチを楽しんでるのか……正直その自信家なところ、羨ましいよ」
 教師の言葉にオニキスは眉を持ち上げて振り向いた。
 自信家とは意外な評価だった。
「そういうのではない」
「じゃあ、何? 正直、俺なんかは後ろ盾がないと不安になったりするんだけどな」
「実家は不安定だよ。知ってるだろ? ラピス殿のように家そのものごと消されることもある」
「じゃあ尚更だろ」
「少なくとも自信じゃないな……俺としては宮中の奴らは、他人ばかり気にするただの暇人に見える。俺は目の前のやるべきことをやるだけだ」
「ああ、なるほど。視点が違うってわけか……道理で君って”浮いてる”わけだ」
「浮いてる?」
「浮いてるだろ。誰とも群れない」
「信頼関係なら良いが、群れて何か良いことがあるか?」
「少なくとも孤立はしない」
「孤立を嫌ったままで自分自身になれるか?」
「……もう良いよ。君に口で勝てない」
「勝ち負けの話じゃないだろ。とにかく、今日は時間と知識を頂いたことに感謝するよ」
「はいはい」
 オニキスは学院を出て、邸に戻る。
 丁度ホリーからの連絡係が待っていた。
「若旦那さまの無実を証明出来そうなものを見つけましたよ」
 若い私兵は嬉しそうにそう言った。
 取り出されたのはつい先ほど説明を受けたものと同じ紙質のようだ。
 手紙のようだった。
「マーガレット嬢との結婚を指示する内容です」
 オニキスはそれを取ると鼻に近づける。
 ルウの花の香りはなかった。
「それから破れた紙……これらです」
 5片の紙切れが机に並べられた。オニキスはカラスを追って見つけたものと同じと知ると、文字の書かれたそれも同じように嗅いで確かめる。
 1片から微かに甘い香りがした。
「これと一緒にあの花びらが送られてきた可能性があるな」
「神官の名が署名されているのですが、ホリーの神殿を調べたところ、それらしいものは出てきていません」
「おそらくグロウだ」
 オニキスがその名前を出すと、私兵は「えっ」と口を開いてオニキスを見た。
「何か掴んでるのですか?」
「この紙がどこで作られたか聞いてきた。グロウは一度焦土と化したが、今は復活して植物栽培を盛んに行っているらしい。そこに何か、この事件の裏が潜んでいる気がする」
「グロウですか。ここからだと飛ばして3日はかかりますよ。調査と往復と、となると……」
「2週間ほどは欲しいところだな」
「まさか、自ら赴くおつもりですか?」
「そうしたいが無理だ。人をやりたいところだが、お前達も手一杯だろう。第一、今ヒソップ家の者を送れば余計に疑いを深めるかもしれん」
 ルウの花に関わっていた、あるいは証拠隠滅のために動いた、などと。
 オニキスは顎を押さえて思案した。
 グレイはあまり人を使うことを好まない。
 そのため私兵も最低限の人数しかおらず、ホリーの防備と人材育成のために割いている今、無理に動かせば穴が空く。
 それに旅となれば危険はつきものだ。数人で行かせなければ、夜盗に遭う可能性があった。
「参ったな。ところでフロンド達の様子は?」
「今は大人しくしていますよ。ただ、村全体の雰囲気は悪いです。若旦那さまを支持する者もいるし、やはり姦淫の罪があったと考える者もいます。とにかく若い娘がその訴えを起こし始めてて……」
「若い娘?」
「はい。顔は良い娘さんですが、若旦那さまに厩に連れ込まれたとか何とか。夕方に顔色悪く帰って来た、とその両親も彼女の話を信じ込んでいるようです」
 オニキスははたと思い当たる人物を思い出し、急に頭痛でも来たような感覚に襲われた。
 村で足に縋りついてきた彼女を思い出すと、眉間に痛いほど皺が出来る。
 自分でもかなりきつい顔をしていると思えた。
 猫であれば全身の毛が逆立っているのだろう、オニキスは皮膚表面が尖るような不快感につい強く息を吐き出した。
「その娘は知っている。逆恨みだな」
「若旦那さま……完全に笑えない女難ですね」
「遊んだつもりはないが……」
「相手が勘違いするのでしょうか? 顔が良いのも苦労しますね」
「そうだというならお前も気をつけろよ」
 女装が板につくというのも考え物だ。

 翌朝登城すれば、副大臣のオパールと鉢合わせた。
 彼女は皺の深い目元に、聡明な眼光を持っている。
 その目が貫かんばかりにオニキスを見ていた。
「大臣、この法律には問題があると思われませんか?」
 彼女は手にしている法律書を開き、オニキスに見せた。
「私はあくまで名代です。『大臣』はよせと言ったはずですが。具体的にどこがどう問題だと言うのです?」
「最低賃金の設定が今から30年前です。都市計画のために事情が変わっていったはず、これでは一方的に損をする者がいたはずですよ」
 オニキスはその法をじっくり読み、頷いた。
「確かに30年前ですな。これだと本来、出世出来た者が出来ていない可能性もある。一度調べてみる必要があるでしょう」
「では早速手配しましょう」
 オパールは指示を飛ばし、再びオニキスを見た。そして口を開いたが、その声は小さい。
「オニキス殿、どうなさるおつもりですか? 周りは皆身の振り方を考えていますよ」
「貴女には負担をかけているが、このまま継いで欲しいと考えている。少なくとも立場を追わせることはしないつもりです」
「私のことではありません。あなた自身のことです」
「私の進退のことなら、私が決められることではないでしょう。ここを追われるなら追われるで考えるのみです」
「元々こちらの世界を好んでいたわけではない、とは存じていますが……それでもお家のことがあるでしょう?」
「しがみつくほどのものでもありますまい」
「お父上は……」
「父上は父上です。そうそう、父も貴女に座を譲るつもりです。だが、その話を皆にする前に私の問題が出てしまった。流石に反省していますよ」
 オニキスが表情を和らげると、オパールはその分表情を険しくさせた。
「オニキス殿の問題は周りがでっちあげたものでしょう」
「なぜそう思われる?」
「あなたはむしろ女嫌いでしょう?」
 オパールの一言にオニキスは「ほう」と返してわずかに眉を持ち上げた。
「嫌いではありませんよ」
「そうでしたか? どこか冷たい目を向けておられるな、と思っていたのですが……」
「まあ、自覚のない浮かれた女性は嫌いですよ」
 そんなことを話していると、人の気配がした。
 二人は法律書を見つつああでもないこうでもない、と話す。
 歩いてきたのはカイであった。彼は鷹揚に笑みを見せる。オニキス達は礼をした。
「こんなところで話し合いかな」
「気になる部分がありましたので」
 オニキスは答えたが、オパールは一歩下がって口を閉じた。
 庶民と貴族では発言の自由が違う。カイの前でオパールが簡単に話すわけにはいかなかった。
「仕事熱心だ。だが、法律を変えるばかりでは皆振り回されて疲れるだろうな」
「何もかも変えたいわけではありませんが、その助言はしかと胸に留めておきましょう。もし名代を続けられるのであれば、ですが」
「はは。貴殿がそれを言うのか、世話ないな」
 カイは二人のそばを通り過ぎる。その一瞬、彼の目がオパールをとらえた。
 斬るようなまなざし。
 オニキスは姿勢を変えるふりをして、カイの視線から庇うように一歩彼女の前に足を出す。
「オニキス、貴殿の活躍に期待していたのだが、残念だ。宮殿の厄介者になれば居づらくなるものだろう」
 カイは振り向いてそう言った。オニキスに辞任を迫っているような口ぶり。
 オニキスはそれを聞くと、自身の腹の底で燃え上がるあやしい刃に気づいた。
 野心に似ている。
 だが野心とは違う。
 以前も感じた胸の疼きだ。もう腹に居座り、オニキスの中で強くなっている。
 カイの目はオニキスの背をぬけオパールも見ていた。
 目が熱い、オニキスはそう感じる。
「確かに居づらいでしょう。厄介者にとって、この宮殿は……」
 オニキスがそう言うと、カイとの間にあった薄いガラスが粉々に割れたような感じがした。
 カイは顎を持ち上げてそのまま歩き出す。

 この時、互いは相容れない存在なのだと認識した。

 外は雨。
 オニキスは宮殿を出るとコーが準備する馬車に乗り、窓を開けて灰色の空を見ていた。
 分厚い雲だ。まるで蓋をされているよう。
 邸までの道を走り、道に植えられた果樹のその果実を見つけた。
 まだ小さく青い。
 途中すれ違う人々は、背を丸くして馬車の隣を通り過ぎていく。
 どこか怖れを含んだその姿勢。敬いとは違う気がする。
 オニキスが頬杖をついて息を吐き出すと、コーが声を出した。
「おっ、サンと……あの女性はジャスミン、だったかな?」
 知り合いの名前にオニキスは顔をあげ、窓を全開にする。
 確かにサンとジャスミンの姿がそこにあった。
 二人とも簡素ながら丈夫な服を着て、傘をさしている。端から見ると旅人のようであった。
「また会ったな」
 サンがオニキス達の姿を認め、手をふった。

次の話へ→Tale of Empire -白樺の女王と水の貴公子ー 第20話 事実を求めて

 

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