うそとまことと 小説

エピローグ

 

 タブレットを何度も見返し、少しずつ修正を加える。
 琴はカリナの肌に合う青みがかったピンク色、薄紫をベースに、少し薄い茶色の目、黒曜石のように艶めく瞳、唇の感触や色を最大限に活かした上で、彼女の持つ芯の強さを表現出来れば、とメイク道具を選び直していた。
 粉ではなく、リキッドではなく……いっそ口紅一つでも良いかもしれない、と何度もやり直す。
 彼女の髪は少し赤い。
 日本人に多いタイプの髪色で、ストレートの髪は柔らかく、細い。それに合わせて細いアイラインにしようか……書き込みは増えては減ってゆく。
 決まらないイライラはなく、むしろ可能性が広がるのが楽しいくらいだった。
 都筑が朝食後に紅茶を飲んでいる。
 何かとたずねればダージリンらしい。パン屋で買ったものだ。
 その香りがとても落ち着く。
「はかどってるみたいだけど」
「はい! どんどんアイディアが出てきます」
「そう」
 昼下がりの光が窓から入り、タブレットに映り込むとまた変わって見える。
 カリナは夏の夜空が似合う雰囲気を持っている。
 紺色の明るい、抜けるような爽快感を持った女性だ。
「うーん、やっぱり本人に会いたいな」
「妬けるな……」
 仕事に夢中な琴だったが、頭をふって切り替える。
「もう終わりっ! 仕事は仕事中に考える!」
 そう言い切るとタブレットの電源を切り、琴は都筑に抱きついた。
「ふふっ」
「嬉しそうだけど、どうかした?」
「うん。ううん。何でもないです」
「どっち?」
 都筑が琴の腕を撫でる。
 目が合うと都筑は腕を伸ばし、琴のうなじに触れ、ゆっくりと顔を近づけた。
 琴は身を屈めて近づけ、目を閉じて唇を少し突き出す。
 思った通りにキスされ、唇の柔らかさと温もりを交わす。
 ダージリンの香りがふわりと広がった。
 唇が離れ、目が合うと都筑がまっすぐに見つめてくる。
 心を見つめるかのような熱いまなざしだった。
「……どうかしたんですか?」
「いいや」
 琴が戸惑っていると、都筑は髪を撫でてきた。
「なんでもない」

 井上の言葉を借りて、男よけの指輪を贈ろうか、都筑はそんな事を考える。
 知り合ってつきあい始めて、それほど長くはないのだ。指輪は早いかもしれない。
 だが沖のようなことがある。
 早い内に「証」のようなものが欲しかった。
 隣で都筑の持っていた星の写真集を見ていた琴に声をかける。
「琴」
「なんですか?」
「今度、出かけようか」
「はーい。どこに行きますか?」
「そうだな……」

 それからしばらく後、琴と都筑の右手の薬指におそろいのシルバーの指輪がきらめく。
 手を繋ぐと「これからを一緒に」という新たな感覚が生まれた。
 その感覚はとても心地良いものだった。

おわり。

 

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