Tale of Empire -白樺の女王と水の貴公子ー 小説

Tale of Empire -白樺の女王と水の貴公子ー 第16話 夢

 シルバーはスズの父親が持ってきた石ころを見るなり表情を固めた。
「それはセッケイ岩……」
「ご存じですか?」
 全体はぶつぶつした茶色の塊で、ところどころ銀色が奇妙に光る。
 シルバーの父親が持っていた図鑑に載っていたものの本物だ。
 銀がある、そう勘違いして掘り起こしてしまうのだが、これは銀ではない。
 植物の根に寄生したカビなどの病原菌が、周囲の土を固めて石のようにしてしまったものだ。(本作オリジナルです。実在しません)
 毒素を持っており、手に触れたり鼻から吸い込んでしまうと体に障りが出てしまう。
 長時間それが続けば知らず体が蝕まれ、死に至ると書かれていたものだ。
「これは毒を持っているわ、私の方で預かりましょう。布で包んで、木箱に入れて。直接触れてはいけませんよ」
 兵士を呼んで命じ、すぐに作業が始まる。
「やっぱり毒なんですか?」
「ええ。体に、何か気になることはありませんでしたか?」
「はい。ちょっと吐き気とか……ヤバそうなんで一応、厳重に包んでおいたんです」
「それは良い判断でした。よく気づきましたね? これを見つけたのはどこです? すぐに何とかしないと……」
「あ、ええ。これは今採掘場になってるところにあったんです。ごろごろしてますよ」
「ごろごろ?」
「それで体調不良の奴が何人か出てきて、でも銀が採れるからって」
「これは銀ではありません。すぐに現場に行って、説明しないと。人が入ってはいけないところにまで踏み込んでいる可能性があるわ」
 シルバーがすぐに立ち上がったため、スズ父子は緊張した面持ちでそれに続いた。
「そんなにヤバいんですか?」
「死者が出ていないのならまだ間に合いますが、これはそういう危険性を持っている石です。すぐに採掘場を閉鎖しないと」
「ええっ!? 反対されますよ!」
「死者を出してまで銀ではないものを掘り続けるつもり?」
「銀じゃない? でも……」
「良いですか、一時はだませてもいずれ出荷先に気づかれます。その時あなたたちは信頼を失い今よりも大変なことになります。目先の利益のために将来を棒に振ってはいけません」
 シルバーが一喝し、二人は顔を見合わせて頷いた。

 アンバー達が先導し、採掘場にシルバーは姿を現した。
 太陽光がぎりぎり差し込む山の穴で、現場作業員が目を見開いて見ている。
 兵士に連れられて女王が来たのだ。あまりにものものしい雰囲気に気圧され、彼らは自然と静まりかえっていった。
「良いですか、ここでの作業は中断。立ち入り禁止区域とします」
「へっ!?」
「急な話ではありますが、説明しますので早急にここから降りるように。一人残らず、早く」
 アンバーの指揮により、てきぱきと兵士が動き出す。中で作業していた者達も続々外に出されていく。
 まだ陽が傾き始めたころだ。突然のことに皆黙っていたが、徐々に何事か疑う声が上がり始めた。
 山を降りると、シルバーは先ほどのセッケイ岩を取り出し、彼らに見せつつ話す。
「これは銀ではありません。毒が含まれており、最悪死に至ることがあります」
「はあ?」
「毒?」
「体調不良者が何人か出ていたと聞きました。医者を派遣しますので、作業中に体調を崩した者は名乗り出るように。質問はありますか?」
「銀じゃないって、どういうことですか?」
「これは銀に見えますが、すぐに劣化していきます。最終的には赤さびのようになり、使い物になりません」
「毒?」
「元は植物の根につく病原菌です。土にまで汚染し、固めてしまったのでしょう。セッケイ岩と呼ばれております」
「そうだっていう証拠が……銀が採れなくなったら俺たち食いっぱぐれますよ」
「あそこは人が立ち入って良い場所ではなかったのでしょう。別の採掘場を探すように」
「無茶言わないで下さいよ」
 不満の声が上がり始めた。
 シルバーは予期していなかった反対の声に目を丸くする。
(危険だから注意したのに、なぜかしら)
 困ってスズ父子を振り返ると、父親の方が前に出た。
「元々銀じゃなかったんだ。仕方ないだろ」
「お前、前からこれは毒だなんとか言ってたな。俺たちをそれで遠ざけて銀を独占しようって魂胆だろ」
「何言ってんだよ? 立ち入り禁止になるんだから俺だって一緒だ」
「王族は税金に困ってるんだ。それで結託して自分たちだけ良い思いしようってんじゃないか」
「だから……これは銀じゃなくて毒なんだって! お前らも知ってるだろ? 何人吐いて現場から離れていったと思ってる?」
「たまたまだ。あの頃食べもんが悪かったんだよ」
「おい、ごまかすな。これはやばい代物だって!」
 口論が巻き起こった。シルバーはそのままどうすることも出来ずにただ立ち尽くしている。
 まさかこんなことになるとは。
「殿下、お下がり下さい」
 アンバーにそう声をかけられ、シルバーは背に庇われる格好になった。
「皆を止めないと……」
「今はいけません。頭に血がのぼっている」
「ですが……」
「おい、女王はいい気なもんだよな! 俺たちが汗水流して働いたカネを取って優雅に暮らしてるんだろ? あげく仕事場まで盗もうってのか!?」
 思いがけない鋭い声音に、シルバーは眉を寄せた。
「殿下」
 アンバーがちらりと振り返った。
 その瞬間――飛んできたこぶし大のセッケイ岩がシルバーの視界に入った。
 ゴツッ、と嫌な音を立ててアンバーの頭にぶつかる。
 はっと息をのむと、喧噪がなぜか遠くに聞こえた。

 黒い空間の中で何かが蠢いている。
 時々見える光沢がぬるぬる流れるよう。
 巨大な蛇のような川にいるようだ。シルバーはわずかに見える光沢を辿っていく。
 奥に見えるのは赤い目だ。
 シルバーはそこに手を伸ばし、触れる、と思った瞬間、黒い空間を裂くように白い歯が現れ、赤い舌と底の見えない咽の奥を見せつけられた。
「……っ!」
 バッと体を起こすと、心臓がいやな強さで打っている。汗が背中に浮き上がって、息が苦しい。
 朝の青白い光が窓から入り込んでくるのを見て、さきほどの「口」が夢だったと知った。
 目に入る天蓋は自室のもの。
 シルバーは額をおさえ、汗が手のひらに張り付くのを気持ち悪く感じた。
(嫌な夢……)
 まただ。
 あの採掘場を訪れたのは3日前。
 それ以来、眠るとあの夢を見るのだ。
 アンバーは負傷したが大事なく、頭に包帯が巻かれて痛々しいが「ケガはつきものです」と言ってすぐに仕事に戻った。
 シルバーは執務に集中し、午前の予定を終わらせる。
 耳の奥がぐるぐるまわっている感じがする。
 よく眠れていないせいだ。
「……困ったわ」
「殿下、顔色がすぐれませんね」
 マゼンタが気遣わしげに声をかけた。
 ローズマリーは今兵舎の方に行っている。侍女達を連れて掃除と食事の支度だ。
 そろそろ彼らを宿屋に移動させなければ。
 雨期は確実に近づいている、
 その時避難を手伝い、彼らも安全に活動出来るように手配すると、候補は街道沿いとなる。
「スプルス殿の協力を得ないと……」
「ええ……」
 スプルスに登城するよう通達し、3日後に顔を合わせることになった。
 シルバーは暇が出来ると毎夜見る悪夢のことばかり考えてしまう。
 自室に戻るとぼーっとして、髪の毛を指先で弄ぶがすぐに飽きてしまった。
(どうすればいいのかしら……)
 巨大な顎。なめらかな皮膚。赤い目。
 まるで蛇だった。
 いや、それこそ伝説のドラゴン?
 毒にあてられたのだろうか。
 庭に出て順調に育つ白樺を見る。
 合流したローズマリーが白い薔薇を見つけ、それをシルバーに手渡した。
 ふんわりと香る甘さは、気位の高い気配がない。むしろ可憐な乙女を感じさせる、親しみやすい香りだ。
 夕食を摂って一人でベッドに横になる。
 重そうな雲がそろそろ空を覆い始めるだろう。
 今はまだ、星がきらめくのが見えた。
(またあの夢を見る?)
 そんな不安に駆られていると、香ってくる薔薇。それに目をやると、そばには白の羽ペンが。
 オニキスから贈られたそれを見ていると、鮮やかにあの夜のことが思い出された。
 起き上がってペンを手にする。
 そっと撫でると、芯は強いがくすぐったさすら感じる柔らかい毛先が肌の表面をなぞった。
 彼が触れたように、指が滑る感触を辿るように、頬や顎を羽で撫でる。
 そのまま首筋へ――甘い疼きが体の奥に蘇り、シルバーははっと意識を今に戻す。
(……こんなことをしていてはいけない)
 しかし、それでも、夜の間だけは彼の面影に頼って良いだろうか。
 自分を包んでくれたあの温もりに、溺れても良いだろうか。
 心の中だけで良いのだ。一時の安らぎが欲しい。
 シルバーは羽ペンを抱くようにし、そのまままぶたを下ろす。
 やがて眠りが落ちてきた。

***

 オニキスは帝国軍と共にブラッドが管理していた邸を訪れた。
 今となってはもぬけの殻。
 オークション壊滅のため、彼らも一時的に逃げたと見られる。
 サン達は今帝国軍のもとにおり、それぞれ帰国や就業など必要な準備を進めているという。
 確認が済むと、見張りの兵を置いてオニキス達はホリーへ帰還した。
 帝国軍はこの日は泊まり、翌朝帰るという。
 以前のような「もてなし」を強く禁止し、集会所で解散するとオニキスはそのままフェザーを駆ってどこへともなく走った。
 あのフロンドの邸での一件いらい、オニキスはいよいよホリーに対する悪印象が深まってしまった。
 村人はオニキスの顔を見ると、顔をそむけてひそひそ何か言い合う。どこか刺すような視線を向けて。
 あれから5日経った。
 とっくに話は広まっているのだろう。フロンドの娘に夜這いをかけたのだ、と。
 彼らは悪ではない。
 何も知らないだけだ。オニキスが領主となってまだ浅い。信頼も何もあったものではないのだ。
 そう理屈では言える。
 だが態度の変わりよう。
 領主の一挙手一投足にそこまで不満があるなら、自分たちで何かやれば良いのだ。
 そうすれば色々なことが分かるだろう。物事は裏から見てみなければ理解出来ない。
 村を見おろす丘に着くと、フェザーから降りた。
 彼の体を撫でてやり、夕陽で影を伸ばすその家々を見る。
 西に見えるのは分厚い雲だ。
 あと数日で雨期となるだろう。
「若旦那さまーっ」
 コーが呼んでいる。
 彼は馬に乗って駆けつけたようだ。オニキスは返事せずに声の聞こえた方を向く。
 相変わらず腹の出た姿だ。見ると何やら気がほぐれる、良い体型である。
「どうした」
「見つけましたよ。これでしょう」
 コーが満面の笑みを浮かべて取り出したのは一つの封筒だ。
「そうか」
「妙案でしたね。若い私兵に女装させて邸に潜り込ませるなんて」
「軍ではよくある手段だ。あくまでも一部だな?」
「はい。全部盗んだら証拠になりませんから」
 オニキスは例の邸を探すため、私兵を送っていたのだ。ようやく見つけ出した「花びら」、その一部が封筒に入っている。
 オニキスが風に飛ばされないよう慎重に手に出せば、やはり香りの濃い、黄色の花びらが出てきた。
 3枚、いずれも成人男性の指の爪程度の大きさ。
 だが、その花びらの形にオニキスは眉を寄せる。
「……見慣れない花だ」
「確かに……形も変わっていますね」
「珍しいもののようだが……ホリーで見かけた覚えはないな」
 手のひらに乗る乾燥した花びらは、ふちがぎざぎざの変わった形をしていた。

 グレイが首都を訪れたのは皇帝のお召しがあったからである。指定された国立公園、そのレストランの一室に案内された。
 人工池が眼前に広がり、ゆったり泳ぐ魚の姿がなんとも風情があった。
「話とは何でしょうか」
「大臣職の件だ」
「はい」
「今現在、オニキスがそなたの名代を務めておるが、領主の仕事も忙しかろう」
「はい」
 良い流れではないな、とグレイは勘づく。だが、その方が良いのかもしれない。
 グレイは穏やかな気持ちでそれを聞いていた。
「副大臣はオニキスが名代を続けることを推しているが、現状、厳しいのだよ。登城する暇がないというのは……」
 いつも豪快な皇帝にしては歯切れが悪い。グレイはそう感じ、彼を見る。
 皇帝はあたりを伺う様子を見せ、グレイに親しげに肩を組んだかと思うと声を落とす。
「実は、不信任案が出ておる」
「不信任案……私にでしょうか」
「いや。オニキスに対してだ」
 グレイは眉を顰めた。彼は名代にすぎないが、職務をよくよく全うしていると聞く。
 不在が長引くせいだろうか? だが連絡は密にしていたはずだ。
「この頃噂になっておるのだ。彼に関してはふしだらな話が多いと」
「オニキスは確かに、その手の話によく巻き込まれますが……」
「分かっておる、あれは潔癖だ。女どもの下心を嫌うからな。それゆえシルバーの教師に任命したのだ」
「畏れ多いお話でございました」
「だが、噂も無視できんのだよ。広まれば広まるほど真実は見えにくくなる」
「何がございましたか?」
 皇帝は一度大きく息を吐き出した。思うところがあるらしい、眉間に皺が寄り、頭痛に悩むようにそこをもんだ。
「オニキスが登城出来ずにいるのを良いことに、皇后の侍女どもが言うのだよ。彼と寝た、いやふられた、ふった、だの。中には将来を約束したと言いふらし、その結果階段で突き落とされた者もおる。嫉妬は醜いのう」
 皇帝は言いづらかったに違いない。実子のこんな話は誰でも聞きたくないはずだ。
 グレイは皇帝と同じように、自身の眉間にも皺が寄るのを感じた。
「オニキスが実際に関係を持った可能性は?」
「ない。悪いとは思っているが、宮殿での言動は筒抜けだ」
 グレイが頷くと、皇帝は続けた。
「厄介なのは侍女はじめ、宮殿に勤める者は皆どこそこの家の子らだ。簡単にやめさせるわけにもいかぬし、喧嘩ばかりになっても面倒だ。第一、未婚にも関わらずそういう話を自ら流布して何が得られるというのか……」
「自身の姿が見えておらぬのでしょうか」
「かもしれん。宮殿はあまりに閉鎖的だ。そして民との間に溝があるゆえ、常識というものが分からぬのだろう。もっと自制なり、道徳というものをわきまえて欲しいものだ。異性と関係を持てば自分の品格が上がるなどと、勘違いもはなはだしい」
 皇帝は手を挙げると「すまぬ、今のは独り言だ」と言った。グレイは皇帝の愚痴を聞き流すことにし、話を元に戻す。
「それで、オニキスはどうなりましょうか」
「俺としては庇ってやりたい所だ。どうせ無実の罪。言いがかり程度で宮殿を追い出すのは忍びない」
「そのお言葉だけで充分です。……しかし……」
 グレイは言うべきかどうか迷った。
 ホリーでのことはホリーで解決せねばならない。しかし、なぜこう追い込まれなければならないのだろう?
 彼が遊び人であったなら自業自得と言えただろうが、むしろ潔癖なのだ。
「……オニキスのことです。名代としてお仕えするのは本意ではないはず。もしこの道をゆくのなら、実力で認められたいと思うでしょう。私は隠居を決めた身。大臣職は副大臣にお任せしては如何でしょうか」
「しかし……あれはまだ若い。今のうちに経験をつませ、ゆくゆくは我らを支える柱になってもらいたいのだ。今の噂もいずれ消えよう」
「陛下」
 皇帝の気遣いにグレイは眉をよせる。
「副大臣のオパールなら間違いないでしょう。彼女は公正な人物ですから」
「それは俺も認めるところだ。……全く、面倒な話だ」
「ええ。しかし、一体誰が不信任案など……」
「分かっているだろう?」
 皇帝は視線を池に向けた。

 グレイは皇帝とわかれ、そのまま首都を歩いた。
 春の陽気はどこかへ去り、季節を変化させる風が吹いていた。
 一人、前方から私兵が現れてグレイの側を歩いた。
「見つけました」
「ああ。行こう」
 彼の案内する方へ足を進めると、肩にぽつんと雨が落ちてきた。

 グレイが私兵に案内されたのは、首都の外れにある小さな家だ。
 そこでふくよかな体型の女性が、花に水をやっている。そこに現れたのはよちよち歩きの少女だ。まだ2歳に満たぬ幼子。
「証言に合うな。父親は誰か分かったか?」
「ホリー出身の元農民です。今は家々の修理工をしているようで、身分は低いようです」
「そうか……今は出かけているのだな?」
 グレイはそのまま玄関に近づく。
 主婦のような先ほどの女性がグレイに気づき、ゆったりと会釈した。
 家の中は生活必需品で溢れ、狭いものの、陽の光が穏やかに差し込む良い空間だった。
 少女はおもちゃを出して機嫌良く遊んでいる。
 グレイは出されたお茶を飲み、それから口を開いた。
「ホリーの者らしいな」
「はい」
「ずいぶん落ち着いている」
「いつかこんな日が来ると思っていました。お子様や恋人と離れて、長く平気でいられませんよ。でも、まさか領主さま自らとは思いませんでした」
「そなたはあの家に仕えていたのだね」
「ええ。お嬢様とは幼なじみで……お嬢様はとてもお優しくて、良くして下さったのです」
 彼女はとてもなめらかに話す。思うところがあったのだろう。見つけて欲しかったに違いない。
「ここの旦那様と恋仲になり、でも農民が相手ではいけない、とご主人様は反対されました。お前は領主の息子と一緒になるべきだ、と。でも身ごもってしまって……お嬢様と旦那様は一緒に逃げるつもりでいたのですが、見つかってしまったのです。それで、子供が産まれるまでの間に旦那様はホリーを追放。産まれたあの子は私の子供として扱うことになったのです」
「ご息女が折檻を受けていたと知っているか?」
「……」
 彼女はそれを聞くと表情を曇らせた。グレイの目を見て、そのまま呼吸とともに視線を下げる。
「知っていたのだな」
「今でも続いているのですか?」
「……そのようだ」
「……領主さま。お嬢様を助けて下さい。ここはお邸よりも小さいけど、静かで、二人の家族と一緒に暮らせます」
「助けるつもりだ。だが、そうならばそなたの協力が必要になるだろう。あの子も……」
 グレイが目を移すと、少女と目が合う。彼女はグレイにおもちゃをふって見せた。
 マーガレットと目元がよく似ていた。
「母親によく似ている」
「ええ……」

 証言する、と約束を取り付け、グレイは迎えを寄越すことを伝えると家を出た。
 馬車を走らせている途中、すれ違う馬車にはツタ植物の家紋。フィカス家のものだ。
「久方ぶりですな。顔色も良くなられたようで、安心しました」
 腹の底から出る太い声はカイのそれ。窓を開けると、勝ち誇ったようなあの笑みが見える。
「お久しぶりです。そうおっしゃって頂けるとより活力がわいてきますよ。今日はどちらへお出かけですか?」
「どこということもない。ただ羽を伸ばしに参るのだよ。グレイ殿もご一緒にいかがです?」
「老いぼれにはカイ殿のお供は勤まりません。このまま失礼いたしましょう」
 そう言って頭を下げた。
 カイが笑って「失礼する」と窓を閉める。
 その一瞬。
 何か香った。
 顔をあげて確認しようとするも、すでに馬車は走り出している。
 グレイがわずかに身を乗り出してフィカス家の馬車を目で追えば、それは歓楽街の方へ走ってゆく。
 一枚の黄色い花びらが、馬車の巻き起こす風でふわりと浮き、グレイの目の前を飛んでいった。

次の話へ→Tale of Empire -白樺の女王と水の貴公子ー 第17話 聞き込み

 

 

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