うそとまことと 小説

うそとまことと after story キャンプに行った話

 

 9月下旬のこと。
 都筑と琴はキャンプ場にいた。
 都筑の趣味であるキャンプに誘われ、琴は二つ返事で了承したのだ。
 都心を離れ、木々の葉がざわめく場所。
 早朝の新鮮な空気は緑の香りを含み、肺を喜ばせる。
 琴がキャンプに慣れていないので、都筑はファミリー向けに設備の整った場所を選んだらしい。
 が、この日は平日である。
 都筑は琴の休日に合わせて遅い夏休みを取ったのだ。
 他にも客の姿はあったが、かなり少ない。
 目で確認出来るだけなら4組、といったところだ。
 木材を組んだ管理棟もあり、バーベキューや調理が出来る野外厨房もある。
「すごい」
 琴が車の窓に張り付いて言うと、都筑が駐車場を回りながら言った。
「ここなら野菜も肉類も買えるよ。手ぶらでも来れるよう、テントの貸し出しやバンガローもあるから」
「今日はそこに泊まるんですか?」
「いいや。テントは持ってきてある」
 都筑が示したのは荷台の塊だ。琴のボストンバッグと変わらない大きさ。
「これがテント? 小さいんですね」
「ほとんど布だからね」
 琴は納得して頷く。

***

 木漏れ日が差し込み始める。
 空が遠く見えるのは木の身長が高いせいだろうか。
 9月はまだ暑い、と感じていたが樹皮の近くだと肌がひんやりする。
 都筑は長袖長ズボン、重ね着に靴下も持ってくるよう言っていたが、こういう理由だろうか。
 湿気を帯びた空気は少し重く、肌がいつもよりじっとりする感じだった。
「ここにしようか」
 都筑が示したのは一際大きな木のそば。
 両腕を伸ばした成人3人でやっと一周出来そうな幹の太さだ。
 その近くに、人の足跡が残っていた。
「ここにテントを建てるんですか?」
「そう。今日の寝床」
 都筑はテントを取り出す。他にも準備があるようで、細かい荷物を取り出していた。
 琴は興味本位でテントを持ってみようとし――「重い」と手を離した。
「重いよ、それは。3人泊まれるやつだから」
「一人用は軽い?」
「軽いやつもある。ただし頼りないけど。そうだな……こっち準備してて」
 都筑が指したのは調理器具だ。
 琴は簡易テーブルを設置し、そこにどう使うのか分からないランプのようなものを広げていく。
 小さめのスキレット鍋を見つけ、ひっくり返したりしていると、テントのペグを打っていた都筑が声をかけてきた。
「スキレットが気に入った?」
「というより、使い込まれてる感じがいいなって。お手入れされてて何か可愛い」
「可愛い……? それで焼くと美味いからな……明日は目玉焼きでも作るよ」
「卵は?」
「管理棟で買えるから」
 そう言うと都筑は琴を手招いた。
「このテントの床を繋ぐ。チャックを締めていけばいいから」
「これ?」
「そう」
 琴は都筑に手本を見せてもらいながら、テントの設営を手伝った。

***

 見上げると太陽が木立の真ん中に見える。
 柱代わりのポールが真ん中に起ち、テントが完成する。
 布地はベージュのしっかりとした物で、確かに大人3~4人は寝転べるほどの広さだった。
 薄いテントの向こうは山林だが、それでもプライバシーが確保された安心感でほっと緊張が解ける。
「新しい奴だから俺も勝手を知ってるわけじゃないけど、あそこが換気口」
 出入りはここ、と都筑が説明をする。
 琴は聞きはするがいまいち把握は出来ない。
 首を傾げつつ聞く彼女の様子に気づいた都筑が「……適当でいいから」と最後に付け加える。
「どうやって寝るの?」
「マットと寝袋。きつかったら言ってくれ」
 琴は頷く。
 都筑が腕時計を確認した。
「流石に腹が減ったな……」
「お昼ご飯~」
「管理棟へ行こうか。レストランがある」
「作らないんですか?」
「夜は作る。今は休憩がてら」
 都筑は決断すると行動が早い。革のバッグをひょいと取り出し、いつでも出かけられそうだ。
 琴はボストンバッグに手を入れ、貴重品を入れた小さいショルダーを探る。
「あれ……」
 貴重品を入れた小さいショルダーがあったはずだが、見つからない。
「どうかした?」
「ショルダーバッグがない……」
 琴は焦ってごそごそとバッグを探る。
「ない~!」
「落ち着いて。ゆっくりでいいから」
「でも……」
 入れたはずだが、まさか忘れたのだろうか、と琴は不安になった。
 ボストンバッグをひっくり返し、中身を出してしまっても見つからなかった。
「ない……なんで?」
 家の鍵、スマホ、お財布……あれがなければ困る。
 琴は眉をハの字にした。
「どうしよう。どこだろう。家から持ってきた?どこかに忘れた?」
「落ち着いて。家からここまで寄った場所はないから、あるとすればここか車だ。管理棟の可能性もある」
 都筑の言葉に頷き、琴は自分の行動を辿りながら探し始める。
「どんな鞄?」
「えーっと、赤茶色の20㎝ぐらいの……」
 都筑も調理器具のあたりを探し始めた。
 琴はテントの床の下だろうか、とめくってみるがやはり見つからない。
「どうしよう」
「そういえば、君パーカーは?」
「脱ぎました。テント建ててたら暑くなって……」
 あれ、と琴が指し示すのはテントの隅で畳まれていた白いパーカー。
 そこから赤茶色の紐が覗いている。
「……」
「……」
 都筑と琴は言葉もなく見つめ合った。

***

 ボストンバッグに荷物を詰め直していると、都筑が笑いをこらえながら口を開いた。
「案外、そそっかしいんだな」
「だって……」
 口を尖らせる琴だが、恥ずかしくて都筑を見られない。
「そんなにむくれなくても。見つかったんだから万事OK」
「分かってますぅ」
 むくれているのではなく、恥ずかしいだけだ。
 都筑はふっと笑うと琴の両頬を片手で包んで、むにむにすると尖った唇にちゅっと口づけた。
 琴は更に顔を赤くする。
「食べに行こう」
「……はーい」
 都筑に手を牽かれ、テントを出ると管理棟へ。厨房の貸し出しスペースでは若い男女がグループで調理中だ。
 ビール片手に楽しげである。
 てっきりバーベキューのようなことをするのかと思っていたから、まさかレストランで昼食とは。しかしテントの設営で手は少しだけしびれた感じがする。
 手袋がなかったらマメが出来ていたかもしれない。
「ここのカレーは美味いよ」
「カレー?」
「そう。季節の野菜を使ってる。スパイスも全部シェフのオリジナルなんだと」
「本格的だ……」

***

 確かにカレーは絶品だった。
 慣れない環境で、慣れない作業。
 琴は陽が傾いていくのを見ながら、ああ本当に今日はこの異空間で過ごすのかと思うと少しだけ緊張しはじめる。
 昼食まで作るとなると、確かに疲れてしまったかもしれない。
 琴は食後に出されたラッシーを飲みながら、ぼんやりと都筑を見つめる。
 彼はいつもより目がきらきらして、どこか無防備な笑顔を見せている。
 話す様子も楽しそうだ。
 が、琴には何の話か分からない。
 それに疲れた上で温かい手料理を食べたためか、眠気が襲ってきた。
「テントに戻るか」
「うん……」
 都筑の提案に頷き、テントの側で簡易チェアに座ってぼーっとしていると都筑が飲み物を差し出した。
 この香りは紅茶だ。茶葉も都筑は持ってきたらしい。
「ありがとう」
「いいよ。夜まで時間があるから、ゆっくりしてて」
「散策に行きたいなぁ……」
 グループが綺麗な小川がある、と話しているのを聞いたのだ。
「休憩してから」
 足がふらつくと危ないよ、という都筑の説明に琴は簡易チェアに背中を預けてだらんと力を抜いた。
「普さん」
「ん?」
 都筑も簡易チェアに座り、ストレートティーを飲み始めた。
 自前の調理器具を器用に操って、慣れた様子でおやつを温めている。
「何でもないです」
「そう?」
 いつもと違う格好だからか、環境だからなのか、都筑てきぱき動く様子は仕事中の彼と同じだが、どこか楽しげな様子はいつもと違う雰囲気だ。
 新たな一面。それを見せてくれることを嬉しく思う。
 何かを確かめたくなって手を伸ばすと、都筑がしっかり握ってくれた。
「ここは星が綺麗だよ。家から近くのキャンプ場で、一番綺麗に見えると思う」
「星?」
「ああ。天体望遠鏡も持ってきた……あー、興味なかった?」
「ううん、好きです」
 琴は目をぱっちりさせた。
 星も月も好きだ。
「夜が楽しみになってきました」
「それは良かった」
 都筑は目元を和らげて微笑む。
 この都筑の笑みが、琴は好きだ。
 琴はつられて頬を緩ませた。
 よっと言いながら立ち上がり、カップを戻すと時間を確認する。
 もうすぐ夕方だ。
 陽が落ちるのが早い季節だ。
 都筑の手を取って「散策に行きたい」と言うと、彼は笑みを浮かべて立ち上がる。
「行こうか」

***

 苔に覆われた岩、樹皮。
 緑の気配の中に、ちらほらと紅葉する予感が潜んでいる。
 小川というよりも、水源のようだ。
 積み上がった岩の間から滴がぴちょん、ぴちょんと落ちている。
 それが木漏れ日で照らされ、きらきら光っていた。
「わぁ……」
 琴が小さく歓声をあげる。
「綺麗」
「ここの水は飲めるよ。汲んで行こう」
「飲めるの?」
「ああ。柔らかいから飲みやすい。美味しいよ」
「私何も持ってきてない……」
 水筒代わりを探し、結局見つからないので両手をあげた。
「持ってきてるよ。そこで待ってて」
 都筑は水筒を開け、岩場に近づいていく。
 彼は軽々岩場をうつり、あっという間に水源にたどり着いた。
 琴は後を追いかけようとしたが、脚が強ばってしまって大きな岩で止まってしまった。
「琴……どうした?」
 都筑が水筒の蓋を締めながら振り返る。
 岩で座り込んでしまった琴は、「しまった」と目をそらした。
「ちょっと……脚が短くて」
 そう言うと、都筑が声をあげて笑った。

***

 結局都筑に手を取ってもらい、岩を降りた琴はこれから体を鍛えようと心に決め、テントに戻った。
 ぽつぽつ遠くに見えるテントも、その前で夕食の準備をしている姿が見える。
「今からご飯を作りますか?」
「そうだな。簡単なものになるけど……」
 そう言いながら都筑は簡易テーブルの調理器具を一つ一つ確認していく。
 琴は用意されたジャガイモを一口大に切ってゆく。
「普さん、このくらいでいい?」
「ああ。オリーブオイルで炒めて、塩胡椒とバジルをかける」
「美味しそう」
「後はベーコンをあぶろう。スープはレトルト」
「ガーリックトースト温める?」
「ああ。アルミホイルに包んで……」
 都筑の指示のもと、てきぱきと調理が進む。
 徐々に陽が暮れ、手元を照らすルクスの強い照明が頼もしくなってきた。
 スキレットに固形チーズを置いて、溶けてきたら温野菜をつけて即席のチーズフォンデュだ。
 ランタンの淡い火が揺れ、調理の行程、味を楽しみながら、徐々に冷えてゆく空気に自然の営みを感じ取る。
 冷えた空気はきりりとして、虫の声が聞こえ始めると不思議に穏やかな気分になってきた。
 スーパーで買えるような食材ばかりだが、この空気がそうさせるのか、格段に美味しい夕食となった。
 食事を終えて調理器具を片付ける。
 都筑はさっき汲んだ水を湯にして、持ってきたウィスキーを割って、二人分のカップに入れる。
 琴は簡易チェアに座って大きめのストールを肩からかぶり、都筑が慣れた手つきでウィスキーを入れるのを見ていた。
 目の前にカップを差し出され、今更ながら頼もしい手にどきどきする。
「ウィスキー、初めて飲みます」
「そうだった?」
 どこか洋菓子のような、ドライフルーツのやナッツのような不思議な甘い香りだ。
 それに惹かれて鼻先を近づけると鼻や目がつんとして、思わず顔から遠ざける。
「香りはいいのに」
「アルコールがきついからな。その分温まるよ、一口でも飲んで」
 都筑も琴の隣の簡易チェアにどっかり座る。
 彼は一通り作業を終えたらしく、緊張感の抜けたのがよく分かる。
「美味しい?」
「俺は美味しいと思うよ」
 琴は都筑の顔を見ながらカップを口につける。
 舌を濡らす程度に舐めると、じわぁっと舌先が温かくなった。
 その奥行きの深い甘みに目を開く。
「甘いんだ……」
「気に入った?」
「うん。でも、酔いそう……」
「無理はしない」
 都筑が手を伸ばした。
 琴はもう少しだけ、とカップを手で包む。
 都筑は微笑むと手を引っ込め、自身の腕を枕にして背中をより簡易チェアに預けた。
 琴はその横顔を見つめ、口を開く。
「ねぇ、どうしてキャンプを始めたんですか?」
「どうして? うーん、気が向いたって感じかな……」
「気が向いた?」
「そう。元々山が多い土地で暮らしてたし、都会に出てきて、時々息が詰まるっていうか……リセットしたい時があるんだ。その時にキャンプ用品店を見つけて、いい機会だからやってみるかと思って。そしたらクセになった」
「リセット……」
「そう。俺の……等身大に戻れるっていうか」
「等身大かぁ」
 琴はじっくり都筑を見る。
「何?」
 流石に都筑が目を丸くした。
「ううん。今、等身大の普さん?」
「そうだな」
「なら良かった。嬉しい」
 琴が笑うと、都筑は口のはしを持ち上げて、目をそらして笑った。
 都筑の照れた時のクセだ。
「星を見る? 望遠鏡を出すよ」
 都筑は立ち上がり、テントからそれを取り出すと手早く設置する。
 琴はウィスキーを飲んで温まった体を持ち上げ、都筑に手招きされ望遠鏡を覗き込む。
 白く光る星。目で見ると分からないが、球体になって宇宙に浮いているのが分かる。
「すごい……」
「土星も見えるよ。調整しようか」
「土星って、わっかのある?」
「ああ。わっかも見えるよ」
 都筑が望遠鏡を調整し、レンズを確認すると琴にレンズを見るよう促した。
「わあぁ」
 思わず腰をぬかしそうになった。
 写真で見たことがある、丸い球体の惑星に、確かにわっかがある。
「すごい!」
「写真のままだろ?」
「はい! すごーい!」
 琴は無邪気にはしゃぎ、都筑を振り返る。
 彼はいつものように目元を和らげて琴を見つめていた。
「普さんも見る?」
「いいよ、君を見てたいから」
 ずいぶんはっきりな言葉に琴は固まり、顔を熱くさせると下唇を噛んだ。
 恥ずかしくて望遠鏡も宇宙も星も、どうでもよくなってしまう。
「えっと……」
 琴はストールをかけ直しながら、望遠鏡をもう一度のぞく。
「……あの……」
「うん?」
「もう、いいかな……ちょっと冷えてきたかも……」
「それはダメだな。風邪を引きやすい時期だ」
 琴はそう言ったものの、体温があがっているくらいだった。
 都筑の視線を感じると、すっかり体はほかほかになる。
「テントに戻って。片付けておくから」
「でも、今日普さんに任せてばっかり」
「キャンプは俺が慣れてるから」
 都筑はさっさと片付けてしまう。
 琴はせめて望遠鏡を、と思うも、精密機械の動かし方など分からない。お手上げだ、と簡易チェアをたたんでテントの中に運んだ。

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ライトのおかげかテントの中は明るく、外の空気とは違う、馴染んだ空間になって落ち着いた。
 琴はラフな部屋着に着替え、夜は冷えるから用意するよう言われた重ね着を着る。
 片付けを終えたらしい都筑が入ってきて、靴を脱ぐと適当に服を着替え始めた。
「虫の声がよく聞こえる」
 そんなことを声に出すと、都筑が振り返った。
「確かに」
 都筑は広げたマットに寝袋を並べる。
 これで寝転がっても痛くないらしい。
「今何時ごろですか?」
「11時……34分。寝るか?」
「うん」
 都筑に手招かれ、マットの上にごろんと寝転ぶ。
「えへへ」
「寒くないか?」
「うん」
 都筑の落ち着いた声、気づかう言葉にじわじわと嬉しくなり、目を細める。
「可愛いな……」
 と、都筑が独り言のように言って琴の上に覆い被さった。
「きゃっ」
「全く」
 都筑は琴を腕の中に閉じ込めると、髪に額に、と口づけてゆく。
 さらさらと髪を撫でられながら、琴は「あっ」と声をあげ、都筑の肩を叩いた。
「どうした?」
「見えるんじゃないですか? 外から」
「ああ……そうだな」
 都筑は身を起こすと、照明を枕元に置いて、ぎりぎり互いの顔が見える程度まで落とす。
「火は危ないから」
「うん」
 青白い明かりだけになると、外の世界と不思議と混じり合う感じがした。
 虫の声がより大きく感じる。
 りんりんと耳に心地良く、自分たちと同じように、愛を求めているのだ。
 向き合ったまま都筑の手で頬を包まれ、琴はうっとりと目を閉じる。
 じわじわと頬が都筑の体温で温かくなってきた。
「普さんて暖かい」
「筋肉あると体温があがるんだよ」
「じゃあ鍛えてる?」
「多少はね。知ってるだろ?」
 都筑の言いように琴は意味を察し、頷いた。
「うん。背中が好き」
「背中か……」
 琴は体をすり寄せる。
 彼の背中に手を添え、胸元に顔を埋めると深く息をした。
「こうやって背中に触れてると、安心する」
「そう……」
 都筑は毛布を引っ張り上げ、二人の頭まで覆うと琴に被さって、肘で体を支えながら口づけを顔中に落とした。
 都筑のまなざしに行為を求めていると勘づいた琴はきょろきょろとあたりを窺う。
「外から見えませんか?」
「明かりは少ないし、距離もあるから大丈夫。でも声は抑えて」
「じゃあ、激しくしないで」
「……頑張る」
 このところ琴の感度があがったせいか、都筑の愛撫は遠慮がなくなってきた気がする。
 ベッドが壊れるのでは、と思わず不安になる時もあった。
 都筑は琴のパーカーの前を開き、もぞもぞと服の上から胸を揉む。
 ちゅっ、ちゅっ、と耳や首にキスをし、髪をかきあげると生え際にも施してゆく。
 くすぐったさに身をよじれば、都筑は逃がさないと言うように腰をしっかり掴み、自身の下半身で押さえてしまう。
「両手あげてて」
 都筑に従って、琴はバンザイをすると毛布の端を掴んだ。
 服をまくりあげられ、ナイトブラもずらされるとすっかりこりこりになっていた赤い乳首が露わになる。
 都筑は体をずらし、右腕を自由にさせると指の腹でその頂きをなでた。
「あっ……」
 緩い刺激に腰をくねらせ、琴は手を口元にやって声を抑える。
 都筑は甘い香りを放つ谷間に顔を埋め、胸のふくらみに唇をはわせた。
「体、熱いくらいだ。ウィスキーのせいかな」
「た、ぶん……」
「香りも強くなってる」
 都筑は左胸を包み、好きにし始める。
 乳首をこねられ弾かれると、琴は目をぎゅうっと瞑り、唇を噛んだ。
 脚をすりよせると、自然と都筑の脚を挟む格好になる。
 熱くなり始めた体の中心に、都筑はそろっと脚をよせ緩く刺激した。
「あ、ぅ……」
 声をこらえる琴に都筑は耳元で囁く。
「唇切れるよ。俺の肩でも噛んでて」
「服が汚れちゃう……」
「洗えばいい」
 琴は促され、都筑の肩あたりの服を噛んだ。
 すりすりと脚で熱くなった秘部をこすられ、乳首を口に含まれると熱くくぐもった息がふっ、ふっ、と漏れ出る。
 琴はじゅんじゅんする快楽に眉をよせ、蜜が溢れてくるのに気づくと都筑の愛撫を止めさせた。
「どうした?」
「下着……脱ぎます。ズボンが濡れちゃう……」
 琴はごそごそと手を伸ばし、ジャージー生地の柔らかいズボンと、オーバーショーツにTバックを脱ぐ。
 都筑は「あっ」と声をあげ、身を起こした。
「ごめん、夢中になって気づかなかった。下にタオルでも敷くか」
 そういって使用していないタオルをマットに広げ、琴を寝かせた。
 冷えないようにか都筑はすぐに覆い被さり、彼女の肌を手のひらで撫でる。
「普さんも脱いで」
「俺? そうだな……って、ちょっと」
 都筑が驚くのも構わずに、琴は都筑のパーカーのチャックをおろし、カーゴパンツのベルトを外した。
「どうした」
「なんか……私だけテントで裸って、恥ずかしい」
「上は着てるだろ?」
「そうですけど」
 本当のことを言えば、早く都筑と繋がりたくなったのだ。
 顔が熱を持っているのが嫌というほどわかる。
 体の中で得る快楽が強くなってきたこともあるが、キャンプという異空間がそうさせるのか、素肌をくっつけたくて仕方ない。
「早くくっつきたいです」
「……全く、可愛いな」
 都筑はそう言いながら、上を脱ぐとズボンの前を緩めた。
 琴は彼の首に腕を回し、背中をぎゅっと抱きしめると声をたてて笑う。
 都筑もそれにつられたように笑って、唇を深く重ねると舌をじっくり絡める。
「……っあ」
 唾液が絡み合って、ウィスキーの甘い味を微かに感じる。
 口を離し目を開けると視界がぼやけたが、都筑の瞳が広がっているのがかろうじて見える。
 それを見つめていると心の芯まで溶けそうだ。
 体が重くなり、マットに全身を預けると都筑が脚に手を伸ばした。
 脚が開かれ、蜜を溢れさせる秘部が露わになる。 虫の声が聞こえた。
 都筑の指が蜜口に触れ、ゆっくりと沈められてゆく。
 ぐちゅっ、と粘着質な音がして、琴は顔を泣きそうに歪めると腕で顔を隠した。
「こんなに濡れてる……」
「やだ……言わないで」
 都筑は指をずるずると抜いてはまた差し込み、指先を軽く曲げると中の壁をそろそろと撫でる。
「あぁ……っ」
 琴は口を押さえ、服を口元まで引っ張り上げると噛んだ。
「俺の指、溶けそうだ。君の中熱くて……とろけてる」
「なんで言うの……っ」
「言うと締まるんだよ。言葉責めに弱い?」
「知らないっ……!」
 琴は顔をぶんぶん振った。
 都筑の指先が弱い部分を的確に探り、肩を震わせ、息を乱す。
 足先までじんじんする快楽に、頭がぼうっとし始めた。
「あぅっ、ふ……」
 服を噛んで声をこらえると、目をきつく閉じた。眦に涙が溜まる。
「すっかり感じるようになった」
 可愛い、と都筑は満足そうに笑うと鎖骨に口づけた。
 その微かな口づけにも体は跳ねるように反応し、琴は口を開くと上擦った吐息をもらす。
 それに惹かれたのか、都筑は顔を寄せると頬をすり寄せ、耳を軽く口に含んだ。
「普さん……」
「ん?」
「早く欲しい……」
 都筑は目を見開き、涙を浮かべる琴の頬を撫でると心配そうな顔をした。
「ずいぶん積極的だけど……まだほぐしてないよ」
「でも……」
 琴は脚をすり寄せ、熱の解放を訴える体をなだめようとするが、なかなか鎮まってくれない。
 自然に包まれた中だからか、都筑の肌が恋しくてたまらないのだ。
 琴は手を伸ばし、都筑の腰を撫でると熱くなっているモノにそっと触れる。
「え、琴……っ」
 存在感の大きくなったモノはごつごつと固く感じられ、琴は顔を更に熱くさせると下着の上から擦り始めた。
「うっ……ちょっと、待った……」
「普さんのもう固い……けど、だめ?」
「だめじゃないけどっ……」
 彼の下着が徐々に濡れてくる。
 都筑は顔を歪め、荒く息を吐き出すと琴の手を止める。
「大胆だな、準備するから、待ってろ」
 都筑はカーゴパンツのポケットを探り、ゴムを取り出すと身を起こした。
 下着ごと脱ぎ捨て、封を切る。
 琴は体が震えるのを感じた。
 寒さのせいではなく、快楽の熱が疼いて芯を溶かすからだ。
 どきどきと深く打つ心臓をなだめるように胸元で手を組み、都筑を待つ。
 やがて準備を終えた都筑が琴に覆い被さり、唇を合わせるだけのキスをする。
 都筑はふーっと息を吐き出すと、モノの先端を蜜口に触れさせた。
 そのままずるずると赤く膨らんだ粒、花びらを蜜でたっぷり濡らす。
 琴はその刺激に体を震わせ、唇を噛んだ。
「入れるよ」
 都筑がそう言って、蜜で濡れた先端をゆっくり沈めた。
 とぷとぷと重く感じるほどの蜜はモノを包んで、きゅう、と締まった中はいとも簡単に迎えてしまう。
 中の壁が歓迎するかのように、都筑のモノにしがみついた。
「っあ……」
 喉がひりつくような上擦った声がもれ、琴は口を手で覆ってこらえる。
「う、く……すごい……っ」
 都筑も喉を枯らすような声になった。
 モノはそのままスムーズに中に入り込み、きゅう、と締まると奥がきゅんきゅんと唸る。
「んんっ!」
 琴が鼻にかかった声をあげると、都筑は彼女の髪をなでて深く口づける。
「……ゆっくりするから」
 都筑は鼓動を早くしながら、琴にそう声をかける。
 琴は何度も頷いて、背中に手を回すとぎゅっとしがみつく。
 互いの息づかいが鼓膜にへばりつくようだった。
 熱い吐息は耳を焼いて、時折キスをすると唾液で溺れそうになる。
 虫の声が遠くに感じるほど、ぼーっと感覚があやふやになっている。
 ずっ、ずっとマットが都筑の律動に合わせて動き、毛布がずり落ちる。
 それでも寒気を感じないほど、互いの体温で満たされていた。
「っあ……う……普さん……っ」
 琴は脚を腰にからめる。
 中で愛液まみれのモノが、奥に触れては離れてゆく。
 じくじくと体の芯から溶かされそうな官能、それを与えてくれるのが彼だと思うと心まで満たされる。腰をすりよせれば、都筑がしっかりと肩を抱いた。
 肌がくっついて、鼓動が重なって。
 都筑は琴の耳に、唇に指を這わせ、少しも離れないように体をすり寄せた。
 密着した下半身からぬちゅぬちゅとかきまぜられる音が鳴っている。
「琴っ……琴っ……」
 都筑は小さな声で何度も名前を呼んで、胸を揉みしだくと夢中で腰を打ち付けてきた。
「あぅっ」
 琴は白い喉をそらし、胸も中も同時に味わわれると腕を彷徨わせ、枕にしていたクッションをぎゅうっと掴んで顔を歪ませた。
「あっ、むぅ……っうっ」
 じくじくする重い官能が全身に流れていく。
 中の都筑のモノがより固く、熱く、重くなっていると気づくと、無意識に強く締めてしまった。
「あぁっ、くっ……」
 都筑が眉をよせ、琴の頬を手で包む。
「今日、すごいな……っ」
 都筑が求めるままに舌を吸われ、琴はぼんやりした視界で彼の姿を捉える。
 汗に濡れた額に、張り付く短髪。
 きつい情欲で広がった瞳は黒く、琴の顔すら映り込んでいた。
「はあ、はぁ……普さん……」
 中は充血して重く、鈍いが確かな快楽で満たされていた。
 都筑のモノが奥をぐりぐり押し、琴は背中を浮かせるようにして快楽を逃がした。
「やぁっ……あっ、もう……!」
「イきたい?」
「イきたいけどっ……」
 琴は都筑の背中に手を回す。
「一緒がいいっ……!」
 汗で肌が張り付く。都筑は再び琴を寝かせ、キスをすると彼女の細い腰を掴んだ。
「わかった、もう少しだけ我慢して」
 琴は眉をよせ、何度も頷く。
 都筑は琴の体をぎゅうっと抱きよせ、その脚を自身に絡ませると腰を進めた。
 ずっ、ずっ、とさっきよりもじっくりと擦られ、琴はきつい快楽に口を手で覆ってこらえた。
 代わりに涙が溢れ、都筑がそれを唇で拭う。
 はっ、はっ、と都筑の荒い息が肩にかかり、肩が跳ねると同時に中がきゅんきゅん締まる。
「普さっ……普さんっ」
「ああ、もう、イクからっ……」
 びくびくっ、と中が収縮し、都筑の熱いモノを締め付ける。
「うっ、く……琴っ……!」
「ぁ……っ!」
 都筑が苦しげに名を呼んだ、と思った瞬間、ぞくぞくする波が全身に寄せ、気づくと体が小刻みに震えていた。
 都筑が何度か腰を打ち付け、苦しげに息を吐いたと思うと中に熱いものが流れてくる感じがした。
 それになぜか満足感を得て、腕をだらんとマットに投げ出すと琴は目を閉じた。
 都筑の口づけが耳や顔中に落ちてくる。
 それに嬉しさを感じていたが、やがて襲ってくる眠気に身をゆだねると意識もないままに朝を迎えることになった。

***

 ぐったりと重い体を起こすと、美味しそうな匂いを感じてあたりを窺う。
 照明は消えているが、ちゃんとテントの中を確認出来る明るさだ。
「えっ、朝っ!?」
 琴は慌てて身を起こした。
 都筑の姿がない。
 見れば寝間着代わりが置かれていて、すでに行動を開始したのだと分かった。
 時間を確認すれば朝の5時45分。
 琴はかなり寝過ごしたのかと思っていたが、まだ早い時間にほっと胸をなで下ろす。
「普さん?」
 テントの出入り口をそっと開け、外を見ると白い光の中で調理器具を操る彼の姿が見えた。
 流石になれているだけあり、様になる。
 何人か起きている客の姿もあり、都筑が琴に気づいて着替えるよう言った。
「何作ってるんですか?」
 着替えを終えた琴が訊ねると、都筑は昨日の水筒を持ち上げ、鍋を見せた。
「コーヒーを淹れてる。今は焙煎中」
「焙煎?」
「けっこう簡単だよ。こうやって、焦がさないようにまぜてやるんだ」
「こだわり派だ……」
「一人キャンプだとこういう趣味が出来るんだよ。ハマってる人も多いらしい」
「へえ~」
「やってみるか?」
「寝起きだからやらかしそうです」
「なるほど?」
 都筑の淹れたコーヒーを飲み、6時半になると卵をスキレットで焼いて、パンに挟んで食べる。
 朝だとまだ木々すら寝起きのように静かだ。
 湿気の濃い空間はまるで何もかも包んでしまうような、居心地の良さを与えてくれる。
「来たばっかりより、朝の方が好きだな。一晩過ごすと馴染みも出るし」
 都筑の言葉に頷いて、到底届かない木のてっぺんを見上げた。
 片付けを終え、車に戻る途中で琴は振り返る。
 等身大に戻れる、と都筑は言った。
 なんとなくそれが分かった気がする。

おわり。

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